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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(5)-3
 僕は、男の言葉使いが、初めて会った時のようにまた丁寧になっているのがひどく気になった。恭平は気にならないのか、すましているが、聞く訳にもいかなかった。

 藤井氏は再びキッチンの方に向いて言った。
「今、お茶を…」
「いえ、お構いなく。すぐに帰りますから。
 ところで、警察の護衛はどうされました?」
 恭平はニコニコと自然に聞いた。男は少し慌てたらしいが、即答した。
「あ、家内が買い物に行くんで、護衛に…」
「そうですか。
 それじゃあ、他のワンちゃん達はどこにいるんですか?」
「え?ああ、家内が、散歩がてら連れてっているんです。」
「なるほど、そうですか。
 ところで、たばこを持ったまま、ラッキー君のところへ行っても宜しいですか?」
「ええ、ラッキーはおとなしい犬ですから。」

 この不自然な答に恭平はクスッと笑って、ラッキーの方へ歩いていくと、傍(そば)までは行かず、2メートルくらい手前で立ち止まり、右手を差し出した。その手には、いつの間に用意したのか、赤いリボンが一本ぶら下がっている。ラッキーは結構大きい犬で、その赤いリボンを見ると、ウーッと唸ってむっくり立ち上がった。

 犬の視界はモノクロだというが、ヒラヒラした物はやはり気になるのか、今にも恭平に跳び掛かりそうなので、見ている僕はヒヤヒヤした。が、よく見ると、右の前足が確かに不自由そうである。どうやら、跳び掛かるにも跳び掛かれないらしい。となると、藤井氏の言ったことは、まんざら全部嘘だった訳ではなかった。
 恭平は赤いリボンをポケットにしまうと、今度はラッキーのすぐ傍まで行って、しゃがみ込み、頭を撫で始めた。

 この間中、僕と藤井氏は、恭平の仕草をじっと見つめているだけだった。恭平は、頭を撫でたり右前足でお手をさせたりして一頻(ひとしき)り遊んだあと、僕達の方へ向き直った。

 そして、立ち上がってこう言った。
「光、そろそろ帰ろうか。
 藤井さん、どうもありがとうございました。お利口なんですね、ラッキー君は。私も欲しくなったくらいですよ、フフ…」
この恭平の笑い声に、藤井氏はほんの僅かだが、顔色を変えた。
「冗談ですよ、藤井さん。では、これで失礼します。」
「ええ、青山さん、宜しくお願いしますよ。」

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