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直輝さんと尊さんの前では猫は被ってなかったけど、それよりもゲームしてる時の俺の方がより素に近い状態だと自分では思っている。
ってことはつまり俺は、半年以上も前から徳川さんに素の状態を晒していたってことになる訳で。


「ねえもう。今更徳川さんの前で恥ずかしがってた俺が馬鹿みたいじゃないですか」

『ごめん。本当にそんなつもりはなかったんだ。このゲームを始めたのも、詩音くんのお母さんに言われたからで…』

「はあ?」


ここにきて追加で衝撃を与えてくる徳川さんが信じられないんだけど。

あと俺の母親な。どんだけ介入してくんの?


「どう言うことですか?」

『実は…』


徳川さん曰く、彼がオンラインゲームを始めた経緯はこうだ。

ある日徳川さんが我が家に配達に来た時のこと。
荷物の受け取りをしていた俺の母親が会話の流れでぽろっと「うちの子はゲームばかりしてるのよ」と漏らしたらしい。

そこから、訊いてもいないのにゲームのタイトルを教えられ。
おまけに「徳川くんもやってみたらいいんじゃない?」とかおすすめまでされちゃったようで。


『趣味とか特になかったから、暇な時にやるには丁度良いかなと思って始めてみたんだ』

「…なるほど。だったら最初から教えてくれたら良かったじゃないですか」

『そうなんだけど、詩音くんが嫌がるかなと思って』

「なんで?」

『詩音くんと僕は面識はあってもその程度の関係だったから。勝手に自分のテリトリーに入ってこられたら嫌なんじゃないかと思って、正直に言えなかった』


…ふうん。

別にそんなことなかったのに、って今更言っても仕方ないんだろうね。
徳川さんがそう思ったからそうしたんだもんな。

でも俺的にはこの約半年間が勿体なかったって思っちゃうよ。
もっと早く徳川さんと仲良くなれてたかも知れなかったじゃん、って。


『それでもどこかのタイミングで言おうと思ってたんだけど、それを話す前に僕が詩音くんのことを好きになってしまって…』

「…それっていつ頃の話ですか?」

『正確にいつ、とは答えられないけど、ゲームを始めて二ヶ月くらい経った頃だと思う』

「…じゃあ結構前だ」

『まあ、そうだね』

「きっかけってなんだったんですか?」

『それは…』


それは俺にも訊く権利があるだろうと思って訊いてみたら『気付いたら好きになってた』と言うなんとも曖昧な回答を貰ったから「あー、そうなんですね」ってなった。

正直言うとちゃんとした理由が欲しかったなって思っちゃったんだけど、でもそれはめちゃくちゃ分かるからさ。
俺も気付いたら好きになってたパターンだもん。


『とにかくゲームをしている時の詩音くんは凄く楽しそうで、最初は普段とのギャップに驚いてたんだけど』

「それは単純に徳川さんの前の俺がよそいきだったってだけですけどね」

『うん、そうだね。僕も、詩音くんが明るくて面白い子だって言うのは知らなかった訳じゃないし』

「そうなんですか?だったらなんで話そうとしてくれなかったんですか?」

『…それは一昨日も言ったと思うんだけど、ゲームを通じて詩音くんのことを知れば知る程、僕の中で詩音くんが手の届かない存在になっていって…』


いやそれなに?って思ったけど、突っ込むのはとりあえず彼の言い分を聞いてからにしようと思って我慢した。
でもその言い分を聞いた後でも解せなかったから結局「なんで?」って言っちゃったんだけどね。

だって、要約すると徳川さんの自己評価が極端に低いって話なんだもん。
そのルックスだけでおばちゃん達のハートを無数に射止めておきながら、この俺には自分なんか相手にもされない凡人だとかそんな感じのこと言ってるんだもん。

そんなの理解出来る訳ないでしょ。


「徳川さんって自分がイケメンだって自覚してないんですか?」

『…顔は関係ないよ』

「あー。それは確かにそうなんですけどね?でもそれは俺が言う台詞であって、徳川さんが言うと聞き手によっては嫌味だと取られちゃいますよ」


貴方にそんなつもりがないのは分かるけど。
そして俺は別に嫌味だと受け取りはしないけど。


『相手が女性ならまだ分かるけど、詩音くんは男の子だから。見た目以前の問題だと思ってた』

「あー。それも確かにそうなんですけどね?一旦俺のことは横に置いといて貰って」

『詩音くんが出てこなくなったらこの話をする意味がなくなると思う』

「お、おお。徳川さんの世界って俺中心に回っちゃってる感じですか?」


言った後にやべって思ったけど訂正するよりも前に『そうだよ』って返されたからなんか申し訳ない気持ちになった。

なんか俺が言わせたみたいじゃん。
言い終わってすぐに「あ、これ絶対肯定してくるやつだわ」って分かったもん。
そのくらい徳川さんの声には俺に対する揺るがない好意、みたいなのが表れちゃってるんだよ。

ほんと恥ずかしいから止めて欲しい。


「まあ、まあいいですもう。とりあえずこの件は解決ってことにしますから」

『ちょっと待って。僕も詩音くんに訊きたいことがある』

「え」


急に改まった感じになったからこっちもちょっと構えてしまった。
「なんですか?」と訊ねると『ルームシェアするつもりなの?』と訊かれたから目を丸くさせてしまう。


「…あー、この前言ってたヤツですか?今のところする予定はないですよ」

『今のところ?』

「うーん。ルームシェアは多分ないですね。するとしても一人暮らしですけど、それも9割本気じゃないんで」

『1割はそのつもりがあるってこと?』

「んん、それはまあ、必要になればって感じですね。その必要も今のところ感じてはないです」


もしかしたら今後も必要だと思う時はないかも知れない。
何故なら母親公認になったことで実家を追い出される可能性がうんと低くなったからだ。

俺はそれで良かったなって思ったんだけど、徳川さんは意外にも俺の一人暮らしに肯定的な意見を持っていたようで。
『詩音くんが一人暮らししてくれたら、会いに行けるから』と言われて一瞬真面目に考えてしまった。

それはそれで都合がいいなと思ってしまったんだ。
ちょっとだけね?


「まあいつかはすると思いますけどね。俺ってこう見えて寂しがり屋だからなぁ」

『知ってる』


え、なんかそんなにも堂々と知ってるって言われると恥ずかしいんだけど。
寂しがり屋キャラでやってきてないから余計に。


「そんなに出てましたかね?そこまで出さないようにしてたつもりなんですけど」

『それも何となく分かってた。だから僕もあんな言い方をしてしまったんだと思う』

「ん?あんな言い方?」

『僕だけに懐いて欲しいって言ったのは、僕だったら詩音くんのことをちゃんと見てあげることが出来るのにって気持ちの表れだった…と思って貰ったら』

「………」


そう言えばこの人は、俺に告白してきた時に既に俺の本質を見抜いたような発言をしていたんだっけ。

なんでそんなことまで知っているのか。

それは俺達がシュガとサトとしてオンライン上でやり取りをしていたから、ってだけでは説明し切れないと思う。
さっきも言ったようにそんなキャラでやってたつもりはないし、サトとはそこまで深い関係にはなっていなかったんだから。




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あきゅろす。
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