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◆青山恭平の事件簿◆
幸福な犬(7)-6
 その時凌が、検死が終わったと言ったので、僕達は話を聞きにドクターのところに集まった。
 凌が言った。
「青山さん、紹介します。監察医の藤社(ふじこそ)先生です。今月から、監察医務院の院長になられました。」
「宜しくお願いします。青山と申します。」
「こちらこそ、宜しく。」

 藤社というドクターは、中肉中背の、白髪で、額の広い、細面の、いかにも学者肌の人だった。とうに還暦を過ぎているだろうが、矍鑠(かくしゃく)としていた。

「直接の死因は、出血多量による失血死です。」
「何ですって!」
 凌は、驚いて叫んだ。
「狙撃されたんでしょう?即死じゃないんですか?」
「ん…警察用語では存じませんが、『即死』という言葉は医学用語ではないので厳密な定義はありませんでしてね。
 普段我々が医学的に『即死』という言葉を使うのは、死亡診断書や死体検案書に『発病又は受傷から死亡までの期間』を書く時くらいですからな。『即死』と記入するためには、受傷した時刻と死亡した時刻とが同じでなければなりません。数分でも経過した後では『即死』とはせんのです。」
「はあ…」
「ですが、交通事故の死者数の統計は、『事故発生から24時間以内に死亡』した人を即死としてとっていますし、その他の事故死もそうですから、同様に考えれば、即死ですな。」
「はい。」
「が…心臓は撃たれていません。撃たれたのは右胸でして、詳しくは解剖してみなければ解りませんが、肺の上の方を撃たれています。それで穴が開いてしまっていて徐々に肺がつぶれてゆき、その間に失血死したのでしょう。
 小石川さん…でしたかな、あなたの仰る意味での即死というには、あまりにも出血量が夥(おびただ)しい。相当、苦しかった筈です。撃たれてから、20〜30分かかって亡くなったと思われます。」
「そうなんですか。分かりました。ありがとうございました。」
「詳しい解剖所見は、後ほどお届けします。どこ宛が宜しいかな?本庁ですか?」
「あ、じゃあ、練馬中央署の署長宛にお願いします。」
「分かりました。」

 凌が藤社先生に挨拶した。恭平や僕も挨拶した。藤社先生は、無表情にあたりを見回して一礼すると、徐 (おもむろ)に回れ右して、出ていかれた。

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