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ピンポーンと鳴って目が覚めた。

枕元に投げていたスマホで時刻を確認したら11:45と表示されていた。
今日は昨日よりは早起き出来たみたいだ。

のそりと起き上がってベッドから抜け出すともう一度インターホンが鳴らされた。
今日も今日とて「はいはいはーい」と返事をしながら階段を降りる。

そう言えば昨日、マイマザーが今日指定の荷物はないって言ってた筈なんだけどなあ。
通販ポチリ回数は自重しないけどとりあえず今日の分はないから安心しろって言われてたからさっきまで爆睡してたのに。
こんな昼飯時に俺の安らかな眠りを妨害してきたのはどこのどいつだ。

とりあえず上下ともに服を着ていることを確認し、今日もモニター越しに来客を確認することなく玄関の鍵を開けてドアを押してみる。


「あ!良かったいてくれて」


中から顔を覗かせた俺を見て、眩しいくらいに表情を輝かせた配達員こと馬場さんが「お届け物でーす」と言って小さな紙袋を差し出してきた。


「え、こんなタイプの荷物もあったんですね?」


思いっきり中に入ってる箱が見えちゃってるけどそう言うスタイル?
送り状とかも付いてないし…と思いながら小綺麗な紙袋を観察していると、馬場さんが「荷物じゃないって」と言って楽しそうに笑う。


「それは俺から詩音への誕生日プレゼント」

「え?マジですか?」


素で吃驚している俺を見て悪戯っぽく笑った馬場さんが「開けてみたら?」と開封の儀を促してきた。
ここで開けるのもなんだからとりあえず彼を玄関の中に招き入れ、立ったままもなんだから二人並んで段差に腰を下ろす。

「えーなんだろう」とわくわくした声を出しながら箱を取り出すと甘い匂いがほんのりと漂ってきた。
あーこれは確実に俺が好きなやつ、と期待を更に膨らませながら蓋を開けると中にはなんと。
ビッグでカラフルなマカロン…いや、トゥンカロンが敷き詰められていた。


「馬場さんマジでイケメン最高愛してる」


呪文を唱えながらトゥンカロン達を見つめる俺の目はさぞかしキラキラと輝いているだろう。
まあ俺にはこのトゥンちゃん達の方が光り輝いて見えるけどな、とハートを熱くさせていたら、横から伸びてきた手がピンク色の子を選んで摘み上げた。

え、俺のトゥンちゃん…

奪われた悲しみの溢れる目を彼に向けると、これまた男前な表情で微笑んでいる彼が「あーん」と言いながら俺の口元にピンクを運んできた。
あーこれバレたらまた俺近所のおばちゃん達にボコられちゃうよぉ…と思いつつ、無抵抗にぽかりと開けられた俺の口の中にそれの一部が押し込まれる。


「ん、ほへほっひい」

「え?何て言った?」


ん、これおっきいって言った。
でもそれを伝える手段はないから一旦無視して咀嚼にいそしむことにする。

なんかこのまま食べさせてくれるっぽいからここは彼の厚意に甘えることにしよう。
馬場さんも楽しそうな顔をしてるからまあいいんじゃないだろうか。

あむあむもぐもぐしながら甘い&美味いを口いっぱいに頬張っている俺の横で馬場さんが「詩音って口ちっさいよなぁ」と独り言を呟く。
それに対して心の中で「そうなんすよね〜」と返しながら幸せも一緒に噛み締めていたら、今度は彼が「美味しい?」と訊ねてきた。

いやいや何言っちゃってんのこの人って感じなんだけど。
そんなの美味しいに決まってるじゃないか馬鹿野郎。
もうめちゃくちゃ苺!って感じの甘酸っぱさも堪らんし、何よりもこの馬鹿みたいに詰められたクリームが「私は糖です!」って主張してる感じが最高なのよ。

緩みきった表情でこくこくと何度も頷いていると、残りの半分弱を俺の口から取り上げた彼が「俺も食べて良い?」と訊いてきた。

え、俺のトゥンちゃん…とまたまた悲しげに瞳を揺らしてしまったけれど、まあこれは馬場さんが持ってきてくれたものだしな。
まだ箱の中には沢山の仲間達がいるしな。
まあまあ一口くらい彼に差し出してもいいでしょう。

お口の中のをごっくんしてから「一口食べたら返してください」とケチケチ発言をすると、馬場さんが「了解」と笑って半分弱の更に半分をかじった。
そのまま何故か彼の顔がこっちに近付いてくるから、あれもしかしてこれってそれ?と危険を察知して身体を後ろに引いたらすかさず後頭部に手が回された。


「えっ……ん?」


カサッとした感触が唇に触れ、ああこれは馬場さんの唇ではなくトゥンちゃんだ、と安心したのも束の間。
その直後、ぐっと押し込まれた甘味とともにぬるっとした軟体がお口の中に侵入してきた。

……ああこれはクリームではなく馬場さんのべろだ。

くそう、さっきのはフェイントだったか。
俺としたことが、糖を前にして油断してしまったようだ。

ここは一先ず口の中のものを飲み込んでしまってから対応すべきだったのに、俺もこの急な展開に結構テンパってしまっていたらしい。
真っ先に彼の舌を押し返そうとしたせいで、舌同士がぶつかった瞬間にれろっと舐められそのままちゅぽっと吸われてしまった。


「んぁっ…ッ」


なんて破廉恥な音を立てやがるんだ!と文句を言ってやりたかったけどこの時はそれどころじゃなかったんだ。
逃げたいけど頭は押さえられてるし舌も捕まっちゃってるし。
どうしたらいいのってなってる間に口の中にあった塊を飲み込んでしまって、まあ簡単に言うと噎せた。

馬場さんもやばいと思ったんだろうね。
俺が咳き込む直前にすっと顔を離した彼は危険察知能力が相当高い人だと思うわ。
俺も俺で瞬時に口元を手で押さえて何が何でも口から外へは飛び出さないようにしたから、対応力が凄いと思うし偉いと思う。

そんな俺に「大丈夫っ?」と心配したような声を掛けながら背中をとんとんしてきた馬場さんは傍から見たら「超優しい流石イケメン!」って感じなんだろうけど、原因はアンタだぞ。

とりあえず大惨事は免れることが出来たから良かったものの。
まだ鼻の奥がむずむずする感覚を残したまま「何するん、ですか」と彼を睨むと、なんかその瞬間に誰かが魔法か何かを使ったっぽい。
気付いたら1分くらい前の状況に戻っていて、ちゃっかりしっかり馬場さんの舌が再び俺の口内に不法侵入してきてしまっていた。

おいおいおいおい誰得の魔法なんだこれ。
馬場得か?馬場得なのか?

こいつも森野と同じなのか!


「んっ、ちょっ…なにすっ…んんッ」


あの森野さんですらここまでのことはしなかったのに。
何マジのディープキスかましてくれちゃってんのよもう勘弁してくれよ。

男とキスしてんのに気持ちいいとか、そんな感想を俺に抱かせないでくれ。

これ以上は本当に無理だと思って両手にありったけの力を込めて目の前の身体を突き飛ばした。
まあそれの効果って言うのは殆どなくて、実際は馬場さんが自ら身体を離してくれただけだったんだけど。




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