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でもまさか、母親が味方についてくれるとは。

それ自体は嬉しい誤算ではあるけれど、なんだろうな。
なんかもうすっごい馬鹿力で背中を押されてしまった気分だよ。

お陰で後戻り出来なくなったって言うか、もう腹をくくるしかなくなってしまった。
くくっちゃったら、あとは三人に伝えるだけになってくるよね。

さてどうやって伝えるか…と考え始めたところで柚希の存在を思い出してやべ!ってなった。


「あ、友達待たせてるんだった。そろそろ部屋戻っていいですか」

「あんたは本当にゲームばっかり…って言いたいところだけど、これからは減るのよね。今の内に好きなだけしておきなさい」


今なんかめっちゃ嫌なこと言われた気がするけど気のせいかなぁ。
ゲーム止める気なんかないんだけど。

まあいいやと思って、最後に「あ、馬場さんがアイスありがとうって言ってたよ」とだけ伝えて自室に戻らせて貰った。

それから急いで柚希に電話をかけたら結構軽い感じで『全然いいよ』って言ってくれたから、ほっとしつつも「ほんとにごめんね」って謝っておいた。

だって結構待たせたと思うんだよね。
母親にバレて捕まってましたって正直に言おうかなとも思ったんだけど、やっぱりそれは止めておいた。
また惚気けてるとか思われたくないから。

でもまあ、柚希にはちゃんと事後報告はしようと思う。
あの人達とどうなったかだけは、ちゃんと。


その後も柚希と雑談しながら夕飯までゲームをして、夕飯を食べた後はお風呂に入ったりテレビを見たりしてごろごろ過ごしていたんだけど。

10時過ぎにスマホが鳴ったから「あー尊さんかな…」と思いながら通知を確認したら直輝さんの方だったからおうふってなった。
メッセージを開いたら『明日は会えそう?』って書かれていて、思わず「あーこれ休み被ってるやつじゃーん」と大きめの独り言を漏らしてしまう。

どうしたらいいんだろうか。

先にお誘いをいただいていたのは直輝さんだから彼を優先するのが妥当かも知れない。
それが正解な気がするけど、だったら昼間に尊さんに直接「明日は無理ですよ」って言ってあげてたら良かったじゃんって話で。

でもその時はまだ直輝さんとの予定も確定してなかったし、尊さんも俺に返事をする余裕すら与えてくれなかったからさぁ。

ってな感じで一人で言い訳してたら尊さんからも『お疲れ。昼間の返事貰っていい?』って送られてきたから、一旦スマホを投げたよね。

ほら、こう言う時は一回落ち着かなきゃいけないから。
とりあえず深呼吸して、それから一回ゲームの世界に現実逃避するとかいいんじゃないかな。

そう思っていつものオンラインゲームを始めたらほぼ同時にサトもオンラインになったから『ちょいお話できるー?』と個人チャットを飛ばした。

実はちょっと、サトに訊きたいことがありまして。
すぐに『どうしたの?』って返ってきたから単刀直入に『ききたいことがあるんだけど』と送ってみる。


『ききたいことって?』

『IDをiesato16にした理由が知りたいなぁと思って』


別にそこに触れることはタブーって訳ではない。
でも、サトみたいに個人情報を明かさないタイプの人には普段なら訊かないことだ。
だけど今回はそこがどうしても引っ掛かってしまったから踏み込んだことを訊かせて貰った。

すぐに『大した意味はないよ』と返ってきたけど、この機会を逃すとモヤモヤが残りそうだから意を決してズバリ訊ねてみる。


『もしかして幻の徳川16代将軍の名前?』


この前ネットで調べ物をしている時にふと思いたって”いえさと”で検索してみたんだ。
そしたら、そんなことが書かれているサイトが出てきたから。

俺的にはその質問をするだけでドキドキハラハラしてたんだけど。
意外にもあっさりと『そうだよ。よく分かったね』と返ってきたから少し拍子抜けしてしまった。

もしかして俺の勘違い?とかちょっと自信をなくしてしまったけど、でも多分合ってるよね。


『面白い付け方』

『そうかな』

『俺なんかまんまだよ』

『シュガも分かりやすくていいと思うけど』


分かりやすい、か。

確かに、単純な付け方をしたお陰で誕生日はみんなの方から祝って貰えたし、甘い物好きも公言しているから俺=砂糖と認識されているところはあるけれど。


『だから俺が甘い物が好きだって知ってたんですね』


思い切ってそう送ってみると、返信はすぐにはこなかった。

これはどっちの間だろう。肯定の間なのかな。

そうであって欲しいと願いながら『誕生日だって知ってたなら直接祝ってくれたらよかったのに』と送ると、それで向こうも観念したらしい。
『ごめん』と返ってきた文字を見て漸く俺も肩の力を抜くことが出来た。

なんか最近おかしいなと思うことが多かったんだよね。
チャットでのやり取りとリアルのやり取りがリンクしてるなぁと感じることが多々あったんだ。
寝不足の件とか、猫の話とか。

それに、俺が甘い物が好きなのは結構な人達が知ってることではあるけど、配達員では直輝さんと尊さんしか知らない筈なんだよ。
あの二人にしかそんな話はしてなかったし、あの二人の前でしか甘い物食べてなかったから。

あと何よりも、初見で俺の発言に普通についてこれてたことが俺からしたら違和感でしかなかったんだよね。

俺との会話に慣れてる人じゃないと一回くらいは「何言ってんの?」とか「意味分からない」とか言うと思うんだよね。
でも最初の会話でそんなリアクションが全然なかったし、寧ろ俺の扱いに慣れてる印象を受けたからあれれ?ってなってはいたんだよ。

まあこれで確信が持てたから、まどろっこしいことはもう止めようか。

ベッドに投げていたスマホを手に取って電話を掛けると電話はすぐに繋がった。
意地悪をしたい訳じゃないけど一先ず「なんで黙ってたんですか」と訊いてみると、今度は文字じゃなくて直接声で『ごめん』と謝られる。


「別に怒ってる訳じゃないですよ。普通に気になったから訊いただけで」

『…怒ってないの?』

「全然。それより恥ずかしい気持ちでいっぱいですね」

『恥ずかしい?』


なんで?って声で訊いてきた彼、サト…ではなく徳川さんに「恥ずかしいに決まってるじゃないですか」と返すとマジで『何で?』って訊き返されたからそりゃそうだろってなった。


「徳川さんだってことを知らずに馬鹿みたいなこといっぱい言ってたからですよ。馬鹿丸出しだったからですよ」

『そんな風には思ってなかったけど』

「じゃあどう思ってたんですか」

『明るくて面白い子だなと思ってた。あと、可愛いなって』


あのさ。前からちょっと思ってたけど、可愛いって抽象的だよね。
言葉が持つ意味が広過ぎてイマイチ伝わってこないよね。

まあ褒められてると思ったら嬉しいけども。


「シュガが俺だって言うのはいつから知ってたんですか?」

『それは…最初から』

「最初から!?」


それは流石にビックリ過ぎてめちゃくちゃデカい反応をとってしまった。

だって、最初からってかなり前だよ。
このオンラインゲームを始めたのは俺の方が先だけど、徳川さんがサトとして仲間になってから確実に半年以上は経ってる。

サトは社会人だし仕事が忙しいって話は聞いてたから、一緒にプレイした時間で言うとそこまでではなかったかも知れない。
でもグルチャでサトを含めて雑談する機会は何度もあったし、俺とか柚希とかはマイク有りで話してたことも多かった。

最初からって、マジかよ…
そりゃあ直輝さんとか尊さん以上に俺のこと知っててもおかしくないわ。




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あきゅろす。
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