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そもそも俺が直輝さんと尊さんと親しくなったきっかけは、近所のお姉様方に彼らの情報提供を求められるようになったからでもあって。

「甘い物は好きなのかしら?」とか「お休みの日は何をしているのかしら?」とか。
直接訊くのはちょっと躊躇っちゃうわって言う純粋な乙女心に「はいはいさり気なく訊いときますねー」って感じで協力してあげている内に、その二人とよく話すようになった。

本当ならその流れで翔平さんも同じように打ち解けることが出来ていたのかも知れないけど、徳川さん一派の方々は彼のミステリアスな雰囲気に惚れているからあまり情報を求めなかったんだよね。
寧ろ知らないままでいたい、みたいな。

だからずっと翔平さんだけ、ただの配達員と配達先の住人って関係が変わらなかった。

とまあこんな感じで、今更振り返りをした理由なんだけど。


「頭がまともな内に訊いときたいことがあります。ここだけの話、誰とは言いませんけど貴方達三人のことを狙ってる女性達は結構な数いるんですよね。勿論独身の方で」


マダム達は俺と同じく目の保養、もしくは日々の疲れを癒してくれる存在、もっと言うと可愛い息子って認識でいるから、流石に不倫に走ろうとしている人はいない。
俺の知る限りでは、だけど。

でもその俺の知る限りの範囲でも、相当数が三人の彼女ポジションを狙っていることは情報としてある。
それこそマダム達の娘さんだったり、知り合いだったり、まあ色々。普通に独身女性も住んでるし。


「男の人は聞いたことありませんけど、もしかしたらそっちもいるかも知れません」

「いや、流石にないだろ」

「それは分かんないじゃないですか。俺男だし」

「詩音はだって…」

「まあ、それはどっちでもいいんですよ。皆さんのモテ方がえぐいって言いたいだけなんで」


この人達に多少の自覚はあってもそれは恐らく実情の1/3くらいにしかならないんじゃないかと思う。
実際に三人と会話をしている上に、いつの間にか地域の情報屋的ポジションになっている俺が言うんだからある程度の信ぴょう性はあるだろう。
情報屋と言っても”この三人に関して”だけど。


「だから何が言いたいかと言いますと。俺は今まで通り、皆さんの情報を求められたらそれ相応の対価と引き換えに売っちゃうと思うんですけど」

「いや、売るなよ」

「と言うか今までも売ってたの?」

「はい。お二人は。翔平さんのファンは控え目な方が多いので殆どないですけど」


咄嗟に”控え目”と言う言葉に置き換えられた俺は実に教育のなっている優秀な犬だと我ながら思う。
三人の飼い犬になりはしたけど、だからって近所のお姉様方の敵に回った訳ではない。と俺は思っている。


「てか、それ相応の対価って何だよ」

「9割甘い物」

「ねえ、詩音くんの中では俺達の情報と甘い物は同等なの?」

「情報って言っても大したことは流してませんからね。アイドルが世間に公表出来るレベルのことくらいしか売ってません」


こんなにも的確な例えをしたのに二人はいまいち理解が出来ていないようだった。
翔平さんに関してはずっと蚊帳の外って感じだ。


「好きな食べ物は、とかその程度の情報ってことですよ。だから、皆さんが俺のことを好きだとか実は変態だったとか、そんなことは言うつもりはないんですけど」


ないんですけど、じゃないか。なかったんですけど、だな。

それに気付いて言い直したら三人が「えっ…」って反応をしたから「自業自得ですね」と言っておいた。


「お姉様方のコミュニティを舐めたらいけませんよ。誰々さんちの前にずっと配送トラックが止まってたわ、なんて情報は瞬く間に広まるんですから」

「「っ……」」

「ってことなんでうちの母親にもバレてます。皆さんのこと」


あ、流石に変態だってことまではバレてませんけどね?って付け足そうとしたら、三人とも愕然としてしまっていたから俺もすぐに苦笑に切り替えた。

そりゃあ驚くよね。俺もかなり驚いたもん。


「ただまあ、安心してくださいって言っていいのか分かんないですけど。うちの母親からは欲しいものは欲しい時に全部手に入れなさいって教えを説いて貰ったんで、反対はしてないっぽいですね」

「っ、マジで?詩音のお母さんも認めてくれてるの?」

「多分。どこまで本気なのか知りませんけど」

「マジか…じゃあやっぱすぐにでも挨拶しないと…」

「そう、俺が一番訊きたいのはそれなんですよ」


尊さんは前にもそんなことを言っていたから、周りに対して隠し通す気がないのかも知れないけど。
尊さんだけの話で済むのかって言ったら、そうじゃないよなって思う訳で。


「母親は一旦置いとくとして。皆さんに恋人が出来たってことは、お姉様方に言っちゃっていいヤツですか?それとも黙ってた方がいい?」


勿論相手が俺だと言うことは伏せて、と付け加えると三人が悩むような表情を見せた。

言うなって言われたら言わないよ。
でも俺は、どっちか選べるんだったら、言いたい。

その心の中を読んだかのように翔平さんが「詩音くんはどうしたいの」と訊いてきたから、俺も本音をぶっちゃけた。


「俺ってことは隠しといた方がいいと思うけど、彼女出来たっぽいですよってことは言いたい。そしたら本気勢が減って、俺の不安も減るから」


モテモテな彼氏と言う事実は非常に鼻が高いよ。
でも、もしかしたら誰かに取られるかも…って思ったりするのは嫌だ。
すぐ寝不足になるから。

それを伝えたら、三人は嬉しそうに笑って「言ってもいいよ」とすんなり了承してくれた。
それでファンが減るかも知れないけどいいのかと確認も取ったけど、そんなのどうでもいいって言われたからお姉様方にちょっと申し訳なくなりはした。

母親に対しては周りには黙っといてねって言っておくと伝えたら、その判断は母親に任せるとまで言ってくれたからちょっと嬉しくなったよね。
まあ、うちの母親もご近所さんにそんなこと言える訳ないと思うんだけど。


「じゃあ今日はこのままお母さんがお仕事から帰って来られるまでいても良いってことね」

「なんでですか。そんなに挨拶したいんですか」

「いや、謝らないといけないなと思ってたんだよ」


って言うから、てっきり大事な息子さんに手を出してしまって…とかそっち系だと思ったのに。


「この後シーツ汚しちゃうから。責任もって洗濯させてくださいって言わないと」


そう言って笑う尊さんを見て、この人は人間界最強の悪魔だと思った。
そんなカテゴリが存在するのかどうかは知らない。




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