[携帯モード] [URL送信]

◆青山恭平の事件簿◆
古刹殺人事件(5)-4
「あ、青山先生。ガイシャの亭主の証言によりますと、菜穂子は、朝の8時20分前後に家を出たそうです。ですから、死亡推定時刻は8時20分から9時の間に狭まりました。」
「そうですか、分かりました。」
 恭平は鑑識さんのファイルを僕達に渡し、自分は解剖所見を読んでいた。


 遺体は目を瞑っているので、顔の造形が今一分からない。それで僕は、ホワイト・ボードに貼ってあるガイシャの生前の写真を見た。
 ニコニコしていて、人当たりの良さそうな老婦人である。とても他人から恨みを買うようには思えない。

 鑑識さんの報告では、凶器は、刃渡り15pの片刃の市販のナイフ。指紋なし。引き抜いて、傍に落ちていたらしい。犯行時に犯人は、人を刺す時に刺した人間がよくする怪我をしなかったと思われ、血液型は一種類しか判別出来なかったということである。

 恭平は解剖所見を読み終えて、僕に渡した。


 氏名   立川菜穂子
 年齢   78歳 
 身長   160p 
 血液型  B型
 死因   胸を刺されたことによる心臓損傷
 刺創(しそう) 創口(そうこう)は小さいが、刺した後に捻られており、損傷断面が広く縫合不能で、仮に心臓損傷していなくても、死因になり得たと思われる。


 なるほど、電話で聞いた通りである。

 力哉が聞いてきた。
「あの、『創口は小さいが損傷断面が広く縫合不能』って、どういうことですか?」
僕が答えた。
「ほら、さっき青山さんが言った『捻る』ってことだよ。
 『創にきずあり、傷にきずなし』って言ってね。創傷の定義では『創』は皮膚の破綻を伴う損傷を指し、『傷』は皮膚の破綻を伴わない損傷を指すんだよ。皮膚表面の損傷部分のうち、面積が狭いものを創口、広いものを創面(そうめん)と言うんだ。普通は傷口(きずぐち)って言ってるけどね。」

 力哉を初め、光ヶ丘西署の面々も良く分かっていないようだった。

 岸部署長が聞いて来た。
「あの、芥川さん。大体は分かるんですが…?」
僕は立ち上がると、ホワイト・ボードの方に行って、図を書いた。
「こういうことです。創口、つまり、皮膚の損傷部分は、ナイフの刃の一番幅の広い部分より、精々1o前後長い程度ですが、皮膚の内部では、刃物が捻(ひね)られているので、抉(えぐ)られた状態になっている訳です。」


[*前n][次n#]

40/176ページ


[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!