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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(2)-5
 次の日、いつもより早く目覚めた僕は、散らかっている部屋を少し整理して、五階の窓から向かいのマンションの二階の、恭平の部屋を見下ろした。窓は閉ざされたままだった。

 どうやら名探偵さんは、まだお休みのご様子だ。

 僕は朝の紅茶を飲み終えると、いつものように、スラックスにシャツ、薄手のジャケットという出で立ちで外へ出ていった。助手になりたいという話をどう切り出そうか、散歩しながら考えようと思っていたのである。

 このところ僕の住んでいる街は、パン屋が2〜3件、新装オープンしていた。朝の通りは、美味しそうな焼きたてのパンの匂いでいっぱいである。朝食はまだだったので、つい匂いにつられて、一番大きなパン屋に入っていった。
「これを3つ下さい。」
僕は五百円玉を一枚出して、言った。
「はい、お待ちどう」
店員は愛想良く、パンを4つ袋に入れた。
「あ、3つなんだ、4つもいらな…」
こう言おうとしたら、店員の手は僕をすりぬけて、僕の右の男の方へその袋を差し出した。なるほど、先客がいたのである。と、よく見ると知ってる顔だ。
「恭平!」
パンを4つ買ったのは恭平だった。

 名探偵は、案外、早起きである。

 彼は僕にニコリとして、
「君もここへはよく来るのかな。最近出来たんだよ。
 俺は、このパンが好きでね。ここで買って、裏通りを齧(かじ)って考えながら歩くのが、日課の始まりなんだ。」
と言うと、店を出ようとした。僕は、店員が今度は僕のために包んでくれた袋を慌てて掴んで、あとを追った。おかげでおつりを貰ってくるのを忘れた。


 恭平は背が高い上に、前にも書いたが、足の長さが標準の比よりも長い。もう、10メートル以上離れていた。僕は走って追いついて、息をきらせて言った。
「す…すると、今日も何か事件のことを考えるのかい、恭平?」
「いや、今は暇なんだ。先週、事件を解決してから依頼が来ないんで暇だったんだけど、丁度いい、一緒に齧りながら帰ろう。何も考えないで食べるのは、ちょっと恥ずかしいからね。」

 この、恭平の信じられないような意外な言葉に、僕は益々彼の人間らしさを見つけて、嬉しくなった。

「僕も君に頼みがあるんだよ、恭平。」
 話を切り出しやすくなったので、僕は率直に言ってしまった。
「僕を君の助手にしてほしいんだ。」
「え?」

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