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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(1)-2
 僕は、大胆にも呼び止めてしまった。
「あ…待って下さい。あの、なぜ…なぜあなたは、そんなに色々と解るのか、教えて下さい。」
 男はゆっくりと振り返ると、にっこりして徐(おもむろ)に言った。
「いや、別に…
 そのブックカバーは、北海道大学の書籍部の限定ですよね。まだ真新しいから、戻られたばかりでしょう。現役の学生さんには見えないから、医学部の研究室の方かな、と。研究室って、一度行くと4〜5年は帰れないことが多いじゃないですか。」

 こんな本一冊から、そんなことまで判ってしまうのか…

 僕は驚くとともに感動した。
「す…凄いですね。学部まで分かるんですか?
 あの、僕は芥川…芥川光(あくたがわ・あきら)です。あなたは?」
「青山恭平(あおやま・きょうへい)です。恭平と呼んで下さい。
 また、お目にかかりたいですね、芥川さん。では、私はこれで…」
「ええ、さようなら、恭平さん。」
 男の後姿を見送った後、僕は、ひとりの男を思い出した。そう、シャーロック・ホームズである。

 あの男、ホームズみたいな奴だ…



 井の頭では、それきり恭平さんに会わなかった。
 午後の4時を回ったので、僕は練馬(ねりま)の我がマンションへと向かった。電車の中で、僕は、恭平さんのことばかり頻(しき)りに考えていた。

 歳はまだ40にはなっていないだろう。34〜5歳ってところか。スッゴい正統派の美男子だったな。キリリとした濃い眉は、意志が強そうな感じがする。黒くてキラキラした瞳は、頭の良さをそのまま表しているようだ。日本人にしてはすごく鼻が高くて、横を向いた時、印象的だった。
 髭は生えてなかったよな。髪はきれいに整髪してある。オールバックがあれだけ似合う日本人って、少ないよな。礼儀正しくて、そのきれいな口元からは一言の間違いもない標準語がもれる。絶えずニコニコしているが、どこかすきがない。
 …身長は、僕より10センチくらい高かったから、185はあるな。細身だが、姿勢が良く、ガッシリしていて、足が長かった。運動が得意そうだ。そして、あの長い指はどうだ!ピアノでも弾きそうじゃないか。

 まさに、シャーロック・ホームズに生き写しだ。彼は架空の人物だが、僕の憧れだからな。こんなに似ている人に会えるなんて!

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