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寧ろ今のは酔っているからOK出来た話でもある。

本当に俺でいいの!?と思いつつもPBとお仕事が出来ることに半端ない喜びと期待を抱いてしまって、結局俺の勝手な判断でこの場で快諾をしてしまったんだけど、結果的にはマネージャーからも事務所からも「先ず相談しろ」と言われたくらいで怒られはしなかった。

寧ろ「良くやった」と言って貰えたからまあそっちは良かったんだけど、問題はMV出演がどうとかの話ではなかった…って言うか。
今日の諸々のやり取りがあったことで、俺とPBとの関係について双方の事務所で話し合いの場が設けられることにまでなってしまったから、予想以上に大事になってしまったのは事実だ。

まあその話はまた後日、機会があればどこかで。


「んじゃあそろそろ二次会に移りましょーかねー」


時間的にもタイミング的にもここだと言う時に声を上げた透さんに同意した戸山さんが「一旦締めようか。ここは南にしとく?」と南さんに締めの挨拶を振る。
振られた南さんもそれが妥当だと言う反応ですんなりとその役を引き受けようとしたみたいだったけど、玲司さんが「あ、待って。俺ここで抜けるから俺がいっとく」と軽い感じで名乗り出たから皆の目が点になった。


「「は?抜ける?」」

「うん。葉太連れて帰ってやんなきゃだから」

「「はあ?」」

「え、何言ってるんすか?葉太くんも二次会連れて行きますけど?」

「あーそれは駄目。これ以上飲ませたらマジで潰れる」

「それは潰れた時に考えたら良くない?え?流石に瀬戸さんいないとかあり得ないっすよ」


透さんの言うことは尤もだと俺も思う。
余程の理由がない限りPBのメンバーが欠けた状態の二次会なんて開く意味がないだろうし、それが玲司さんってなったら尚更だ。

おまけに理由が俺の送迎の為だとか、流石にそれはふざけている。


「玲司さん俺、一人で帰れますから。玲司さんは絶対に残らないと駄目です」

「うーん」

「駄目です。絶対駄目。一人で帰ります。タクシー呼べば直ぐです」


タクシーは乗ってるだけだから大丈夫だと強めに訴えると、それには玲司さんも納得してくれたようだ。
結構あっさりと「分かった」と答えてくれたから俺も皆も安心したんだけど、その後彼が俺の耳元でこっそり「じゃあ先に俺んち帰っといて」と囁いてきたから俺の目が再び点になった。


「え…?」

「後で鍵渡すから、うちで待っててな」

「え、えっ?」


何それどう言うこと?と動揺する俺に一瞬不敵な笑みを見せた彼が、それから直ぐその場の皆に向かって「じゃあ一旦南が締めますねー」と声を掛けた。

ちょっと待ってちゃんと説明して!?と言いたかったけど、そのまますんなりと南さんによる締めの挨拶が始まってしまってそれどころじゃなくなった。

いや、俺からしたら挨拶の方がそれどころじゃなかったんだけどね…!?

お陰で南さんが何を喋っていたのかその内容は殆ど頭に残っていない。
非常に申し訳ないけど。


「じゃあ皆さんお疲れ様でしたー」

「お疲れ様でしたー」

「二次会行く人はこっちでー」

「はーい」


皆のやり取りを見ながら未だに「どうしよう、どうしたら良いの?」とそわそわしている俺の元へ玲司さんがやってきて、俺の肩を支えるように腕を回しながらメンバーに向かって「タクシー拾ってくるからちょい待ってて」と声を掛けた。


「んもう瀬戸さん過保護〜ナイススパダリ〜」

「そりゃあ大事な嫁だからな」

「調子乗んなって。お前のどこがスパダリなんだよ。お前が旦那とか心配と不安しかねーだろ」

「あーはいはい分かってる分かってる。いつものヤキモチな」

「は?音楽性以外でお前に嫉妬したことねえわ」

「おーそれはどーもー」


じゃあ行ってくるわ、と言ってスパっと会話を終わらせた玲司さんが俺の肩を抱いたまま出口に向かって歩き始めた。

周りにいる人達は俺とPBの絡みを全部ではないにしろ目の前で見ていた人達だから、今更俺達の距離感に何かを言ってくる人はいない。
寧ろ「本当に仲良いね」とか「瀬戸くんをよろしく〜」とか肯定的な発言しか聞こえてこないから俺も危うく勘違いしそうになる。

俺と玲司さんの個人的な関係が皆にも認めて貰えているんだ、と。

メンバーの皆さんと菅さんには認めて貰えているんだろうけど、そう言えば楽屋で曖昧になっていた俺と玲司さんの本当の関係については結局そのまま流れてしまったな…
説明しなくて済んだのは良かったけど、後で何か言われたりしないか…

玲司さんもどう言うつもりでいるんだろうなぁ…とぼんやり考えながら外へ出ると、丁度出た所に植田さんの姿があった。


「あ、植田さん!今日は来てくれてありがとうございました」

「それはこちらこそ。楽しい会でしたね」

「っすね。マジで。まあ俺はこの後もあるけど」

「主役だからね。二次会も楽しんで」

「うん!植田さんも気を付けて帰ってくださいねー」

「ありがとう」


それじゃあ、と言って軽く会釈をした植田さんがそのままその場を去ろうとして、何かを思い出したかのように立ち止まった。
それから俺達の側まで歩み寄って来た彼が、玲司さんに向かってひっそりと「羽目を外し過ぎないようにね」と囁いて、意味深な笑みを見せる。

俺はそれが何の話なのかよく分からなかったんだけど、隣で玲司さんが「まあそれは無理な話じゃん?」と楽しそうな声で返していたから二人の間ではちゃんと通じ合っていたみたいだ。

植田さんはその後、俺に向かって「お気を付けて」と言葉を掛けてからその場を去って行った。
それも普通に”気を付けて帰って”と言う意味だと受け取って「ありがとうございます。お休みなさい」と返したんだけど、本当はそこに別の意味も含まれていただなんて、この時の俺が気付ける筈もなかった。


「前に教えた住所残ってる?」

「あ、はい…」

「じゃあもし分かんなかったら連絡して。てか部屋着いたら連絡入れといて」

「っ…はい…」

「ん。じゃあこれ」


落とすなよ、と言われて渡された玲司さんの家の鍵は、俺が預かっているスペアではなくて普段彼が使っているメインの鍵だから紛失なんてしてしまったら大変だ。
しっかりと両手で受け取ったそれをバッグの中に大事に仕舞い、それから玲司さんに目を向ける。


「どした?」

「っ…あの…俺も二次会に、行くのは…」

「駄目。流石に俺もこれ以上は葉太が触られてるとこ見てらんないし、可愛い葉太を見せたくない」

「ッ!?」


え、そ、そう言う理由?

予想外の返答に衝撃を受ける俺を見て「当たり前だろ」と言った玲司さんが、それからぐるっと周囲を見渡し、そして俺の耳元に口を寄せてくる。


「葉太は”俺の”なんだから」

「!!」

「帰ったらいっぱい可愛がってやるからな。ちゃんといい子で待ってて」

「ッ……」


とんでもない台詞をとんでもない声で囁かれ、ぐんっと一気に体温が上昇した。

どうして俺が一人で先に玲司さんの部屋に行く必要があるのか。
その理由は一つしか思い浮かばなくて、でもそれは俺の勘違いかも知れなくて。
ちゃんとした言葉も約束もないままのことだったから、そうやって勝手に一人で期待しないようにしていたけれど。

今の言葉を聞いて、俺の考えが間違っていなかったんだと分かった。
それと同時に、熱くなった身体に喜びと期待の感情が湧き起こる。


「――までお願いします」


捕まえたタクシーの運転手さんに住所を伝えた後、玲司さんの手が俺の頬をさらりと撫でる。
「また後で」と言う甘い響きと共に離れていったその手を目で追うことしか出来ない。

ゆっくりと閉められたドアの向こうにいる彼を、結局はタクシーが走り去るまでじっと見つめ続けることしか出来なかった。




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