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無駄に抵抗するとその間にアイスが溶けて玄関が悲惨なことになりそうだったからもう色々諦めた。
差し出されたアイスを大人しく舐め始めた俺を見て「なあ、マジでえろい」と囁いた尊さんに「あんたの方がよっぽどえろい顔してるよ」と言いたくなる。

しかも、自分は俺から奪ったアイスを早々に平らげた癖に、俺も早く食べる為に噛み付こうとしたら「舐めないと駄目」とか食べ方の指示までしてきたからね。
それに従っちゃう俺もどうかとは思うけど、向こうの部屋に親がいるって分かってるのに何させてんだか。


「美味しい?」

「うん」

「可愛い」

「…うるさい」

「ほんと可愛い」


だからうるさいってば。
大人しく言うこと聞いてあげてるんだからこれ以上羞恥心煽ってくるなよ。

あとその、好きと興奮が溢れたみたいな顔でこっちを見ないで欲しい。
そんな顔で見られたら俺まで変な気分になってくるんだよ。

てかこの形状のアイスを舌だけで完食するのは流石に無理があるわと思って「舐めるの疲れた」と訴えると尊さんがすっと手を引いた。
それからその手に持たれたアイスに齧り付いた彼を見て「結局自分で食べるんだ…」と呆然としていたら、今度は尊さんの顔が近付いてきて唇が重ねられた。

その後、緩んだ俺の口の中に舌を使って押し込まれてきた冷たい液体。

あまりにも予想外の行動だったから一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
口移しされたんだって言うのは分かっても、まさかこの状況でそこまでされるなんて思わないじゃないか。

口の中に移されたものは驚いた拍子に飲み込んでしまったけど、そのまま舌を捩じ込まれて口内を荒らされかけたから流石にそれには抵抗してしまった。
尊さんの胸をぐっと押し返して睨むと「あとちょっとだから」と言って残りのアイスを口の中に収め切った彼が、またもやそれを口移しで食べさせてくる。


「んっ……ッ…」


あとちょっとだから、じゃないんだよ。
人んちの玄関で卑猥なことをするんじゃない。

いや、場所に関しては今更か。
俺の親が近くにいる状態で卑猥なことをするんじゃないよ。

やむを得ず流し込まれたアイスをごっくんすると、予想通り尊さんの舌が口の中に入ってきた。
最初は何もかもが冷たかったのに、絡め取られた舌だけがどんどん温度を増していって。

熱いと感じてしまう前に止めておきたかった。

だってこんなの、不完全燃焼になるって分かり切ってるんだから。
盛り上がるだけ無駄じゃないか。


「ん、も、おわり」


尊さんの胸をぐっと押し返すとあっさり離れてくれたけど、どう見てもエンジンかかり始めみたいな顔をしている彼を見て溜息が零れた。

尊さんって馬鹿なの?って訊きたい気持ちを我慢して「アイス美味しかったですね」と普通の声量で話し掛ける。
それに対して「うん。残りの仕事も頑張れそう」と返されたから「それはよかった」って言いながら軽く肩を殴っておいた。

尊さんが本当に馬鹿じゃないことは分かってるけど、ギリギリのラインを攻め過ぎるのもよくないと思うんだよね。
この後リビングに顔出しにくくなるじゃん。
俺の気持ちももう少し考えて欲しいわ。

まあ、ちゃんとごめんってジェスチャーで謝ってきたから許してあげるけど。


「あ、ゴミ貰います」

「あーごめん。ありがとう。後でアイスのお礼もちゃんと言っといて貰える?」

「はいよー」

「じゃあ、俺はそろそろ仕事に戻ろうかな」


とか言った後、こそっと俺の耳元で「明日空いてる?また夜に連絡するから教えて」とか囁いてきたこの悪い人は一体俺をどうしたいんでしょうか。

唖然とする俺を見て尊さんはにこっと笑うと、俺の頭をぽんぽんと撫でてから仕事へ戻っていった。

とんだ置土産と言うかなんと言うか。
だったらそれも夜に連絡してきた時に言えばよかったんじゃないの?って思った後に自分の返信の遅さを思い出してあーってなった。

俺が見ない可能性があることを見越して予め言っといたってことね。
それはそれは、お気遣いどうもですわ。
お陰で無視出来なくなりましたけどね。

しかしどうすっかなーと考えながら一先ずアイスのゴミを捨てる為にリビングに戻ると、ソファに座ってテレビを見ていた母親が俺を見るなりリモコンを操作してテレビの電源をオフにした。

そんなのたまたまタイミングが被っただけだろうと思って然程気にも留めなかったんだけど。
キッチンのゴミ箱にゴミを捨てて手を洗い終わると「あんたは結局馬場くんにするの?」と聞こえてきたから一瞬で思考が停止した。

………今なんて?


「ごめんなんか言った?」

「聞こえてたでしょ。結局馬場くんが好きなのかって訊いてるのよ」

「………なんの話?」


結局とか、好きとかなんとかかんとか。
母親が突然何を言い出したのかが分からなくてぽかんとしてしまう。

割と真面目に訊き返した俺に憐れむような目を向けてきた母親が「近所のネットワークと母親の勘を舐めるんじゃないわよ」と探偵さながらな台詞を浴びせてきた。

そこで俺は諸々を悟ってしまったんだけど、生憎こちらも簡単に吐くつもりなんてないものでね。


「だからなんの話ですかって訊いてるじゃないですか。馬場さんが何?」

「あんたそれで隠し通せると思ってるなら2週間前くらいからやり直してきなさいよ」

「どゆことすか」

「今までは何も言わなかったのに急に配達時間変えろだとか次の配達はどこの会社だとか訊いてくるようになったからおかしいと思ってたのよ」


あんたの様子がおかしくなり始めたのも丁度その頃からよ、と言われて確かに母親の勘とやらは舐めたらあかんなと思った。

俺ってそんなに様子がおかしかったのか。
尊さんの一件以外はめちゃくちゃ普通に生活してるつもりだったんだけど。


「配達時間を遅くして欲しいとお願いした件に関しましては、夏休みに入ってぐうたら生活をしているのが主な理由だったんですけど…」


早起き出来ないから遅い時間の方が良かったんだと伝えたら「まだ言ってるわ」と一蹴されてしまった。


「最近うちの前に配送トラックがいつもより長く停車してるって情報は入ってるんだからね」

「ああ、まあ。ここのところ無駄話をすることは多かったかも知れません」

「そう。本当に無駄話だけで済んでたのかしらね」


…おい。おいおい。それはどう言う意味だ。
あなたは無駄話だけで済んでると思いたい勢の筆頭じゃないのか。
まさかそれ以外の良くない情報が既に耳に入っていると言うのか?

え、気になるけど怖くて聞けない。




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あきゅろす。
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