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pdr
※研磨(東御)
同棲設定





 御堂筋翔にキスをする前、東堂尽八は必ず歯磨きをする。彼が大事にしているものを汚さないために。
 そう告げた時、ならばするなと言われた。キスなどしなくても関係は変わらないし、性欲処理がしたいだけならキスは必要ないと言われた。言われるほど長く、東堂は歯を磨く。
「…今日もするん」
 洗面台に向かっている東堂の背後から呆れた声がした。東堂の歯磨きは長い。御堂筋も長いがその倍は歯を磨く。同じベッドに入る日はその更に倍は磨いていた。
 以前は違った。最低限の時間で済ますこともあった。
「明日から暫く会えないだろう」
 口を濯ぎ、コップを置いて振り返ると眠そうな御堂筋が洗面所の入り口に凭れかかっていた。どうせベッドに行って眠っても起こされるなら待っていてやるということなのだろう。念入りに口を濯いでから眠気で体温の上がった腕を掴み唇を合わせた。眠りに入りかけていた御堂筋がむにゃむにゃと唇を歪ませるのがやけに可愛い。
 長い舌を吸い、甘く噛んで絡める。眠気だけではない脱力をしはじめた体を支えて寝室まで歩いた。力の抜けた体を運ぶのは身長の差があるせいで一苦労だが嫌いではなかった。

 10センチ以上差があるので、行為の最中に唇を合わせるとごくまれに苦しいことがある。
「んっ…」
 下肢を繋げたまま背を丸めた御堂筋の頭に手を伸ばし抱え込み唇を貪る。シーツに投げていた上半身を強引に起こされて不満げな声が漏れた。
「み、どう、すじ」
 浅く、何度も触れる唇の合間から熱い息と共に名前を呼ぶと不機嫌な顔が緩んだ。情けないほど必死になる東堂の顔を見ると、呆れて笑えると以前言っていた事を思い出す。
「ふっ…ぁ」
 苦しい姿勢を和らげるために御堂筋の細長い腕が東堂の首に回された。深くなる口づけに瞼が熱を持った。
 御堂筋の口内を犯す度に彼がどれだけそこを丁寧に扱っているかを東堂は知る。少しも汚れていない。だから汚してはいけない。
 薄いゴム越しに感じる内側よりもずっと、そこに触れることで恋人として許されている気がした。許されるために東堂は彼を抱くようになってから歯を磨く時間が増えた。しすぎても逆効果だと御堂筋に言われた事がある。それは自分の歯を健康に保つための弁に過ぎないのだとブラシで歯を擦りながら内心で返事をした。東堂が汚さない様に磨いているのは自分の歯ではない。
 形の良い頭を強く抱きしめると、痛いと抗議するように御堂筋の指が東堂の髪を掻きまわした。手を放し、シーツに沈んだ身体を追いかけてもう一度唇を合わせる。逃げても追ってくると学んでいる御堂筋は大人しく口を開いて受け入れた。力の抜けた舌と呼吸に合せた僅かな歯の動きにぞくぞくと快感を感じて殆ど動かないまま射精した。
「…ボク、まだなんやけど」
 ようやく解放された御堂筋の唇は普段の薄い色から想像できないほど赤く腫れていた。
「悪い」
 不完全燃焼に唇を尖らせる恋人に苦笑して触れるだけのキスをする。それだけで一度放った熱が上がり始めた。
 明日も、朝起きてすぐに歯を磨こう。寝起きの口の中は雑菌だらけだとどこかで聞いた。歯磨きが終わるまでは朝のキスもできないから、念入りにしなくてはいけない。御堂筋も朝は丁寧に歯を磨くから、並んで磨く。
 寝ぼけた顔で歯を磨く恋人を思い描きながら、腕の中で乱れる姿にこれ以上ないほど幸福を感じた。

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