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それでも気付くことが出来たのは、俺の言葉や態度から滲み出るものを徳川さんがちゃんと拾ってくれていたから、なんだろうか。

俺のことをちゃんと見る、だとか。
そんな風に俺が欲しい言葉を簡単に口にすることが出来るのは、徳川さんだからなんだろうか。

それとも、あの二人も気付いているけど言わないだけなのか。

それは分からないけど、徳川さんがあの二人と違うと言うことだけは毎回困るくらい思い知らされる。
だから俺の気持ちも、この人に流れていきそうになるんだ。

でも、俺があの二人に求めるものと徳川さんに求めるものは違っていて。


「徳川さんは、俺のことよく見てくれてるんですね」

『…好きだから』


あらまあ。
そう言うことはストレートに言っちゃうんだもんなぁ。


「ふふ」

『…笑ってる?』

「デレてます。めちゃくちゃ」


笑いながら自白すると『え…』と短く驚いた声が聞こえて、その後無言になった。
何か言われるまで黙っていようと思って徳川さんの返答を待っていたら、少し経ってから『今が一番、詩音くんが遠く感じる…』と呟くように言われて今度は俺が驚く。


「今の時間でどんだけ捻じ曲がった経路を辿ったらそんな答えに辿り着くんですか?デレてるって言ったんですよ?」

『ああ、うん。そうじゃない。今はもう直接会って話せる関係になれたのに、それでも会えないからって意味で…』

「え?」

『今までは画面越しのやり取りしか出来なかったから、会えなくて当然だと思えてた。でも今の僕は…欲深くなってるから。今直ぐ会って、詩音くんの顔を見て話したいと思ってしまう』


でもそれは出来ない。だから遠いんだ、ってことらしい。

まじでさ。ほんとにもう。
デレてるって言ってる相手によくそんなことが言えるよね。


「そうゆーのって、会えないと思うから余計に会いたくなるもんなんじゃないですかね」

『…そうだね』

「じゃあ、会えたらいいってことじゃないですか。今すぐは無理でも、会える約束が出来たらまだマシになりますよね?」

『それは、まあ。会えるなら』

「会えるでしょ。会えますよ。俺だって今徳川さんと同じ状況になってるんですよ」


会えなきゃ俺も困るんだよ。
今この瞬間の会いたいって感情を薄めて貰わなきゃ、今日も寝られなくなってしまう。

それを伝えたら疲れたような声で『ごめん。もう、勘弁して欲しい』と言われた。


「なんですかそれ」

『…僕には甘過ぎるって言ったと思う』

「は?…ああ、俺が?」

『そう』

「別に今のは意識して甘いこと言おうとしたつもりはないです。さっさと俺と言う人間に慣れてください」

『無理』


いや、即答すんなよ。
そこはちょっとくらい頑張ろうかなって思おうよ。諦めんな。


「そりゃあ俺だって今の徳川さんにはまだ全然慣れてないですよ?でも徳川さんが自分から俺のこと甘やかしてくれるって言ったんじゃないですか。だったら俺だって甘えますよ」

『…うん、ごめん。早く慣れるように努力する。でも、対面してる時に詩音くんにそんな風に言われたら、我慢が出来なくなる…と思う』

「それは…」


内容にもよるんじゃなかろうか。
キスは今更拒む理由なんてないし、少しの触れ合いくらいなら…

と言うかその前に、俺はまだ返事をしていないんだよね。


「それがどこまで可能かって言うのは、俺と徳川さんの関係がどうなるか次第だと思うんですよ」

『…そうだね。でもまだ、詩音くんは…』


気持ちが決まっていないんじゃないかと言いたいんだろう。
今の話の流れからしても、そこの決断は焦らなくてもいいと思ってくれていそうな感じもする。

直輝さんにももう少し甘えさせてくださいって言ってあるし、尊さんは分からないけど多分あの人も急いではいないんだろうけど。


「もう出しちゃってます。答えって言うか、返事」


数時間前に出したてほやほやの答えだけど、どんだけ時間を掛けても俺からはもうその答えしか生まれることはないだろう。
そう言い切れるくらいには、ちゃんと考えて出した答えだと思ってる。


「それって結構大切な話だと思うんで、今この電話で伝えるのは嫌なんですけど」


勿体ぶりたい訳じゃない。
さっきまで会いたいとかそんな感じの話をしていたんだから徳川さんだって悪い返事じゃないことはなんとなく感じ取ってくれているとは思うけど、それでも俺はちゃんと会って徳川さんの反応を見ながら話したい。

面と向かってても感情が読み取り辛いところがまだまだあるのに、電話で彼の反応を探るのは不可能に近いと思うんだよね。
例え言葉にして貰ったって、顔が見えなきゃ幾らでも嘘を吐くことが出来るだろ。


『分かった。会って話そう』

「我がまま言ってすいません」

『いや、僕も会って話すべきことだと思う』

「なら良かった」


でもそうなるとその返事を伝えるのは徳川さんよりもあの二人の方が先になると思うから、あの二人の反応次第では内容が変わってしまう部分もあるかも知れないけど。

とりあえず徳川さんはいつが休みなのか。いつ会えそうなのか。
それを訊ねたら彼が『明日』だと答えるから。

そんなことある?って驚いた後に、なんだか笑けてきちゃってさ。
ミラクル過ぎるけど、そう言うことならもうしょうがなくない?ってなっちゃったんだよね。

だから、徳川さんに対して「じゃあ明日、うちに来てください」って答えてOKを貰った後。
直輝さんと尊さんのメッセージに対しても全く同じ文章を送っておいた。

と言うことで明日俺は、この家でイケメン三人と会うことになりました。

みんなそれぞれテンション上がってる感じだったから二人きりじゃなくてごめんね?って罪悪感はあったけど、それを上回る期待と高揚感、それから半端ない緊張で結局俺はその日もなかなか寝付くことが出来なかった。

どうやったって寝不足は不可避だったようだ。
まあでも今回は仕方ないだろう。
告白の返事をするなんて大イベントが待ち構えている上に、相手が×3なんだから。

しかもある意味普通の返事じゃないからな。
返事をした後にどうなるかが全く読めない分、緊張と不安も高まってしまうのはしょうがないと思う。

それでも三人同時に会えることなんて早々ないだろうから、かなり楽しみでもあった。

もしも何とかならなかった時はしっかり柚希に慰めて貰おうと思いながら、その後2時間くらいかけてなんとか眠りに就いた詩音なのであった。




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