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とんでもない暑さで目が覚めた。
これは以前にも経験したことがある暑さだ。
一瞬エアコンを睨みかけたけどすぐにタイマーの存在を思い出してさっと視線を逸らした。
こんなにも日々お世話になっているのに睨んだとバレた日にはどんな恐ろしい仕打ちが待っているか分からないからな。
故障と言う名の反抗をされたら堪ったもんじゃない。
それにしても俺は、いつスマホのアラームを止めているんだろうか。
今日は絶対に寝坊は出来ないと思ったから保険でエアコンの切タイマーまで設定していた訳だけど、それがなかったら寝過ごしていた気がする。
まあとりあえず起きようか。
そしてシャワーを浴びて汗を流そう。
俺に残された時間はあと1時間と30分しかない。
急ぎ目で準備をして、今日は朝食代わりにプリンを一個食べといた。
お腹は空いてなかったけど糖分はしっかり補給しておかなければいけない。
俺はこの後頑張らなきゃいけないから。
さてさて、約束の10時まであと30分ですか。
暇になったからどの順番で来るか予想でもしてみましょうか。
徳川さんは10分前行動とかしてそうだよね。
もしくは時間ぴったりか。
徳川さんが一番か最後がいいな。
あとの二人はどっちでもいいけど鉢合わせだけはしないで欲しい。
玄関の外でばったり会ってバッチバチとか怖いし。困るし。
って言っても、どうせあの二人は顔を合わせたタイミングで「はあ?」ってなるんだろうから一緒な気もするけどね。
徳川さんに関してはその存在自体が脳内に掠りもしてないだろうから、俺と徳川さんが二人で家で待ってたら相当面白い反応が見られると思う。
その時の反応は二人セットで見たいからやっぱり徳川さんが一番か最後だな。
じゃあ徳川さんだけ時間ずらして伝えておけば良かったわ。
とか考えてる内に早速ピンポンが鳴りまして。
今まだ15分前なんだけど早くない?と思いながら玄関のモニターを覗いたら、尊さんのアップの後ろに二人分の身体が見えたからダッシュで玄関に向かった。
この時俺はかつてない勢いで玄関のドアを開けたことだろう。
だってそんなの聞いてない。
「なんで一気に来るんですか!?」
しかもまだ9時45分なんですけど!と言おうとしたら、それよりも先に不機嫌顔の尊さんに玄関の中に押し込まれた。
それに続いてぞろぞろと中に入ってくるイケメン1と3も同じく不機嫌なオーラを放っているように見える。
みんな怒ってるじゃん!
「何ではこっちの台詞だから。なんでこの二人もいるんだよ。今日は俺とデートする日じゃなかったの?」
「それは俺の台詞だね。今日は俺と詩音くんがデートする日だった筈だよね?馬場くんはともかく、どうして徳川くんまでいるの?」
「あー、それはまあ、俺が誘ったから?」
率直に答えると二人が同時に「はあ?」って顔をした。
ああほらやっぱり。ね。
予想通り、イケメンのシンクロは面白い。
「すいません。お二人には言ってなかったんですけど、実は徳川さんもなんですよね」
「…どう言う意味?」
「そのままです」
ね?と徳川さんに同意を求めると、小さくこくんと頷いた彼が代わりに「詩音くんからは、僕も二人と同じポジションだって聞いてる」と説明してくれた。
お陰で他の二人も状況を理解してくれたようだ。
難しい顔をする三人に「とりあえず上がりません?」と声を掛けると、数秒のラグの後にみんな揃って靴を脱ぎ始めた。
今のは”二人きりにはなれないことを悟って諦めた”って感じの間だった。
その点に関しては期待させといて申し訳ないって気持ちは勿論ある。
でもこんなチャンスは早々ないから許して欲しい。
全員一気に伝えた方が手っ取り早いし、ややこしいことにならなさそうだなと思ったんだよ。
一先ず広いからって理由でリビングに案内したんだけど、みんながやたらきょろきょろしてるから何してんの?ってなった。
「なんですかみんなして。別に変なもの仕掛けてないですよ?」
「ふ。変なものって何だよ。詩音んちの玄関より奥に入ったの初めてだからちょっと緊張してるだけ」
「あー」
それは確かにあるかも知れない。
緊張って言うか、この人達が家の中にいるのは違和感しかないもんな。
まあ普通に緊張はしてるんだけど。
今だって尊さんの不意打ちの笑顔食らってドキッとしちゃってるし。
「詩音の部屋は?」
「俺の部屋は二階です」
「じゃなくて。行ったら駄目なの?」
「え?」
別に駄目って訳ではないけど、そっちは全然考えてなかった。
普通にリビングでよくない?
「ベッドとパソコンがあるだけで面白い物は何もないですよ」
「うん。でも行ってみたい」
「…いいですけど。あーでもエアコン切っちゃってるんでとりあえず付けてきます」
そう言って二階の自室に向かおうとしたら直輝さんに腕を掴まれた。
やけに真剣な表情を見せる彼に「どうしました?」と首を傾けて見せると、やや呆れた口調で「危機感なさ過ぎだよ」と指摘される。
「危機感、とは」
「ここにいる全員、詩音くんのことが好きなんだよね?」
「…まあ、そうらしいですね」
「おまけに詩音くんと二人で会うつもりで来てたんだから、当然そう言うことも考えてたと思うよ。俺だけじゃなくて、この二人も」
「……ほう」
そう言うことって?と訊くのは止めておいた方が良さそうだ。
代わりに、そうなんですか?って目を他の二人に向けたら何とも言えない表情で意思表示された。
結果的にはよく分からなかったけど、二人とも否定はしなかったからまあそう言うことなのかも知れない。
「分かりました。じゃあもういきなりですけど、俺から皆さんにお話したいことがあるのでそっちを先に聞いて貰ってもいいですかね」
それを聞いた上でもそんなことをしようと言う気になると言うなら、まあその時は考えよう。
でも多分、そうはならないんじゃないかと思う。
単刀直入に「皆さんからの告白に対する返事なんですけど」と切り出すと、三人の表情が強張ったように見えた。
そんなに構えられると言いにくいわ。
別にお断りしようとしている訳じゃないから。
「俺なりにめちゃくちゃ考えた結果、やっぱり誰か一人とお付き合いするのは無理だなってなりました。でももう、結構本気で好きになっちゃってるんですよ。三人とも」
最後に我がままな言葉を付け加えると、なんでかよく分からないけど一番近くにいた直輝さんに遠慮なく抱き締められた。
それから「あっ!ちょっと!」って言う尊さんの焦った声が聞こえた後。
身体をぐいっと後ろに引っ張られ、今度は別の人の腕の中にすっぽりと収められる。
「抜け駆けは狡いです」と真後ろから聞こえたその声は徳川さんのもので。
目の前には厳しい表情の直輝さんがいて、そのすぐ近くに唖然としている尊さんがいて。
俺が思ってたのとは全然違う展開になってしまってるんだけど、ちょっと訊いていい?
なにこれ?
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