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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(5)-4
 藤井氏は戸口のところまで送ってきて、僕達が階段を降り姿が見えなくなるまで扉を閉めなかった。僕達が外に出きった時、乱暴に扉を閉める音が聞こえた。


 そのアパートは南向きで、入口の扉が北側で道路に面していた。が、通路に目隠しがあるため、北側の窓から外は見えなくなっていた。おかげで僕らの姿は、少なくとも彼の部屋からは見えない。

 数十メートル先にかわいらしい少年がひとり立っていて、恭平の方ににっこり笑いかけてきた。僕達が彼の方へ近づき、両者の間が5メートルくらいになった時、その少年は「恭平先生!」と叫んで駆け寄ってきた。
「誠、お手柄だったぞ。」
恭平は誠少年の頭を、クシャッとなでた。その少年は別に特に小さい訳ではないのだが、恭平が凄く大きいので、小さく見えた。
「先生、ぼく、少しは役に立った?」
誠少年は、恭平の右腕に飛びついて聞いた。

 漆黒の長めの髪に黒い瞳をした、とても賢そうな少年である。筋が通っていて高い鼻と、ノーブルな唇、その驚くほど大人じみたきれいな顔が、とても印象的だった。

 なるほど、さっき恭平が練馬中央署のあとに電話していた相手はこの少年だったのか。

「光、紹介しよう、例の高村まことくんだ。小学五年生。
 誠、俺の友人の芥川あきら氏。彼は医者なんだ。」
「宜しく、誠くん。」
「初めまして、芥川さん。
 でも、ぼく、あなたのこと、知ってるよ。」
「え、どうしてだい?」
「だって、毎朝、決まって駅に行って、決まって夕方4時半頃、駅に着くんだもん。」
「君は、駅で何してるの?」
「ぼくは、駅のそばの新聞屋さんで、朝夕、配達してます。」
「へえ、えらいんだね、誠君は。
 ところで、昼間は学校じゃないのかい?」
 誠少年はニコッと笑って、
「今日は創立記念日。だから、こうして恭平先生のお手伝いをしてるんです。ぼくも将来、先生みたいに立派な探偵になるんだ。」
と、大きな瞳を輝かせながら言った。

 そのほか、色々話してるうちに、僕達は自分達のマンションの前に帰り着いた。誠少年は「先生バイバイッ」と叫んだなり、どこかへ走っていってしまった。

 時刻は9時半になったところである。

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