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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(7)-2
 数分でそこに着く。辺りには立ち入り禁止のテープが張られていた。見張りに立っていた所轄の巡査は、恭平を見るなり「ご苦労様です」と敬礼した。恭平と僕は丑松少年をその場に残し、どたどたと藤井氏の部屋へ駆け上がった。

 入口で手袋とビニールの靴カバーとをつけて部屋に入った。恭平と僕は、藤井氏の遺体に瞑目合掌してから、捜査を始めた。初動捜査班は帰っていて、所轄の刑事と制服、鑑識の面々、それと若い部下を連れた本庁の刑事がいた。言わずと知れた小石川警部補である。

「あ、青山さん。芥川さんも。」
 彼は僕らに気づくと近寄ってきた。
「ツイてないですよ、三日前の事件もまだ片付いてないのに。」
「連続殺人かな。」
恭平が言った。
「えっ?」
凌が聞き返した。
「連続殺人ですって?なぜです?」
「ちょっと、待ちたまえ。」
恭平は警部補の質問を遮って、巡査を一人つかまえて聞いた。
「死体は誰も動かしてないだろうね?」
「はい。監察医の先生が来るまで、誰にも動かさせません。」
その実直な熱心さに苦笑しながら、恭平は続けた。
「証人は…銃声を聞いたのは、管理人親子の二人だけだったのかな?」
「いえ、その他に、隣の部屋の沢田さんです。あとの人達は、みんな、多分仕事で留守だったんで…」
「そうか、ご苦労様。」
そう言って彼を解放すると、恭平は独り言のように呟いた。
「自殺じゃないのは確かだ。一目で分かる。あれは遠くから撃ったものだ。」

 この部屋は南北に三間(ま)あり、キッチンの床は板張りで、それ以外の二部屋は畳の上にカーペットが敷かれていた。南の六畳間と真ん中の四畳半の部屋は襖で、四畳半と北側のキッチンはガラス戸で、どちらも少し幅の狭めに作られた四枚戸で仕切られていて、それぞれ左右に引き分けられていた。藤井氏は普段、二部屋を大きな一部屋みたいに使っていたようだ。

 南の部屋の窓の近くにテーブルがある。そしてそのテーブルの北側に、藤井氏が、頭を北に向けて仰向けに倒れていた。目はカッと見開かれ、天井の一点を見つめている。両の指はピンと開かれていた。何よりも驚いたのは、今朝までは黒髪の中に白髪が混ざっていた程度だったのが、今は見事に真っ白である、ということだった。

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