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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(1)-3
 こんなことを思っているうちに、地下鉄は練馬(ねりま)駅のホームに滑り込んだ。地下鉄から降りた時、僕は初めて、「シャーロック・ホームズ」の推理本を持っていないことに気がついた。
「確かに持っていたのに…電車にでも忘れたのかな?」
本自体には大して価値がある訳でもなかったので、捜そうともせず、さっさと歩き始めた。


 ところが、マンションに帰ってみて驚いた。ちゃんと、エントランスの集合ポストの僕のところに入っていたのだ。

 その時、管理人の石倉さんが小窓を開けて、いつものようにコーヒーを出してくれた。
「芥川さん、お帰りなさい。」
「ただいま、石倉さん。あの、この本、どうしたんですか?」
「あ、その本ですね。さっき青山恭平さんが持ってきたんですよ。」
石倉さんはニコニコしながら言った。
「青山恭平さんですって?」
僕は鸚鵡返(おうむがえ)しに聞き返した。
「石倉さん、もしかしてその恭平さんっていう人の連絡先とか、聞いてくれましたか?」
「あれ、ご存知ないんですか?聞くも何も、この向かいのマンションの、二階のお部屋です。もう随分長く、そう、十年くらい住んでらっしゃいますよ。」
僕は慌ててコーヒーを飲み干した。
「ごちそうさま、石倉さん。」
「あ、ちょっと、どこ行くんです、芥川さん?」
「その恭平さんのところに!」

 石倉さんの話が終わらないうちにエントランスから外へ飛び出した僕は、向かいまで全力疾走した(とは言っても、ほんの4〜5メートルだが)。

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