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とりあえず出るか〜と思って玄関のドアを開けたら、今日も今日とて爽やかな笑顔の尊さんが荷物を持って立っていた。


「やった。詩音が出てくれた」

「そうですね。詩音が出ました」

「今日は一人じゃないよな?」


小声で確認された内容に頷きを返すと、尊さんがこれまた小声で「まあ顔見れたからいっか」と言って笑顔を見せる。

相変わらず俺に付き合っていると錯覚させるのが上手い人達だ。
その都度確認しておかないとうっかり彼氏だと思って接してしまいそうになる。

荷物を受け取ってサインをすると尊さんが「じゃあ…」と言ったから「ちょっと玄関の中で待っててください」と言って、驚く彼をその場に置き去りにして一度リビングへ戻った。


「はい荷物」

「ありがとう。冷凍庫に入ってるから」

「はいよー。てか違う人が来ても出してあげる予定だったの?」


キッチンに向かいながら何となしに訊ねると「そんな訳ないじゃない」と返ってきたから絶句した。

マジで怖ろしいなうちの母親…
イケメンがそんなに偉いかよ…

俺は世の配達員さん達全員に敬意を払っていると言うのに。
うちの母親は通販乱用してるんだから俺以上に敬意を払うべきじゃないのかよ。

そんなんでよくもまあ人に最低だとか何とか言えたよなぁと若干憤りながらアイスを二つ手に取ってそそくさと玄関に戻る。
この遣る瀬ない気持ちはアイスとイケメンに癒して貰うことにしようじゃないか。


「これ、いつも暑い中配達してくれてありがとうございますってことで母親からです」


ここでちゃんと母親からだと言えた俺は半端なく偉いと思う。

尊さんは驚いた表情で「あ、ありがとう」と言いながらアイスを受け取ると、その後どうしたらいいの?って顔で見てきたから「一緒に食べましょ」と言って俺が先に玄関に座った。
そしたらすぐに俺の横に腰を下ろした彼が「一緒に食べていいんだ?」って言って嬉しそうな顔を向けてきたから、俺もつられて笑顔になってしまう。


「時間大丈夫ですか?」

「うん、それは。でもお母さんは大丈夫?」

「だって母親がどうぞしなさいって言ったんですもん。俺の分もあるってことはそう言うことだろうなと思ったんですけど」


「一緒に食べていい?って訊いてきましょうか?」って言ったら尊さんは「いや、うん。大丈夫。溶ける前に食べないとだな」と言ってアイスの袋を開け始めた。

この人達に差し入れをすることは何もこれが初めてではない。
たまに母親の気まぐれで飲み物とか出してあげることはあったし、それはうちに限ったことではない。
寧ろ色んな人から色んなものを貰っていることだろう。

それは別にイケメンだから、って訳ではないと思いたいよね。
他の人よりも頻度はぐんと上がっているかも知れないけど、それくらいの優遇で済ませておいて欲しいわ。
じゃなきゃ他の配達員さんが可哀想だ。


「あ、尊さんマンゴー好きでした?」

「ん?うん、好きだよ」

「ならよかった。これ俺が大好きなアイスなんですよ」

「そうなんだ?初めて見たかも」

「コンビニ限定なんですよねー」

「へえ。じゃあまた今度買ってあげる」

「え、やったぁ」


素でそう反応した後に「ん?いつ?」と疑問に思ってアイスを食べながら横を向いたら、優しい顔した尊さんが「また一緒に食べような」とか言ってきたから、俺から放出される熱でアイスが溶けるんじゃないかと心配になった。


「今はそんなの、だめですよ」

「そうだな。ごめん」

「………」


くそう。何か返そうと思ったけど何も返せなかった。

前だったらこうやって二人でアイス食べることがあったらどんな話をしてただろう。
この場所で色んなことがあり過ぎて当たり障りのない会話がなんなのかまで分かんなくなっちゃったよ。
仲良しのノリとかもあったと思うけど、母親がいると思ったらなんか変に気を遣って出せないし。

そうやって難しく考えていたら、尊さんが「大好きなアイスの割には難しい顔してるよ」と言って悪戯っぽく笑いかけてくれたから、そのお陰で少し気が緩んだ。

確かに、こんなに美味しいものを食べていると言うのに俺らしくない。


「何話そうかなって考えてました」


小声でそう言うと、尊さんがふっと笑ってから頭を撫でてきた。
見られることはないだろうからってそれはどうなんだと思ったけど、確かに声を出さなければ大丈夫なのかと思ったらもっと気が楽になった。

アレだけ言っていたんだ。
母親がすっぴんのまま登場することはないだろう。

まあ、だからって何をする訳でもないけども。

アイスを食べながら横にある整ったお顔を観察していたら、俺の視線に気付いた尊さんがにこっと微笑んできた。

だから俺も微笑み返したんだけど。
そしたら、一瞬目を丸くさせた尊さんがその後アイスを持った方の手を掴んできて。
え、何?って思って見てたら、その手を退かした尊さんが思い切り顔を近付けてきたわけよ。

これってもしかしてキスされちゃうパターンじゃない?とか思ってる間にちゅってされちゃったよね。
流石にそれにはビックリした。


「…何、してんの」

「ごめん。可愛くて我慢出来なかった」

「…流石にだめでしょ」

「ごめんって。でも、声出さなきゃ大丈夫な気がする」


気がするってどうよとは思ったけど、もう一回近付いてきた顔を今度は分かってて避けなかった。
なんか俺、尊さんの前では特に悪い子になっちゃってる気がするわ。

ちなみにさっきの会話はちゃんと小声でやり取りしてました。
ここから先も暫く小声でお送りいたします。


「アイス溶けちゃうじゃん」

「ん、じゃあ舐めて」

「…は?」


ほら、と差し出された尊さんのアイスは心配した通り若干溶けかかっていた。

俺の分もまだ食べれてないのに二人分とか流石に無理なんだけど。
てか舐めろってなんだよ。えろいことさせんな馬鹿。


「自分の食べるから」

「いいじゃん。早くしないとマジで垂れる」


だったら自分で食べなさいよと思ったけど、だよ。

さっきから思ったことと逆のことしちゃってるんだよなあ俺。
ほんとどうしちゃったのかしら。

仕方ないから口を開けたら「舌出して」って言われて、流石に恥ずかしかったから軽く睨みながらべーってしたら舌の上にアイスの先が触れた。
条件反射のように溶けてきてるアイスをぺろっと舐め取ると、きゅっと眉を寄せた尊さんが吐息のような声で「やばい、勃った」と報告してきたから思い切り睨んでやった。


「もっと舐めて」

「…俺のが溶ける」

「そっち俺が食べるから」

「は?」


なんで?と思っている間に俺が持っていたアイスを奪われ、もっと溶けかかっているそっちを俺に見せつけるように舌で舐め上げた尊さんが「詩音も、ほら」と続きを促してくる。

今のを真似しろってことなのか。
だとしても交換する必要はなくない?

そう思って、本来は尊さんの分だったアイスを彼の手から奪おうとしたら「だめ、このまま」と言われた。
自分が持ったままの方がいいらしい。

もう一回言う。えろいことさせんな馬鹿。




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あきゅろす。
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