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じゃあ俺がどんな展開を予想していたかって、それ自体もふわっとしてるものではあったんだけども。

とりあえず俺の返事を聞いた後にどうするかは三人に丸投げするつもりだった。
だってそこから先は俺が決めることじゃないから。

じゃあ止めますってなるか、それでも好きですってなるか。
それは俺には分からないことだし、それ以外の答えだって出てくるかも知れない訳で。

だからまあ、三人の意見がぶつかるかも知れないことは一応想定はしていたんだけど。


「あのー徳川さん。とりあえず一旦離れていただいて」

「…嫌だ」

「ええ…まさかの反抗期」


嫌だと言われても困るんですよ。
嫌だって言ってから目の前の二人の表情が益々険しくなっちゃってますからね。


「とりあえずお二人もその怖いお顔を止めていただいて」

「徳川くんが詩音くんから離れてくれたら止められるんだけどね」

「だそうです徳川さん」

「…僕にこうされるのは嫌?」

「それは違うじゃん。そうじゃないじゃん」


そんな卑怯な手を使ってくるなんて聞いてないんだけど。
分かってて訊いてるんだったら詩音はおこだぞ。

「嫌ではないけど…」と言い掛けたら目の前の二人がむすっとしたから俺もふええってなった。


「だ、だって…好きだって言ったじゃないですか…っ」

「知ってるよ。だからこそでしょ。徳川くんを選んだ訳じゃないのに徳川くんが詩音くんを独り占めするのは違うんじゃないの?」

「それは俺に言われても…っ」

「そうですよ。元はと言えば森野さんが勝手に詩音を抱き締めるからこんなことになったんじゃないんですか」

「へえ。俺が悪いんだ」

「違うとは言えませんよね」

「ふええ」


この二人のバチバチは想定済みだったよ?
でもやっぱり目の前でイケメンが言い合ってると嫌な迫力があって怖い。

お陰でマジで「ふええ」って言っちゃったよ。
それに対して徳川さんが小さい声で「可愛い…」って呟いたのはバッチリ聞こえてたけど余裕で無視します。

てか、そもそも徳川さんが離れてくれさえすれば一旦落ち着く話なのではなかろうか。


「抱き締められてると地味に暑いんですよね。このままだと汗だく詩音になっちゃうんで…」

「いいよ。汗だくになる?」

「いや汗だくにはなりたくな……ねえ後ろに野獣いるんですけど!ぼけっとつっ立ってないで力ずくで引き剥がすとかしてくださいよ!」


徳川さんのヤバい発言を聞いて瞬時に助けを求めると、俺の言葉を聞いてはっとなった二人がそれぞれ俺の右腕と左腕を掴んだ。
その瞬間、二人に抵抗するかのように俺の腹に回されている徳川さんの腕に力が込められる。


「あっ待って待って。これこのまま引っ張られたら腕が千切れるヤツ」

「力ずくで引き剥がせって言ったのは詩音じゃん」

「それはそうなんですけど…!」


まさか徳川さんがここまで反抗的な態度をとってくるとは思わなかったんだよ。
寧ろ他の二人がいたら何も喋らなくなるんじゃないかなとすら思ってたんだから。


「てか、徳川さんは調子に乗り過ぎですよね。詩音も嫌がってるじゃないですか」

「嫌ではないって言ってた」

「だからって困らせても良いと思ってるの?」


そう訊ねた直輝さんに対して徳川さんは何も答えなかった。
代わりに徳川さんの腕からすっと力が抜けたのが分かって、その隙に三人の輪の中から抜け出す。

ふぅ…助かった…
イケメン密度の高い空気を吸い過ぎて危うく脳がやられるところだった…
このまま俺までやられてしまっていたら一体どうなっていたことやら…

一旦落ち着こう。


「あれですよね。結局は俺がハッキリしないのが悪いんですよね。分かってますよ。でも俺をこんな風にしたのは貴方達じゃないですか」


突然文句を言い始めた俺を見て三人が「どうしたの?落ち着いて?」って顔で見てきた。

俺が落ち着いていないことがバレているようだ。
そんなことは俺だって当然自覚しているけど、ちょっとどうやって落ち着いたらいいのかが分からない。


「俺だってみんな好きとかって暴論が通用するなんて思ってませんよ。でも仕方ないじゃないですか。好きなんですもん。好きになれって言うから好きになっちゃったんですよ」


文句と言うかこれはもう完全に八つ当たりだ。

八つ当たりは良くないことは重々承知している。
でも、三人とも嬉しそうな顔をしているように見える。


「あー多分俺このままだと貴方達が喜びそうなことしか言えない気がします。誰か俺を止めてください」

「この状況でそんなことが言えるってことは襲っても良いって言ってるようなもんだからね?」

「また一人野獣化させてしまった。尊さん助けて」

「だから俺はあの日からずっと野獣のままだって」

「あーそうだった。尊さんは元々野獣なんだった」


野獣×3とか無理だから。
×1でも無理なのに×3とか圧倒的暴力でしかないから。

今にも飛び掛かってきそうな空気を放ち始めた三人から無意識に後退りする俺は傍から見たらさぞかし可哀想な子うさぎちゃんなのだろう。

でもまだ希望は捨てていない。
何故ならここは俺のテリトリーだから。


「そんなつもりで呼んでないです」

「じゃあどんなつもりで呼んだんだよ」

「それはだから、とりあえずさっき言ったことを伝えようと思って。それでみなさんに判断して貰おうと思って」

「ってことは、どうするかは俺達が判断して良いってことだよな?」


なんて、尊さんが含みを持たせた言い方をするから少し返答に迷ってしまった。
でもそれで間違ってはいないから「そうして貰うしかないじゃないですか」と答えると、尊さんが隣にいる二人に視線を向ける。


「俺は降りる気ないですよ。詩音がそれが良いって言うならそうします」


堂々とそう答えた尊さんに俺自身は勿論、他の二人も少し驚いている様子だった。
それから静かにふっと笑った直輝さんが「意外だね」と漏らす。


「馬場くんは何が何でも自分のものにするとかって言い出すんじゃないかと思ってた」

「森野さんこそ、意外と好戦的なんですね。相手が詩音だからですか?」

「そうかもね」

「へえ。じゃあ、森野さんも降りる気はないってことですね」


尊さんの問い掛けに直輝さんは「当然」と答えた後、自信ありげな声で「譲る気もないけど」と付け足してその顔に綺麗な笑みを浮かべた。

予想以上に好戦的な態度を見せる直輝さんに対しては勿論、その攻撃を受けても全く怯むことなく爽やかな笑顔で「それは俺もですね」と返した尊さんに対しても俺はすっかり言葉を失ってしまっていた。

でもまだ徳川さんのターンが残ってるんだよな。
徳川さんこそ何言い出すか分からない部門第一位だからもう不安でしかないわ。




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あきゅろす。
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