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ぶすっとしてしまった玲司さんを見て、これはもしかして…?と驚きと期待で目を丸くさせていたら、植田さんがふっと声を出して笑った。
玲司さんと二人揃って視線を彼に向けると「すみません、つい」と言いつつも彼の笑みが更に深くなる。


「身近で似たようなやり取りを目にしたことがあったので、思い出したら可笑しくて」

「え?ああ、それはいいんすけど、植田さんもそんな風に笑うんだーって思っちゃった」

「…最近よく言われます。そんなに仏頂面してたかなってその度に思うんですけど、まあしてたんでしょうね」

「や、別に仏頂面ではなかったですよ。でも今は何か、俺と一緒なのかなって思ったってゆーか」


ん?と首を傾げた植田さんに玲司さんが伺うような視線を向けて「あー、いや。アレだったら答えなくていいんすけど」と前置きをしてから恐る恐る訊ねる。


「植田さんも恋愛してんのかなー…って?」


滅茶苦茶ストレートな質問だな、と思った。
その辺りが玲司さんらしいと言えばそうなんだけど。

訊かれた彼は少し困ったような表情で笑った後。
俺達の顔を交互に見てから、その視線の先を南さんに向けた。


「今のは聞かなかったことにした方が良いヤツ?」


その投げ掛けに対する返答は菅さんの方からあって、すかさず「そうしていただけますと有難いです」と答えた彼が玲司さんを含めたメンバーの人達に「気が緩んでますよ」と鋭い視線を向ける。

俺はまず植田さんが何者なのかを知らない上に、目の前で交わされていたやり取りの内容を理解出来ていなかったから全く反応を示せていなかったんだけど。
菅さんの注意を受けて玲司さんがハッとしたような顔で俺の方に視線を投げてきたから、今皆の頭の中で何がどうなっていたのかを大体理解することが出来た。

でももう、遅いっぽいよね。
と言うか、玲司さんがそんな顔でこっちを向いちゃったせいで植田さんも確信しちゃったんじゃないかなと思う。

俺と玲司さんがそう言う関係なんだ、と言うことを。

せめて玲司さんがこっちを見なかったら、彼がただいま絶賛恋愛中だと言うことは知られてしまってもその相手が誰かまでは植田さんも分からなかった筈。

この時は俺もそう考えていたんだけど、実は植田さんも最初の段階から俺達の関係を薄々感じ取っていたと言うことを後で知った。


「ところで、そちらの方をご紹介いただいても?」

「あ、ああ、えっと。こいつの職業は俳優なんすけど、」

「成る程。それなら尚更気を付けてあげないといけなかったですね」


「勿論、口外はしませんけど」と付け足して苦笑する植田さんに、玲司さんが「助かります」と言って同じく苦笑を返す。

まあ玲司さんも”恋愛してますよ”って言うのをそれとなく言っちゃってただけで、今回は植田さんの勘が鋭かったことの方が大きいのかも知れない。
気が緩んでしまっていたのは事実だっただろうけど。


「俳優をされていらっしゃるなら、もしかしたらまたどこかでお会いする機会があるかも知れませんね」

「え…?」

「申し遅れましたが、アズールプロモーションと言う会社でイベンターをしております、植田和也(ウエダカズヤ)と申します」

「あっ、河原葉太です。俳優って言ってもまだまだ新人なので、全然テレビとかには出ていないんですけど…っ」

「じゃあ、これからご活躍される予定と言うことですね」


それは楽しみですね、と俺に対してではなく玲司さんに向けて言ったらしい植田さんに「うん」と頷いた玲司さんが少し照れたような表情で笑う。

口外しないとは言ってくれてたけど、今この場ではなかったことにはしてくれない…ってことなのかな。

見た感じの印象で俺も植田さんに対して不安のようなものは抱いてはいない。
でもそれとは別で、初対面の相手に自分の恋愛事情に触れられるのは少し恥ずかしいと思ってしまう。

話題を逸らすように「イベンターってことは、」と切り出して今日のLIVEについて訊いてみる。


「今日のLIVEは植田さんのところが運営されていた、ってことで合ってますか?」

「そうです。PBの皆さんとはよくお仕事をさせていただいているんですよ」

「へえ…!そうだったんですね…!」


だから二人はLIVEの話を親しげにしていたのか。
メンバーの皆と仲が良さそうだったのもそう言うことだったんだ、と漸く納得することが出来た。

納得はしたけど、彼はつまり完全に裏方の人間だと言うことが分かって、勿体ないなあ…なんてちょっと失礼なことを思ってしまった。
だからつい、俺も余計なことを口走ってしまう。


「何て言うか、めちゃくちゃ整ったお顔立ち…?をされていたので、てっきり植田さんも表舞台に立たれてる方なのかと思ってました」

「ああいえ、それは…」


それに対して直ぐさま否定の姿勢を見せた彼だったけど、俺の横にいる玲司さんを見た途端にその表情が苦笑に変わった。
つられるように俺も玲司さんの表情を確認して、やっぱり玲司さんヤキモチ妬いてる…?と確信に近い気付きをしてしまったせいで俺の方は口元を緩めてしまう。


「…それ、喜んでる時の顔」

「すいません。でも…」

「もしかして今のわざと?」

「え?…何がですか?」

「…んな訳ないんだよなぁ。知ってる」


はあ、と玲司さんが溜息を吐く。

俺のにやつきはしっかりとバレていたみたいだけど、わざとって言うのは何のことだろう。
それが分からずにいる俺をじと目で見ていた玲司さんが、不意にその表情をふっと緩ませてくしゃりと俺の髪をかき混ぜてきた。


「わっ…」

「ま、いいわ。張り合う相手じゃないし」

「…?」

「いいって言ってんの。そんな可愛い顔すんなって」

「えっ!?かわっ…」


可愛いとかは流石にそんなにも堂々と言わない方が良いんじゃないだろうか。

若干焦りながら植田さんの反応を伺ったら目が合った瞬間ににこりと微笑まれた。
うわ、やっぱり美形が過ぎる…とか思ってしまっている間に玲司さんが横から俺の肩を抱き寄せ、先程の目を植田さんに対して向ける。


「あんま葉太に愛想振り撒かないでくださいよ。こいつイケメン大好きだから惚れちゃったら困る」

「なっ…!イケメンが好きとかじゃないって言ってるじゃないですか…!」

「どーだか」

「いやっ本当ですって!てか俺、植田さんのことは格好良いとは思いますけど、それは当たり前に好きとかそう言うことじゃ――」

「じゃあ俺の方が好き?」

「…えっ」


えっ!

「な、何を…っ」と動揺する俺に玲司さんが再度同じ質問を投げ掛けてくる。
俺の方がって、まず植田さんと比較すること自体が間違ってるしそれはこの場で堂々と答えられるようなことでもない。

玲司さんどうしちゃったの?と軽く混乱していると、痺れを切らした様子の菅さんが「いい加減にしてください」と強めの注意をした。


「それ以上続けるようなら河原さんにはご帰宅いただきます」

「え、やだ」

「でしたら、分かりますよね?」


鋭い視線と共に投げ掛けられた玲司さんが、その表情にはしっかりと反省の色を浮かべて「はーい」と返事をする。
でもその返事自体が軽く聞こえたからか、菅さんは「絶対分かってないですよね」と言って重たい溜息を吐いていた。


「貴方には後で個人的にお話させて貰います。打ち上げの後も残ってくださいね」

「えっ?いや無理っす。打ち上げ終わったら葉太といちゃつく予定だから明日にして」

「ええっ!?」


いやそれは俺も聞いてないんですけどぉ!?と唖然とする俺の視界に、菅さんの恐怖の笑みが映り込む。
「あ、菅マネガチギレだ」と零された透さんの台詞を聞いて俺までもがその怖ろしさに怯んでしまった。




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あきゅろす。
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