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直輝さんの返答を聞いた柚希は、楽しそうな声で『じゃあそろそろ返事が貰えた感じですか?』と訊ねた。
これで俺が柚希に対して相談をしていたと言う事実はある意味証明出来たとは思うんだけど。
如何せん、空気が非常によろしくない。
「貰えたよ」
『そうですか。詩音は誰も選べないって言ってましたけど、結局なんて答えたんですか』
柚希の問い掛けに対して、直輝さんは俺を見つめながら「全員選んでくれた」と答えた。
”全員を選ぶ”と言う表現があるのか。それは俺も思いつかなかった。
そんな言い方も出来るんだな…と思ったらちょっとだけ気持ちが軽くなる。
『やっぱりそうなりますよね。詩音、良かったね』
「っ…うん」
『あ、一応俺も微力ながら、皆さんの方に向かって詩音の背中を押してあげてたんですよ』
「へえ。相談に乗って貰ってたって言うのは詩音くんから聞いたけど、随分と寛容な子なんだね」
『寛容、ですか。詩音が幸せなら良いって思ってるだけですよ。そうじゃなかったら、俺だって応援は出来ません』
その瞬間、突然柚希の声が一気に温度を下げたように聞こえた。
俺が感じ取れたくらいだ。
他の三人だって、何も思わなかったことはなかったようだ。
「心配しなくても、詩音くんに悲しい思いなんてさせないから」
そう答えたのは徳川さんで。
初めて聞くその声に柚希もきっと思うところはあっただろうに、特に何も言わずに『そうですか』と答えていたからやっぱ柚希すげえわってなった。
状況を呑み込む能力もだし、直前の俺に対する台詞もそうだ。
俺が幸せなら良いだなんて、そんなこと堂々と言ってくれちゃって。
わざと試すような真似をしてしまったことは反省しなきゃだけど、これでみんなも柚希がいかに良い友達かってことが分かっただろう。
だから「もういいですよね?」と三人に対して確認を取ったんだけど、それでもまだ納得出来てなかったっぽくて。
「これは詩音くんの彼氏として言わせて貰うんだけど、ゲームはまだしも、今後は実際に詩音くんと会うようなことは控えて欲しい」
「えっ…」
そんなことを言い出した徳川さんに唖然とした目を向けると、電話の向こうで柚希が『そこまで制限される筋合いはありません』と答えた。
それには俺も激しく同意してしまう。
『ゲームだって、貴方達に許可されてしてることじゃないです。ご存じないかも知れませんけど、俺と詩音は一年以上一緒にゲームやってる仲なんですよ。束縛が過ぎると詩音に嫌われますよ』
「詩音くんを束縛してるのはスノーの方だと思うけど」
『え…?』
急に話し始めたからまさかとは思ったけど、その名前を口にしたってことは徳川さんもそう言うつもりなんだろう。
あーあ、言っちゃうんだ…と思いながら徳川さんを見つめていたら、彼が「詩音くんじゃなくてシュガって言った方がいいか」と独り言を呟くように言った。
『不躾な質問ですけど、貴方はどなたですか』
「サトだよ」
『えっ…』
流石にその回答には柚希も驚きを隠せなかったようだ。
状況を理解しようとしていたのか、暫く無言が続いたから本気で衝撃を受けていたんだと思う。
『…それ、詩音に言ってなかったですよね?』
「そうだね。そのことを話したのは昨日だけど、気付いたのは詩音くんだった」
『ずっと隠してたってことですか。監視でもしてたんですか?』
「その推測は尤もだと思う。勿論そんなつもりもないし、詩音くんからもそんな風には言われなかった。でも、その考えに至るってことは君も――」
『一緒にしないでください』
柚希のそんな声を聴くのは初めてだった。
突き放すような言い方をした柚希に驚く俺の側で三人が視線を交わし合う。
「一緒にはしてないよ。君は詩音くんの親友らしいけど、俺達は友達じゃないからね」
『はあ、そうですか。詩音が聞いてなかったら色々言わせて貰ってるところですけど、まあ今は我慢します』
「そこまで言ったんだったら言えばいいのに。詩音くんの前だと出せない本音なの?」
『何か深読みされてるようですけど、俺はただ詩音に嫌な思いをさせたくないだけですよ』
「へえ。そうやって懐柔したんだ。詩音くんのこと」
「もう止めてくださいよ」
いい加減にして欲しい。
こんなの、黙って聞いてられない。
寄ってたかって、まるで柚希を悪者にでっちあげるみたいなことをして。
そこまでのことをする必要はないと思うし、そんなことをする人達だなんて思いたくもない。
「ごめん柚希。嫌なこと言ってごめん」
『詩音が謝ることじゃないよ。俺がちょっと出しゃばっちゃったから。俺の方こそごめん』
「ッ…謝らないでいいよ。柚希だって何も悪くない。でもごめん。あとはこっちで解決させるから、俺から掛けといて悪いけどもう電話切ってもいいかな」
『…このまま切って大丈夫?俺は何を言われても――』
「俺が嫌だから」
ここまで言われてもまだ俺の心配を優先出来る柚希に、心の底から申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
こんなことになるなら軽々しく口にするんじゃなかった。
俺と柚希の関係は言葉にすれば”親友”で間違いないけど、俺達が築いてきた関係は目には見えないものだ。
だから他の三人には分からないんだ。
「これ以上柚希のこと、色々言われたくない」
『…ありがとう。詩音は優しいね。でも、俺が理由で喧嘩されるのは嫌だな』
「分かってる。しないから安心して」
『そっか。じゃあ良いけど、俺はずっと詩音の味方だから』
「ありがとう。また連絡するよ」
『うん。分かった。じゃあ』
じゃあ、と言って通話を終了させ、それから大きく溜息を吐いた。
がくんと項垂れると周りから遠慮がちに名前を呼ばれたけど、その拍子に自分の萎んだちんこが目に入ったからつい笑ってしまった。
こんな格好で、俺は一体何をしているのやら。
「柚希が優しい奴で良かったですね。普通ならあんなこと言われたらキレてますよ」
「「……」」
「まあ、貴方達が柚希のことをどう思っていようと、俺が柚希のことを親友だと思う気持ちに変わりはないですから」
そう言って伏せていた顔を上げると、みんな同じような顔をして何か言いたそうに俺を見ていた。
納得いってないって言うのはそれだけで伝わってきたけど、そもそもこの話は最初からお互いの意見が交わることなんてないんだよ。
俺もさっさとそれを説明してあげたら良かったんだ。
「意味分かってないみたいですけど、柚希が俺をどう思うかじゃなくて、俺が柚希をどう思うかって話ですからね?」
なんか勝手に柚希が俺のことを好きなんじゃないかとか言って騒いでるけど。
俺からしたらそれってそんなに重要なことなんだろうか?って思ってしまう。
「もし仮に柚希が俺のことをそう言う意味で好きだったとしても、俺にとって柚希は親友です。で、貴方達は俺の彼氏です。そもそも立ってる場所が違うんですよ」
分かりますか?と投げ掛けると、今度は三人の方が溜息を吐きながら項垂れてしまった。
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