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日曜日の昼下がり。

自室にこもって柚希と通話しながらゲームをしていたら、コンコンってドアをノックする音が聞こえてきた。
ごめん盛った。ほんとはドスドスって音がしてた。

これはお母様に違いないと思ってすぐさま柚希に「ごめんちょいミュートしまーす」と伝えてからドアの外に向かって「なんでしょうかー?」と声を投げる。

その後なんか声が聞こえた気がしたけど聞き取れはしなかった。
その代わりに開け放たれたドアから顔を覗かせた母親が「もう直ぐ荷物届くから受け取りお願いね」と言ってきてえ?ってなる。


「すみません今ゲーム中なのでこのまま対応させていただきます。えっと、それはなんの荷物でしょうか?」

「お化粧品とか色々よ」

「あ、そう。今日はどこ?」

「アスカさん」

「あ、そう。なんで俺?」


100%自分の荷物なんだし家にいるんだから今日くらい自分で受け取れば?と思うのは当然の疑問だと思う。

てか今までは土日に届く荷物は基本的に母親が自分で受け取っていた筈だ。
それすらも柳沢家に居座る俺の役割なんだと教え込まれていたならまだしも、そうじゃなかったんだから。


「今日はすっぴんなのよ」

「うん。化粧すれば?」

「なんで荷物受け取る為だけにお化粧しなきゃいけないのよ」

「え、知らないよ。別に化粧してもしなくても変わらないと思うけど」

「あんた本当に最低な息子ね」

「いや、すっぴんもべっぴんって意味だよ」


と訂正した後にうっかり笑いそうになったから咳をしてごまかした。

危ない。めちゃくちゃお世辞言ったのがバレるところだった。


「あ、ごめんなんか喉が急に。で、なんだっけ」

「荷物が届くから受け取りよろしくねって話でしょ」

「ああそうだった。ちなみに父さんは?」

「さっきどこかに出かけて行きました。夜まで帰ってきません」

「そうですか。じゃあまあ、いいですけど」


俺も別に嫌だと言っている訳ではないんですよね。
何故ご自分でお受け取りにならないのか、その点にただただ疑問を抱いていただけなんですよ。


「ご覧の通りゲーム中ですので、来訪時に手が空いていない場合もございますがその点はご了承いただけますでしょうか」

「その戦いはいつ終わるのよ」

「んー。5分もすれば」

「じゃあそれが終わったら待機しときなさいね」


なんでやねんって言いたいところだけどここはぐっと我慢。
ぐちぐち言われると面倒だからね。

でもちゃんと我慢したお陰で朗報をいただけた。


「まあ安心しなさい。あんたが好きなアイス買ってあるから」

「えっ!どれ?」

「コンビニ限定のあの高いヤツよ。マンゴー味の」

「流石お母様でございますわ」


喜んで荷物を受け取らせていただきますって感じでございますわ。
昨日の夜冷凍庫見た時はそんなもの入ってなかったからいつ買いに行ったのかな?って感じだけどもそこはまあ目を瞑ろうか。

コンビニ程度の外出はOKでも、イケメンを前にするとなると気合を入れなければならなくなると言うことなんでしょうかね。
まあまあ、余計なことは何も言わないでおきましょうかね。


「二つ買ってあるから」

「それは奮発し過ぎじゃない?そんなに重要任務だったの?」

「違うわよ。一つは馬場くんにどうぞしなさい」

「ええっ」


まさかの尊さん用だったんだけど。

もしかしてそれは差し入れと言う名の餌付けか?
みんなの馬場尊を餌付けしようとしているのか?
餌付けは言い過ぎにしても、そうやって自分の株を上げておこう作戦だったりするんじゃないのか?

だったら自分の手で「馬場くんどうぞ(ハート)」って渡した方がいいに決まってるか。
あとうちの母親は森野派だった筈だ。


「なんでよりによって俺がラブなアイスをどうぞしなきゃいけないのよ」

「は?」

「はいすいませんちゃんといつもお仕事ご苦労様ですって言ってどうぞします調子に乗ってすいませんでした」


即座にパソコンの画面に向かって謝ると後ろから小馬鹿にしたような短い笑い声が聞こえてきた。

おっかない母ちゃんの「は?」の威力って凄いよね。
お座りとかお手の要領で「は?」って言われたら反射的にごめんなさいしちゃうんだから。
対面してなくてよかったわ、マジで。

その後ママンは「じゃあよろしくね」と言って一階に消えていった。
すかさずミュートを解除して柚希に「ただいまー」と声を掛ける。


『おかえり。お母さんだった?』

「そー。長くなってごめんね」

『いや全然。何かあった?』

「んーなんかこの後荷物届くっぽくてさ。それ受け取れって言われたからこのクエ終わったら一旦待機しなきゃいけなくなったわ。ごめん」

『そうなんだ。じゃあこれ終わったら雑談してよっか』

「いい?ごめんね。ありがとう」


相変わらず優しい柚希に感謝だわ。
柚希にこそ俺のお気に入りのアイスをどうぞしてあげたい気分だわ。

てかマジでうちの母親は何を考えているんだか。
尊さんとの関係を知らないとはいえ、何微妙にいちゃつける時間を作ってくれちゃってるんだよって感じだよね。
そりゃあリビングに母親がいると思ったら下手なやり取りは出来ませんけども。


『荷物ってことは、あの三人の誰か?』

「あーうん。そうですね」

『じゃあ会えて良かったじゃん』

「あーうん。そうですね」

『その間詩音とられると思ったら俺は寂しいけど』

「あーうん。そうで……テキトーな返事してるってバレちゃった」


「なんでそんな可愛いこと言うんだよ」って怒ったら『テキトーな返事するなよ』って笑いながら怒られた。
だって今のは柚希が悪いだろ。


「柚希が返答しづらいことさらっと言ってくるからじゃん」

『今更隠すことじゃなくない?』

「そう言う問題じゃないのよ。俺は別に柚希に惚気たい訳じゃないのよ」

『散々惚気といてよく言うよ』


それこそ今更だと言われて「う…」ってなった。

俺は今まで惚気ていたのか。
申し訳ないけどその自覚はなかった。今度から気を付けるから許して欲しい。

『結局詩音は…』と柚希が何か言い掛けたタイミングでインターホンが鳴ったのが聞こえた。
母親の言っていたもうすぐがマジでもうすぐ過ぎてびびるんだけど。


「ごめん来たっぽいわ。一回切ってまた後で掛け直していい?」

『分かった。待ってる』

「ごめんね」


じゃたまた後で、と言って通話を終了させて部屋を出た。
一階に降りて一旦リビングを覗くと母親が怖い顔して「早く出なさいよ」と脅してきたから、そのまま無言でドアを閉めて玄関に向かった。

アイスはどのタイミングで出すのよ。
受け取った荷物とリビングでトレードってことでいいのか?




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あきゅろす。
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