おあずけ。 三ヶ月もイタリアから出られなくて、やっと日本に来れたのが四日前。 その間、電話の一本もしなかったのは忙しかったからではなくて、電話を繋げばどうしても顔が見たくなるからだ。 でも、そんなディーノの言い訳を恭弥は聞く耳を持たなかった。 実に中学生らしい拗ね方と言うか、寂しかったと言えない恭弥の精一杯の自己表現と言うか。 四日間、無視し続けられている。 今も並盛中の応接室で恭弥はもくもくと風紀の仕事をし、ソファに腰掛けるディーノとは目も合わせない。 それでも出て行けと言われないことに、こっそりと胸の奥で愛を感じているわけだ。 ディーノが恭弥を見ていない間はチラチラと様子を伺う視線はある。 それでそっちを向いてしまえば、すぐにその視線はそらされてしまうので、やっぱり目は合わない。 今日も一日この調子だったら流石にちょっと辛いなと、俯いて仕事している恭弥を盗み見る。 来てからセックスは愚か、まだキスもしていない。 どうしたものかと考えていると、扉をノックする音が聞こえて、見た顔が入ってきた。 「お、跳ね馬。今日も?」 この来日の一日目に会った獄寺だ。 その際に、ディーノは恭弥を怒らせた経緯を軽く話していた。 「…何日目?」 獄寺は哀れんだ表情で小さな声でディーノに問いかける。 ディーノは恭弥に見えないように恭弥に背を向け、獄寺に向き直る形で座り直し、親指だけを折って見せ、四、と示した。 獄寺はそれを見て、すれ違い様にご愁傷様、と小さく声を掛けて、恭弥の元へと近づく。 没収されたアクセサリを返してもらいに来た獄寺に、恭弥は溜息を吐いてじゃらりと重い銀のネックレスやブレスレットを手渡す。 「没収されるって分かってるならつけてこなければいいのに。次につけてきたら返さないよ」 獄寺は注意を聞き流して、それをポケットに仕舞う。 その場でつけるほど馬鹿ではないらしい。 「サンキュ、じゃあ帰るわ。…ちょっとは構ってやれよ」 「煩いよ。早く帰りな」 何のことかなんて言われなくとも分かる様子だが、恭弥はディーノを見ることはない。 それでも嫌われた感じなんてこれっぽっちもしなかった。 「あんまり無視し続けるのはよくねぇぜ?そのうちかみつかれてもしらねーよ?」 没収された腹いせか、もしくは楽しんでいるのか、獄寺は茶化すように言ってさっさと応接室を後にする。 恭弥は扉を睨みつけるようにしてどかりとまた椅子に腰掛けた。 四日間、恭弥の気が済むまでと黙って傍にいたが、耳にした声すらこうして人と話しているものだけ。 限界を感じる。 恭弥はまた机に視線を落として仕事を始めてしまったが、ディーノは静かに立ち上がった。 それでも恭弥はこちらを見なくて、隣に立ってくるりと椅子ごとこちらを向かせた。 流石に邪魔された事に苛立ちを露にした恭弥と目が合う。 「お、やっと目が合ったな」 不機嫌そうに寄せられる眉も、その下の気の強そうな瞳も自分に向けられているというだけで愛らしい。 への字に引き結んでいるだけで何を言おうともしない唇を狙って顎に手を掛け、強引かとも思われるが、唇を掠めることには成功した。 怒って一発くらいは食らうかと思っていたが、恭弥は身動きすることなく、ただ、唇を頑なにする。 閉じられるとそれを拓きたくなるのが男というもので、掠めるだけのつもりが、思わす舌先で唇を撫でてしまう。 合わせたり啄んだり舐めたりと繰り返していると、ぷっくりと膨らんで濡れてくる。 少し強引に舌先をねじ込むと、む、と小さく恭弥が唸った。 折角押し入れた舌を、恭弥の舌が押し出してしまう。 根気よくもう一度。 今度は、む、ではなくて、ん、と少しだけぬるい音になった。 やっぱり押し出してくる舌先を、ディーノは自らのそれを尖らせて刺激する。 ひくりと、恭弥の喉が鳴った。 さすがにまずいと感じたのか、恭弥が身を捩り、肘が机の上の本に当たる。 あ、と目の端で追って、その本が余りにもこの応接室に相応しくないように思えて、ディーノは唇を離した。 「…まさか」 本のタイトルは、犬のしつけ方。 付箋が貼ってあるページがあって、ディーノはそのページを開いた。 犬が悪い事をしたときには、の項目。 目を合わせずに放置するのがよいでしょう。 「恭弥、四日は長すぎる…」 「そこなの?」 ふん、と不遜に恭弥が口角を上げる。 犬扱いされた事自体は最早どうでもいい。 「改めてただいま。やっと話せたな。これ、土産」 渡そうと思ってポケットに忍ばせていた雲属性のリングを恭弥に手渡すと、恭弥は一瞬驚いた顔をして、すぐに、満足そうに笑みに摩り替えた。 両手がディーノに伸びて、金糸をわしわしとかき回す。 「いや、恭弥、それもいいんだけど、犬じゃないからさ…」 ああ、と呟いた恭弥は口吻けを一つ。 まだ在日予定は三日ある。 |