滲み始めた視界の向こうで、ゆっくりと背中が遠ざかっていく。
一度も目を合わせてくれなかったゼロ。やはり自分と一緒にいてはくれないのだ、と押しつぶされそうな痛みに胸を押さえ、スザクは小さく息を詰めた。
同じ思いを、感じたことがある。
その時は、目の前に背中なんてなかったけれど。
藤堂、ミレイ、ニーナ、次々に脳裏に浮かんでくる人たちの眼差しは温かい。
ゼロとの出会いをくれた。ここにいる事を応援してくれた。なら、次に望むことは。
ぎしりと胸元の手が拳を作る。
この先を、自分が望んでもいいのだろうか――傷つけてまで彼を拒んだ自分が。交わらない視線こそが、お互い本来あるべき姿ではないのか。
気付けばルルーシュはエレベーターのすぐ前に迫っていた。
―また、僕の前から消える
それだけは、耐えられなかった。
『僕が考えて、スザクが動く。そうすれば、出来ない事なんてないさ』
女の子と男の子の中間のような、懐かしい声色がスザクの背中を押した。
―そうだったね、ルルーシュ
考えることは、悩むことは得意じゃない。
「っ、ゼロ!!」
指の先、限界まで伸ばして辛うじて引っかかった服の端に縋るように力を込めながら、スザクは開いた扉の内側へゼロもろとも飛び込んだ。