[携帯モード] [URL送信]

pdr
※根元に埋まる(新御)

 花見にいこうと誘えば、案の定嫌そうな顔をされた。
 先週の雨で殆ど散ってしまっているだろうし、昼間の陽気に比べて冬のように寒い深夜にわざわざ外に出る意味がわからないという彼の主張も解る。
 男同士の交際で手を繋いでの外出は勿論、御堂筋の興味のなさからそれらしいイベントは却下される。夜桜見物くらいいいではないか。
 眠いとごねる御堂筋にコートを着せて引きずるようにマンションを出る。二人で暮らし始めて二年経つが桜を見るために外出するのは初めてだった。
 寒いのは新開も嫌いだが、渋々歩く恋人の手を繋いで歩く夜道は普段より暖かく感じた。

「スコップでも持って来ればよかったかな。」
 人気のない公園の隅にある大きな桜の樹の下で呟いた。既に帰りたいと言外に訴えている瞳が細められる。
「ビールやのうてぇ?」
 新開に渡されたパワーバーを口にして言う声は嘲りが混ざっているがどこか投げやりだ。花見と言えばアルコール。御堂筋が嫌うバカ騒ぎのお決まりだ。花見と聞いて連想したのだろう。生憎と一つしかないペットボトルにはスポーツ飲料しか入っていない。
 昼間散々照った太陽のお蔭で桜の根元は乾いていた。ちくちくとする芝の上にそのまま腰を下ろした御堂筋が月に照らされた白い花を見上げる。
 花の白さと、御堂筋の喉の白さが重なった。

 痛いだろうなと他人事のように思う。上着を敷いたとは言え尖った芝は肌に触れて擦り傷を作っている。潤滑油も持ち合わせていなかったので裂けなかったのが不思議な程きつい内壁に新開も痛みを覚えて息を詰まらせた。
「…っ、ふ、みどうす、じくん、声、出した方が楽だと思う…っ」
 俯せ、腰だけ上げさせた身体から低く唸るような声が漏れた。強引に事に及んでおきながら勝手を言うなと抗議しているらしい。
「大丈夫だよ、誰もいない」
 普段寝巻に使っている薄手のシャツをまくり上げ薄く赤みのさした肌に指を這わせた。背骨をなぞり、尾てい骨を強く押せば性器を飲みこんだ内側がきゅうと締まる。上着を掴み、口元に運んで声を殺す様に背中が震えた。助けを求めるように伸ばされた手が桜の根元に触れる。
 先週の雨を耐えきった花弁がはらはら落ちた。強い月光と少し離れた位置にある街灯に照らされたそれは真っ白だった。
「…ん、ぅっ」
 肌に落ちる花弁のわずかな刺激に反応して御堂筋が小さく喘ぐ。白い肌の上に落ちた白い花に興奮して、薄い腰を掴んで乱暴に揺すった。
「ひっ、あ、あっあ」
 内側に吐精すると、つられるように御堂筋も限界を迎えてからすっかり乱れた上着の上に崩れ落ちる。ぜぇぜぇと漏れる息は声を殺すことに必死になりすぎたせいで痛々しい音が混ざっている。引き抜かれる感触に、薄い唇が強く噛まれた。
 薄く開かれた目元が濃い赤に染まり、じわりと涙が滲んでいた。桜の下で彼を抱こうと思いついたのはつい先程で、決して最初からそのつもりで連れ出したわけではなかった。とはいえそれを口にしたところで信じてもらえはしないだろう。
「ごめん。起きれるかい」
 服を整えたところで手を差し出すがあっさりと叩き落とされた。一人では立ちあがれないだろうにと苦笑いして自分から手を伸ばしてくるのを待った。諦めて新開の手を借りるまで、常であれば数分も拗ねればすぐだ。早く帰りたがっていた事もありどうしたのかと顔を覗き込めば大きな瞳が桜を映していた。傾いた月光に反射する花弁は先程と違った色で輝いている。散々渋っていたが彼は存外美しい物を視界に入れるのが嫌いではないのだ。
 水面に反射しているかと錯覚するほど御堂筋の瞳は綺麗に桜を映していた。
「…やっぱりスコップでも持ってくるんだったな」
 新開の呟きが理解できないのか、首を傾げた御堂筋の瞳から桜が消えた。
 未だ手助けを求めようとしない体を抱き起し、体温を分けるように密着して歩き出す。家を出る時よりも下がった気温に御堂筋も逃げようとはしなかった。
 公園の出口に向かう途中にも桜並木がある。行為に及んだ場所に立っていた樹よりも花が散っていた。
 雲のない空から注ぐ月明かりが風に舞う桜の残骸をキラキラと映し出す。
 背を丸めた御堂筋の横顔は新開と同じ高さにあった。ぼんやりとした瞳は風に舞う桜を見つめている。
 花が散る様を見つめ、いつか彼も道の上で散っていくのだろうと新開は思った。そうなった時、きっと彼は自分を捨てていくだろうとも。
 偶然が重なって生まれた奇跡のような関係に、新開は感謝している。いつまでも続かないことも知っている。
「今度来る時はスコップ持ってこようかな」
「…何に使うん」
 訝しげな声に答えず、薄い肩を抱き寄せて歩みを進めた。
 桜の樹の下に彼を埋めても、削り尖った身体では養分にならずきっと美しい花は咲かないだろう。けれど彼を抱いた夜をそこに閉じ込めることはできる。来年の春、彼が花見に付き合ってくれるなら今度は忘れない様に持ってこよう。
 風が強く吹き、寒さに震える身体を寄せて新開は密かに決意した。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!