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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(3)-5
 この僕達二人の会話の間中、藤井氏は、ソファの背から頭が出ないくらい小さくなっていた。尾行されでもしたのか、何もかもに対して怯えているようだった。


 一方恭平は、しばらく考えてから、静かに言った。
「その犬…ラッキーの特徴をおっしゃって頂けませんか。」
「特徴ですか?そうですね、何しろ平凡な犬ですから…」
「色とか大きさ…それと年齢、拾ってから何年になりますか?」
「えっと、あれは家内が38の誕生日を迎えた年だから…今41だから…と、三年ぐらいになりますかね?」
「何色です?」
「茶ですよ。大きさは結構大きいんですがね、こいつ、気が弱いのか、さっぱり吠えないんですよ。少しは大声の出る犬だったら、最初のセールスマンにけしかけてやることだって出来たんですがね。」
「そんなに吠えないんですか?」
「ええ、そうなんですよ。」

 藤井氏は、自分がここへ何しに来たのか忘れたかの如く、ラッキーという自分の愛犬の悪口をまくしたてた。

「やっぱ気が弱いからなんですね。
 それにあいつは、体に欠陥があるんですよ。右前足が不自由なんです。」

 恭平は、両手の指先をそれぞれ合わせて、人差し指同士をトントンさせ始めた。考えている時の彼の癖である。

「右前足が不自由…いつからです?」
「さあね…家内が拾ってきた時には、もうすでに不自由だった。」
 藤井氏の口調が、段々馴れ馴れしく、というよりも乱暴になってきた。とても紳士とは思えぬ話ぶりである。
「すると…」
恭平は、言葉をそこでやめてしまった。

 藤井氏は怪訝(けげん)そうな目つきをして、恭平の様子を窺(うかが)っている。

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