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何をそんなに怒っているのか。
ネットで知り合った人とリアルで会ったことに対してなら分かるけど、柚希が俺のことを好きとかそう言う話なら理解出来ない。

ただもうえっちなことをしている場合じゃないってことは理解出来たから、徳川さんのソレからそっと手を離したら鋭い眼差しを向けられた。
ただでさえ萎えていた俺のモノも余計に萎えてしまう。


「なに…柚希は俺の親友ってだけで…」

「親友、か。ネット上でもよくそんな風に言い合ってたけど、リアルでも随分親しくなってるみたいだね」

「それは…ってかそもそも、柚希と会ったのは三人のことを相談する為で…」


本当は言うつもりなんてなかったけど三人に納得して貰う為だと思ったら仕方ない。

”それはどう言う意味だ”と書いた顔を一斉に向けてきた三人にちゃんと事情を説明し始めたんだけど、その途中でこの話もしたらまずかったんだと言うことに気付いてしまった。

ただそっちに関してはもう直輝さんには言ってしまっていることで。
「だからあの子ともキスしたんだ」と嫌味のように吐き捨てた直輝さんの言葉に、他二人が過剰な反応を見せる。


「キス?はあ?何で?」

「詩音くん自身が誰とでもキス出来る人間なのかを確認する為に、詩音くんの方からあの子にキスして欲しいって頼んだって、詩音くんが自分で言ってた」


俺が、と言う点をここぞとばかりに強調して説明してくれた直輝さんについつい苦笑を漏らしてしまった。
この人達が柚希と俺の関係を疑って嫉妬してるってのはもう分かったけど、何もそこまで邪険に扱わなくたっていいじゃないかと思ってしまう。


「直輝さんが言ったことは本当ですけど、柚希はただ真剣に俺の相談に乗ってくれてただけですよ」

「幾ら相談に乗ってたからって、普通は同性相手にキスまで出来ないでしょ」

「ですね。詩音には悪いけど、その子にも絶対下心があったよ」

「んー。なんでそうなるかな。柚希は最初からずっと俺達のことを応援してくれてましたよ?」


そんな風に言われると柚希に対して申し訳なくなる…と漏らすと、三人が同時に呆れたような溜息を吐いた。
なんで溜息を吐かれたのか理解していない俺を見て、また更に深い溜息が落とされる。


「駄目だなこれ。完全に洗脳されてるわ。やり手っぽかったですか?」

「そう見えなくはなかったかな。俺のことはかなり警戒してるみたいだったし、敵意も向けられてた」

「いや…どっちかって言うとそれは直輝さんの方でしょ」


よく言うよ、と思ったら口からぽろっと零れてしまっていた。
相変わらず怖い顔して「何が?」と訊いてくる直輝さんに柚希から聞いた話を伝える。


「柚希本人が言ってましたけど、直輝さんだって柚希のこと睨んでたんでしょ?」

「だから?俺がその子に敵意を向けるのは当然でしょ。詩音くんに告白した後だったんだから」

「いやそれ、俺の友達全員にするつもりですか?」

「…やけに庇うね」

「本当のこと言ってるだけですよ。そんなに言うなら今から柚希に電話でもして確認しましょうか?俺たちの関係って親友だよね?って」


あまりにもしつこいから俺もつい嫌味っぽい言い方をしてしまった。
流石に今のは半分くらい冗談のつもりだったけど、意外にも彼らの方が乗り気になってしまって。


「いいよ。しなよ。俺達の目の前で」

「えっ…」

「詩音くんが言ったんでしょ」

「ちゃんとスピーカーにしろよ。じゃないと聞こえないから」

「いや、…」

「声を聞けば僕も相手が本当にスノーかどうか分かる」

「っ…あの、柚希は徳川さんのことは…」

「するなら早くして。僕もこのままの状態でいたくない」


…だったらパンツとズボン履けばいいじゃん。それを言うなら俺は全裸だぞ。

そう思ったけど今は空気を読んで黙っておいた。

でもこの時俺はどうやら空気の読み間違いをしていたようだ。
こんな状況になっているんだからもう続きなんてないだろうと思っていた。

三人に見守られながら柚希に電話を掛けると、いっそ出ないでくれと言う俺の願いも虚しくすぐに通話状態になってしまった。


『もしもし?詩音?』

「あっ…今、電話大丈夫?」

『ん?うん。大丈夫だよ。どした?』

「えっと…」


なんて言えばいいんだ…と悩んでいたら尊さんが小声で「スピーカー」と促してきた。
渋々通話をスピーカー状態にした後、このままだと柚希に対しても申し訳ないからこの状況をさっさと終わらせるべく単刀直入に「柚希と俺ってさ」と切り出す。


『うん?』

「親友だよね?」

『…またあの人達のことで何かあった?』


柚希はいつもの相談だと思ったようだけど”またあの人達”と言うワードを聞いて周りの空気が少しピリついたのを肌で感じた。


「いや、特に何もないんだけど。柚希もそう思ってくれてるかなって確認したくなったって言うか…」

『はは。急に不安になったの?』

「う、うん、まあ…」


そう言う訳じゃないのにそう言うことにしてしまったせいで、いつもの柚希の甘さが発動してしまった。
『何それ可愛い』と言って笑う柚希を画面越しに睨む三人が視界に入ってうっかり怯えた声が漏れそうになる。


『俺にとって詩音は、特別大切な友達だよ。不安になるなら毎日言ってあげようか?』

「えっ、それはいい。大丈夫」

『遠慮しなくていいのに』

「いや、遠慮とかではなく…」

『俺も詩音にとって特別?』

「え?うん、それは勿論」


即答したら隣で尊さんが「おい」と怒ってるっぽい声を出してしまった。

いや、おいはこっちの台詞。
この状況で喋ったら一発アウトだから。

慌てて「しー!」ってジェスチャーをしたけど、もう遅かったっぽい。
と言うか、電話の向こうで柚希がクスクス笑ってるから「えっ?」ってなった。


『誰かいるでしょ』

「えっ!?」

『途中からスピーカーにしなかった?』

「えっ!」

『詩音の様子も普段と違うし、誰かいそうな雰囲気はしてたよ』

「ええ…」


そ、それは流石に鋭すぎやしませんか柚希きゅん…

ってことは、誰かいるかも知れないって分かってて甘さを振りまいてたのか。
強過ぎるなそれ。


『俺にそんなこと確認させるってことは、もしかして森野さんですか?』

「!!」


もしかして柚希には透視する力でも備わっているんじゃないだろうか。
ナチュラルにそう思ってしまうくらい的確な発言をした柚希に対して、驚きっぱなしの俺に代わって直輝さんが答えた。


「正解。でもあと二人いる」




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あきゅろす。
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