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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(7)-7
 鑑識の仕事が終わり、検死も終わって、遺体は運び出された。恭平はもう一度部屋を見回すと、凌に例の殺人事件との関連性を指摘していた。そのあと、何か指示しているようだった。それから僕のところに戻ってきて、言った。
「光、帰ろうか。」


 正直言って、僕はホッとした。いくら医者とはいえ、毎日毎日死体に出会う訳ではない。況してや、尊敬する教授を頼って北海道に行き、大学の研究室で4年も過ごして東京に戻ってきた就職浪人は、しばらく臨床らしき臨床もしていなかったのだ。恭平の助手になって第一号の事件だから無意識に張り切ってはいたが、はっきり言って、殺人事件の現場は素人にはきつかった。


「そうだね。」
 僕は、表面上はさりげなく内心は大喜びで、言った。二人は階段を無言で降りると、僕達を見て自然におずおずと道を開ける野次馬たちの好奇に満ちた視線を尻目に、歩いて家へ向かった。
 そろそろ昼食の時間だが、とても食べられそうにない。


 歩き始めると、恭平が言った。
「ラッキー、いなかっただろう。」
「ああ。」
「どこへ行ったんだと思う?それにいつ?」
「管理人親子が入った時は、いたのかなあ?」
「いなかっただろうな、恐らく。
 それに俺達だって、しばらくラッキーのこと気づけなかった。死体に気を取られていたからね。だから、二人に聞いても解らないだろうと思うよ。
 第一、藤井氏から犬のことを聞いてなかったら、余計に解らない筈だよ。人間、ない筈のものがあるよりも、ある筈のものがない方が、気づけないんだ。」
「で?」

 僕は、恭平の言ってることの意味は解ったが、言いたいことが解らなかったから、あっさり聞いた。

「管理人親子が入って来た時にラッキーがいたかどうかは知らないが、俺らの時は間違いなくいなかった。
 しかし、現場検証の間中、巡査やら鑑識やら、ずーっとあの部屋には人がいた。ラッキーが自力で出入りすれば、誰かしらの目にとまった筈だ。だが、誰も見てはいない。第一、自力で立てないのに、歩けるとは思えないよな。」
「ということは、」
「誰かの手によって連れ出されたってことさ。」
「いつ?」
「少なくとも管理人親子が入る前だろうな。」

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