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とりあえず母親が俺と尊さん達の関係を怪しんでいると言うことは分かった。

やっぱり俺が警戒していた通り、個人宅の前に配送トラックが一定時間停車していると目に付くようだ。
そして近所のお姉様方の連絡網と想像力は怖ろしい。

それは分かりきっていたことではあるけど、まあ次回以降は気を付けると言うことで…と流そうとしたら母親がまた最初の質問をぶつけてきた。

結局あんたはなんとかかんとかってヤツ。

これはもう無理な感じなのだろうか?
もう一回訊いてくるってもう見逃してくれる気ゼロだよね?
これ絶対俺が吐くまで殴り続けるつもりじゃん。


「…どう言う意味ですか」

「どうもこうもないじゃない。森野くんと徳川くんよりも馬場くんが好きなの?って訊いてるのよ」

「………好きって言うのは…」

「あんたもしつこいわねえ。いつまでも純情ぶってないでさっさと答えなさいよ」


呆れた表情で「誰と付き合うの?」と問われて完全に退路を断たれてしまったことを理解した。

やはり母親という生き物はこの世で一番怖ろしい。
息子に”純情ぶるな”なんて言葉が平気で言えてしまうあたりが特に。

…マジでこの人はどこまで知ってるんだろうか。
もしかしてさっきのアイスも罠だったとか?
実はこっそりリビングから聞き耳立ててましたとか言っちゃう?

だとしたら終わるんだけど。色々。


「…仮にさ。仮にだよ?俺があの中の誰かと付き合うようなことになったとして、母さんは平気なの…?」

「平気な訳ないでしょ。これでももう既にある程度のショックは受けた後なのよ」

「っ…ですよね。やっぱりそうですよね」

「当たり前じゃない。イケメンだからって何しても許される訳じゃないんだから」

「ですよね。おっしゃる通りで……」


…す?

待って今イケメンだからって何しても許される訳じゃないって言った?
え?えっ?まかさの俺サイド…!?


「あんな人気のイケメン三人衆を誑かしやがってこの平凡馬鹿息子がぁ!の方じゃないの!?」

「あんたにそんなこと出来る訳ないじゃない」

「よっ、よくお分かりで!」


自分で言っときながら誑かしたつもりなんて全くなかったんだよね。
そんなことまで見抜けるのも流石お母様って感じだ。

しかしまあ、どう考えても母親はイケメンサイドに立っているものだと思っていたから軽く混乱してしまった。

俺サイドってことはもっと反対してる空気出しててもおかしくないよね?
ショックは受けたって言ってたけど、それでも反対はしてないってことなんだろうか。

その心の内が分からずに困惑する俺に、母親はそれまでとは打って変わって落ち着いた口調でこう言ってきた。


「もうこの際、どんな経緯であの子達とそう言う関係になったのかは聞かないでおくけど、母親として結論だけは聞く権利があると思うのよ」


それはつまり、この恋愛の行方を見守ってくれると言うことなんだろうか。
それとも、とりあえず結論を聞いてみてそれから判断すると言うことなんだろうか。

分からないけど、残念ながら結論はまだ出ていないのでそのことを伝えると何で迷ってるのかを訊かれた。


「性別?」

「や、誠に勝手ながらそこの問題はある程度クリアしてしまってる」

「あらそう。じゃあ、一人に決められないってところかしら」

「…まあ、簡単に言うとそうなるね」


物凄い速度で言い当てられたのでここは大人しく肯定しておいた。
とんでもない気まずさで床を見つめる息子に向かって「成る程ね」と相槌を打った母親が静かに長い溜息を吐く。


「まああんたが悩むのも無理もないわよね。あのレベルが三人同時にってなれば、そりゃあ世の中の女性も寝不足になるくらい悩むわよ」

「………」


寝不足までバレていたのかと思ったらおっかなくなってきて若干震えていたら、その後一際優しい声で「でもね、詩音」と言われてそっと顔を上げた。
酷く怯えた表情をしているだろう俺を見て母親はふっと穏やかに笑うと、自分のスマホを操作しながら続きを語り出した。


「あんたは男なんだからいいじゃない。彼氏が三人いても困ることはそうないでしょ」

「…え?いや、あるでしょ。普通にあるよね」

「自分が女の子だったらって考えてみなさいよ。あんたの悩みがいかに贅沢かってことがよく分かるから」

「………」


どう言う意味だ。何故男だったら贅沢になる。

正直に意味が分からないと伝えると再び溜息を吐かれた。

確かに俺の理解力が乏しいのも問題かも知れない。
でもそれ以前にスマホを弄りながらする話でもないと思うんだ。

大切な話をしている最中に何をさっきから画面をスワイプしまくっているんだ…と不満を抱いていたら、不意に母親が俺に向かってスマホの画面を見せびらかしてきた。
残念ながら遠くてよく見えないけど、ページの構図から判断して何かの通販サイトの画面だと言うことは認識出来た。


「これを見なさい。さっきまで在庫ありだったこの商品もあんたと話してる間に在庫切れになったのよ」


…え、うん。

なんかまるで俺が悪いみたいな雰囲気出してきてますけど「こんな時にまで通販かい!」って言わなかっただけ褒めて貰っても良いと思うんだよね。

諸々の感情を押し殺して「なに。それが欲しかったの?」と訊ねると、お母様が相変わらず不気味なくらいの穏やかな表情で「あのね、詩音」と優しく語り掛けてくる。


「欲しいものは欲しいと思った時に買わなきゃ駄目なの。それがいつまでも手に入るものだと思ったら大間違いよ」

「……」

「あんたが欲しがってるものは一度在庫切れになったら一生入荷されないかも知れないのよ?不良品かどうかの判断は買った後に出来るんだから、とりあえず自分のものにしてしまいなさいよ」


要らなきゃ返品よ、と言われて堪え切れずに吹き出してしまった。

だって、こんな時まで通販使って例えてくるうちの母親強すぎない?
言いたいことはよく分かったけど。


「何笑ってるのよ」

「いや、うん。俺に返品されるイケメンも可哀想だなーと思って」

「まあそれはそうね。そんな貴重な機会はこの先一生訪れないと思うわ」

「だよね。俺もそう思う」

「分かってるならさっさと返事しちゃいなさい。あんたが思ってる以上に競争率高いわよ、あの子達」


それは知ってますとも。
俺の持ってる情報だけでも相当だってことは分かっていますけども、あの人達にとっては俺の方が競争率高いんですよ。

全然自慢じゃないけど。




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あきゅろす。
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