灰色綺譚
想いの重さ
「はっ!!」
ゆ、夢か…まだ忘れられない。
僕が、肩に寄りかかっていたせいで春華はずっと起きていたらしい。
「大丈夫ですか?アレン。」と聞いてくる彼女は、本当に心配そうにしていた。
「いえ、大丈夫ですよ、春華。ちょっと、師匠のことを思い出してしまっただけですので…」
「え?」
きょとんとしてしまった春華が、とても可愛らしい。
まぁ、師匠を思い出してうなされるとは、一般的に思いませんよね。
「う〜ん?」と首を傾げつつ言いながら、僕の頭を撫ででくる。
春華には、ここ数日で軽くだが僕の過去を話してる。
白髪は不気味じゃないかと聞いたら、春華は
『こんなに綺麗な白ですのに?誰ですか、そんな事を言うのは。失礼にも程があるわ。』
と、少々怒ったかのような様子で、僕の了承を取ってから『さらさらしてて、こんなに触り心地良いのに』と、好きなだけ触っていた。
髪を撫でられるなんて、マナ以来だったからすごく久しぶりで心地よかった。
左手も、左目も、彼女は予想外の反応を示した。
『魂を救えるその手が、何で呪いなのですか?』と、逆に質問された。
それに、春華からは、さらに想定外のことを言われた。
『その左目は、アレンのお父様が残したのでしょう?AKUMAになっても、アレンに愛してると言った、深い愛情と絆のある人間が、どうしてアレンを呪うのでしょうか?』
僕はずっと疑問だった。
呪いだと思っていた。
最近では、他にも意味があったのではないかと考える余裕が出来たけれど…
だってマナは、僕のせいであんな事になったのだから。
『AKUMAの魂が見える、という事は、事前に戦う準備が出来るということです。無防備にならないように。』
アクマと人間を見分ける左目。
『愛しているから、その想いだけ残していったのでしょう?アレンが寂しくないように。』
消えずにずっと一緒にあるマナの想い。
『愛しているから、その手段だけ残していったのでしょう?アレンが自力で戦えるように。』
当たり前のように、AKUMAの魂が見えた。
師匠に、団服の事を聞いた時もよく理解できなかった。
でも、自力で戦うためには必要だった。この左目が。
『ねぇ、アレン。貴方のお父様は、深くアレンを愛していたのよ。』
血の繋がりはなかった。
でも、奇怪な腕を持って生まれたために捨てられた僕を、拾い育ててくれた人だった。
【アレン…お前を…愛しているぞ…】
【壊してくれ】
ソレが最後。マナからの言葉。
春華は、僕を否定しない。
全てを、受け入れてくれる。
呪いすらも、愛してくれる。
抱きしめてくれる。
躊躇わずに、触ってくれる。
マナを失ってから、渇望しつつも手に入れられないと、諦めていたものだった。
『私は、アレンと数日しか過ごしておりませんが、その左目も、その左腕も全て含めて…アレンが大好きです。』
僕は、春華という存在を、この短期間で渇望してしまった。
でも、それは久しぶりに心地よい感覚だった。
[*黒白][銀灰#]
[戻る]
無料HPエムペ!