[携帯モード] [URL送信]
4 ×



突然そんな所を触られて平然としていられる男なんて存在するのだろうか。
よっぽど触られ慣れているか、それ相応の関係性が築かれた間柄じゃない限りは不可能だと思う。

この場合はどちらにも該当しない。
つまり俺は非常に動揺している。


「なっ、なにっ…」

「ちょっと硬くなってる」

「ッ、そっ…ッ…」


それを確かめたかったのならもう十分なくらいに伝わっているだろうに。
何故彼はその手の動きを止めようとしないのか。


「やっ、ちょっ…」

「俺のキスで感じてくれたんだ」

「ッ、そんなのっ…いやっちょっともうマジでそれ以上はっ」

「中途半端なままだと辛いだろ」


そう言って変な正義を見せつけてきた彼が、防御力の低いパジャマの防壁を突き破ってその手を中へと侵入させてきた。
そうなるともう、殆ど攻め落とされてしまったようなもので。


「尊さん…ッ」


震える声で名前を呼んだそのタイミングで、着信音だと思われる電子音がこの場に鳴り響いた。
助かった…と本気で安堵したのは言うまでもないだろう。

ピタリと動きを止めたまま2秒ほど経過した後、その手をすっと引いた尊さんがポケットから取り出したスマホを操作して耳に当てる。
聞こえた内容からしてどうやら再配達依頼の電話だったようだ。
今このタイミングで電話をかけてきてくれた見知らぬその女性に俺は心の底から感謝の意を表したい。

いつも通りの爽やかな声で「ちょっと待っていただけますか」と言って立ち上がった尊さんが、一度何か言いたげな目を俺に向けてから、急いだ様子で玄関から飛び出して行く。

大方、このままここで待っていて欲しいとでも思っていたんだろう。
仕方ないからいい子にして待っててやるけど、次はねーからな?

多少乱れた衣服を整え、正座をしたままの状態で後ろへ1.5メートル程下がっていく。
1分くらいして戻ってきた尊さんは俺が座っている場所を見て全てを察してくれたようで、額に手を当てながら「ごめん…」と言って重たい溜息を吐いた。

イケメンの行動って統一されてんのかって思うくらい尊さんが森野さんと同じことをするから、物凄く微妙な気持ちになる。
まるで俺の中で二人がチューチューなトレインをしているみたいだ。

え、待ってそれめちゃくちゃ面白くない?
今度二人揃ったらやって貰お。
動画撮って拡散しよ。おばちゃん達に。


「ごめんってそれ今どんな気持ちで言ってます?」

「っ……やり過ぎたなって、反省してる。あと、嫌がってるのに…無理矢理…」

「それが分かってるなら次から気を付けてください。俺が受け入れたのはキスだけです」


それ以上は許可していないと伝えると、尊さんは「分かった…ごめん…」と言ってその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。

腰が抜けたのかってくらいの勢いだったから流石に心配になったよね。
「大丈夫ですかっ?」と身を乗り出すと、尊さんはこっちに向かってパーにした手を見せながら「大丈夫だから動かないで」と言ってきた。

俺が自分の為に張った予防線は、しっかり機能しているみたいだ。


「…嫌われたかと思った…」

「…その心配があったなら、やる前に止めるべきでしたね」

「ほんとだよな……情けな…」

「…どっかの誰かと同じこと言わないでくださいよ」


ついうっかり口を滑らせると、尊さんが膝に埋めていた顔を上げてこっちを見た。
険しく寄せられてしまっている眉を見て、しまった…と思ったけど今のはなかったことにはして貰えそうにない。


「どっかの誰かって、誰のこと?」

「いや、架空の人物です」

「それは流石に無理があるだろ」

「無理を通してでも吐く気がないって言う意思表示です」

「それもう”何か”はあったんだって言っちゃってるようなもんだぞ」

「おーっと、俺のお口ったらうっかりさんなんだから」


えへっと笑って誤魔化したらすかさず「誰に何された?」と訊かれて俺の笑みが益々深くなった。
俺にはもう笑って誤魔化すと言う方法しか残されていない。


「誰からも何もされておりませんけど、しいて言うなら昨日は家族と友人から誕生日のお祝いをして貰いましたね」


なんの考えもなしに言った言葉だったけど、どうやらその中の”誕生日”と言うワードが尊さんに上手く引っ掛かってくれたようだ。
そう言えば、と言う顔をして「まだ言ってなかったわ…」と漏らした彼にここぞとばかりに詰め寄る。


「そうですよ。まだ言って貰ってません。まだ何も聞いてません」

「ん、ごめん。遅くなったけど、誕生日おめでとう」

「へへ。ありがとうございます。俺にちゃんとした誕生日プレゼントをくれたのは尊さんだけだから、嬉しいです」


大変申し訳ないことに床の上に置いたままにされているトゥンちゃん達が入った箱を手で差しながらにこりと笑うと、漸く尊さんの表情にいつもの笑みが浮かんだ。


「ご両親からも貰えなかったの?」

「ケーキは冷蔵庫に入ってましたし、夕飯は俺の好きなメニューでしたけど、残念ながら物品はなかったですね」

「そっか。まあ俺も食べ物だから同じようなもんだけど…」

「そんなことないですよ。俺の為にわざわざ持って来てくれたことも嬉しいですし、俺が前に食べたいって言ってたのを覚えててくれたのも嬉しいです」


正直な気持ちを伝えてから改めてお礼を言うと、尊さんは「喜んで貰えて良かった」と言って安心したように笑っていた。

もうその笑顔を見せられちゃたらさ?
全部チャラにしてやってもいいんじゃないかな?ってなるよね?
イケメンは笑ってる方が良いに決まってるんだから。
ね?そうだよね?

激甘じゃん、俺。


「あのさ、連絡先交換して貰っても良い?個人的な方の」

「なるほど。そうすればもし担当が代わったとしても連絡を取る手段が確保出来ますね」

「いや、代わんないって。それは絶対代わってやらない」

「それって尊さんが決められることなんですか?まあこの近辺のお姉様方がアスカ運輸の上層部にかけ合えば、その評価と言う名の圧力でどうにか出来るのかも知れませんけど」


「あ、これもオフレコで」と付け足すと尊さんがぶっと吹き出した。

冗談だと思っているかも知れないけどあの人達はマジでそれくらいのことはやるぞ。
それくらい尊LOVEだぞあの人達。
尊さんの圧倒的爽やかスマイルにメロっちゃって大変なんだから。
話を聞かされる俺が。

まあそのLOVEは尊さんだけに注がれている訳じゃないから、罪な女性達だなあまったくもうって感じだけども。

そんなこんなで、近所で有名なイケメン配達員の個人的な連絡先を入手してしまった俺な訳だけども。


「基本的にスマホは放置するタイプの人間なので返信とか遅いかも知れませんって先に言っときます」

「それは気にしなくて良いよ。返信待ってる間、勝手にドキドキしとく」

「え、まるで恋する乙女みたいな台詞」

「ははっ。まあ、みたいなもんだから」

「………」


いや、さ。
もう既に照れた返しに対してもう一個照れを上乗せするようなこと言ってくんの止めて貰えませんかね。
余計なこと言ったわーってなるじゃん。

なんだよもう。余計なこと言ったわー。




[*前へ][次へ#]

4/6ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!