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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬 第1章 恭平という男-1
第1章 恭平という男-1


 僕が初めて恭平に会ったのは、五月も半ばを過ぎて、この東京もいよいよ暑くなる、という時である。僕は北海道から帰ったばかりなので、東京の空気にはまだ馴染めていなかった。それでいつも、郊外の井の頭(いのがしら)公園まで行って、排気ガスを避けていた。僕はいつものように、シャーロック・ホームズの第一巻「緋色の研究」を片手に散歩していた。吸い込まれそうな青空である。


 ある古ぼけた建物の角を曲がろうとした時である。向こうから来た、背がとても高く、年の頃34〜5の男と正面衝突してしまった。
「失礼。気がつきませんで…」
と、その男は、僕が落とした本を拾ってくれ、ほこりをはらって僕に渡しながら、低い腹に響くようないい声で言った。
「あ、ありがとう。いえ、こちらこそ…」
僕は本を受け取ると、お礼とお詫びとを一緒に言った。男は、内ポケットからたばこを出して火をつけると、こっちを見て言った。
「いかがでした、北海道は?」
「えっ?」
僕は驚いて相手を見返した。
「そのことを、なぜ、あなたは…」
知っているのか、という僕のあとの言葉を待たずに、今度は彼が言った。
「いや、別に。」
男はクスッと笑って言った。
「5年くらい、行ってらしたんですか、北海道へ?」
「いえ、4年です。」
「4年…いいですね。私なんか、行ったとしても、その日帰りですよ。」
 僕は考えた。

 なんなんだ、この謎めいた男は?何で、そんなこと、分かるんだろう?

 そう思っていると、
「じゃあ。」
と言って、彼はクルリと背をむけた。

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