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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(6)-4
 凌が出ていくと、恭平は練馬中央署に電話して、何やら話していた。

 しばらくたってから、恭平は言った。
「光、君に話していないことが、二つあるようだね。」
「僕に話してないこと?」
「一つは、今どうして凌にグラスを出さなかったか。気になってるんだろう?君はのんびり屋の割には繊細だからな。」
「だから『のんびり屋の割に』は余計だよ。」
僕は苦笑した。
「あともう一つは、さっき藤井氏の家で、俺がラッキーを見て感じたことさ。」
「ああ、そのことか。」
「ふう〜、今日は朝っぱらから二人も客が来て、いささか慌ただしいね、光。」

 口では平然と言ったが、恭平はなぜ、僕の胸中を何もかも察してしまうのか、と僕はそら恐ろしくなった。だが、その胸中をも見透かされたら悔しいので、冗談混じりに言った。

「和製ホームズさん、商売繁盛だね。」
「それはそれは、光栄のいたりだね。」
 恭平はまた、悪戯っぽくクスッと笑って言った。
「さて、まず一つ目。なぜ、凌にグラスを出さなかったか。あの男はよくここへ来るんだけど、勤務中は水一杯たりとも飲まないんだ。」
「何だ、そんなことなのか。」

 拍子抜けする僕を、恭平はクスクス笑いながら見ていた。そして、グラスのアイスコーヒーを飲み干して続けた。

「それから、ラッキーの右前足を見たんだが、ラッキーは子供の頃から足が不自由だった、と藤井氏が言ってただろう。あれに嘘はないようだ。
 だが、家内が家内がってしきりに言ってたのは、あれは嘘だな。なぜなら、ラッキーがおとなしかったのは、というより俺に跳び掛からなかったのは、足が不自由だからじゃない、栄養不良なんだよ。」
「栄養不良?」
「つまりあの男はラッキーを殺そうとしてるんだ。奥さんなんか、端(はな)っからいやしない。それほど犬好きだったら、エサやらないでほったらかしにしとく訳ないよ。
 それに、可哀想に、いつもバシバシ殴られてるんだろう、体中、傷だらけだった。ちょっと見、解らないだろ?毛を捲ってみると、ひどいもんだったよ。その『躾の良さ』のお陰で、部屋に食べ物があっても、勝手には食べないんだ。」

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