[通常モード] [URL送信]
#2




何故、彼女はグリフィンドールじゃないのか?

僕は何度もそう思った事がある。


多分・・・ううん、絶対に

他の皆だって少なくとも1度はそう思った筈さ。


だって、彼女・・・バッチ先生は

ロンの兄のビルやチャーリーと、とても仲が良くて

フレッドやジョージも一目置いた存在で


おおよそ、スリザリンの人間は好きになれそうにも無い

陽気で賑やかなトンクスとも親友だったし


それに、マクゴナガル先生だって彼女の事を気に入ってた。

バッチ先生の学生時代は、スリザリンの癖に

マクゴナガル先生から大量の寮対抗杯の加点を奪うから


彼女のせいでグリフィンドールはスリザリンに勝つ事が出来ない


そんな噂が立つ程だったって聞いた事がある。



もう、こうして挙げ始めたらキリが無い位

僕はバッチ先生がスリザリン出身だって事に納得が行かなかった。



そう


あの日、あの時

あの場面を、この目にする迄は。










Restart -chapter2-










「そんな・・・馬鹿な・・・・

 俺様が、こんな小僧に敗れるなど・・・


 ・・・・信じられん・・・何故だ?

 何故なんだぁぁぁぁっ!!!」



吼えるように声を張り上げて

断末魔の叫びを上げたヴォルデモートは


魂を幾つにも分けた影響だろうか?

大地にひれ伏す事も無く

両手を空に掲げたまま、不気味な身体は霧散し

黒い霧は、空に吸い込まれるように消え去った。


長かった戦いが


僕とヴォルデモートの戦いが

やっと、幕を閉じた瞬間だった。



その瞬間、僕の目に映るものは

何もかもがスローモーションのように見えて

現実なのか、夢なのか?僕には判断が付かなくなった。



視界の隅には

ヴォルデモートが敗れた事に気づいた死喰い人が


ある者は、力なくその場にへたり込み

ある者は、慌てふためいて逃げ惑い


魔法界を恐怖に陥れた"死喰い人"と言う集団は

既にその機能を一切無くした

力無き、負け犬の集まりに過ぎなかった。


呆然と立ち尽くしたまま

その光景を、ただ視界に入れていただけの僕は


「ハリー!!」


僕を呼ぶその声に、ふと我に返った。


次の瞬間、僕の胸の中に飛び込んできた

この世で最も愛しい人

ジニーの身体をそっと抱き締め、名前を呼んだ。


「・・・ジニー?」


「ハリー、すごいわ!

 あなた、とうとうやったのよ!あの人に勝った!!


 ホントに、ホントに・・・ああ、もう!」


満面の笑みで勢い良く話しかけてきたジニーは

そう言うと、涙を浮かべて僕の胸に顔を埋めた。

その仕草はおばさんそっくりで、僕はくすりと笑みを浮かべた。


トン


不意に小突かれて目を向けると

僕の肩に肘を乗せたロンが


「おい、やったな」


ニヤリと笑い


「ハリー?

 あなたってば、本当に最高よ」


ロンの隣で、ハーマイオニーもニコリと笑った。


周囲を見渡すと、既にあちこちの小競り合いも終息し

捕らえられた死喰い人を1箇所に集めたり

負傷者の救護活動が開始されていた。



「こんなに有利に物事が運ぶなんて

 おっどろいたよなぁ?」


目を丸くしてそう告げるロンに

僕は黙ったまま頷いた。


そう、最後のこの戦いは

僕らが考えているよりもスムーズに

驚くほどに優位に事が運ばれた。


そしてそれは、認めたくないけれど

"あの"スネイプのお陰だと言うのは、紛れも無い事実。


ヴォルデモートに指揮を任されていたアイツは

"ここ一番"と言う時に、くるりと向きを変え

僕らに向ける筈だった杖先を、今まで味方だった奴らに向けた。


何が起こったのか理解を出来なかった死喰い人達は

途端に統制を失い、あっという間に騎士団の杖に倒れて行った。


お陰でこちら側に大きな被害は無く争いは終結したが

僕には、何故スネイプがそんな行動を起こしたのかが分からない。

・・・死喰い人には勝ち目が無いと思ったから、また裏切ったのだろうか?




そんな疑問が拭い去れないまま

激しい戦いの跡地をうろつく黒い影を

僕はいつの間にか捕らえて追いかけていた。


後悔に駆られているのだろうか?

それとも、居心地が悪いのだろうか?


スネイプの行動は、柄にも無く落ち着きが無く

まるで何かを探しているようだった。



そんな僕の耳に、ルーピンとトンクスの会話が飛び込んできた。


「ニンファドーラ」


「どうしたの?リーマス。そんな浮かない顔をして」


「落ち着いて、聞いて欲しい。

 ・・・メアリーの姿が見つからないんだ。何処にも」


ルーピンのその言葉に

僕たちは一斉に彼らの方を振り向いた。


「そんな・・・」


そう呟いたトンクスは

青褪めた顔のまま、ローブを翻して駆け出した。


それを見届けたルーピンは、僕らの視線に気付き

笑顔で話し掛けてきたが、その表情は曇っていた。


「やぁ、ハリー。良くやったね」


その言葉に、僕は何も答えられなかった。

ルーピンは、苦笑を浮かべて話を続けた。


「隠しても仕方が無いね。

 今 君たちが聞いたように、メアリーの行方が分からない。

 出来れば、君たちも一緒に探してもらえないかい?」


そう告げられた瞬間


「メアリー!」


叫ぶように名を呼ぶ声が聞こえ

僕たちは一斉に声のした方を向いた。


声の主はスネイプだった。


どうやら、スネイプが探していたのは彼女だったらしい。

でも、その名を叫んだスネイプが駆ける先には

戦いの後の瓦礫の山しか見つからない。


スネイプの行動が理解出来なくて、僕とロンが顔を見合わせていると

ハーマイオニーが"あっ"と息を呑み、瓦礫の山を指差した。


そこに見えたのは、黒くて小さな布切れ。


瓦礫の隙間から顔を出しているその布が何を意味しているのか

一瞬の間を置いて理解をした僕たちは

衝撃的な事実に言葉を失い、全員その場に固まった。


でも、それと同時に

何食わぬ顔をしてバッチ先生の名を呼ぶ

スネイプの姿に嫌悪感を示していたのも事実だった。


「・・・裏切り者のくせに」


思わず口に出してしまった僕に、ルーピンは静かに首を振った。


「それは違うよ、ハリー。


 ・・・尤も、この事実を知って居るのは

 騎士団の中でもほんの一部の人間だけだから

 君たちがそう思うのは無理も無いけどね。


 今は多くを語るのはよそう。

 でも、これだけは理解してやって欲しいんだ。


 セブルスもメアリーも、今日の日の為に命を賭けて来た。

 この1年、彼らはそれぞれの持ち場で我々が有利になるように努めたんだ。

 信じられないかもしれないけれど、事実が物語っているとは思わないかい?」


ルーピンの言葉には重みがあるように感じられ

僕たちは、反論する事が出来なかった。


「今度、時間のある時にゆっくりと話をしよう」


そう言うと、ルーピンは

瓦礫の山を退かしている人たちの許へ向かった。


成す術の無い僕らは

無言のままルーピンの後に続いた。



僕たちが現場に到着した頃には、瓦礫の山は殆ど退けられていて

目を閉じ、血まみれの状態で横たわっているバッチ先生を

スネイプがそっと抱きかかえていた。


その時のスネイプの表情に、僕はドキリとさせられた。

今まで、何を考えているのか判らない

ただ憎いだけの存在だったスネイプが

その時、何を想っていたか、僕には手に取るように分かった。


そして僕は思い出す

スネイプと、バッチ先生が恋人同士だったと言う事を。


この時のスネイプの表情は、嘘偽りの無い物だった。

愛しい者を思うその表情は、本物だと言う事が僕には分かった。

何故なら、僕にもジニーと言う存在が居るから。



スネイプの腕に抱えられたバッチ先生を

応援に駆けつけたマダム・ポンフリーが診ていた。


「今ならまだ間に合います。

 とにかく、私たちで応急処置の蘇生術を。


 それから、急いで聖マンゴへ連れて行きましょう」


そうマダム・ポンフリーが告げると

数人の杖先がバッチ先生に向けられ、閃光が放たれた。

・・・まるで、希望の光を分け与えるように。


マクゴナガル先生は、事後処理を数人に託して

全てが終ったら怪我人を連れて聖マンゴへ全員来るように告げると

スネイプにゆっくりと頷いて姿を消した。



スネイプは、今まで見た事の無いような優しい表情を浮かべ

目を閉じたままのバッチ先生に何かを告げると

マクゴナガル先生を追って、バッチ先生を抱えたまま姿を消した。


その時の、2人の光景を見て僕は思ったんだ。


何故、バッチ先生がスリザリンに選ばれたのか。



この時僕は、まだスネイプを信用していたわけじゃないけれど

スネイプの、バッチ先生に対する愛情ってヤツには確信が持てていた。


だから、こう思ったんだ。


バッチ先生がスリザリンに選ばれたのは

多分、スネイプを救う為なんだって。


スネイプが、2度と間違った道を歩かないように

闇にその身を投じる事になっても

それに染まらず、有るべき所へ戻ってこれるように


その為に、彼女はスリザリンに選ばれたのだと

そう思わずにはいられなかった。


スネイプの、バッチ先生への愛は

揺らぐ事の無い物だと知った瞬間だった

あの光景を見てしまったから。



そう思ったら、何だか急に切なくなって

僕はジニーの肩をそっと抱き寄せた。




-----------------


というわけで、今回はハリー視点でした。
…考えてみれば、ハリーをまともに書いたのは始めてです(汗)

今回の中編は、書きすぎると本編のネタバレになっちゃうし
何処までどう書いたものかと悶々しながら書いてます。
何気にルートンは大好きです。えへ。

2006.6.23 雪姫花



[*前へ][次へ#]

2/52ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!