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5分なんてとっくに過ぎてしまっているから「マジで時間やばいんじゃないですか?」と心配したら徳川さんが「そうだね」と言って俺の身体を抱き締めてきた。

今のはそうだね史上最も無意味な相槌だったんじゃなかろうか。
こんなにも行動が伴っていないそうだねを経験したのは初めてな気がする。


「仕事したくないんですか?」

「したくない」

「マジか。徳川さんも案外そう言うとこあるんですね」


そっちの方が意外だわ。
不真面目な感情なんて一切ない人だと思ってた。

徳川さんも人間なんだな。


「お気持ちは分かりますけど、そのせいで徳川さんの評判が落ちるのは嫌ですね」

「…それは別に構わないけど、職務放棄は流石に出来ない」

「分かってるならさっさと離れましょうか」


そう言ったら小さな声で「そうだね」と聞こえたけど、その後ちゃんと離してくれたから今度は意味のあるそうだねだったようだ。

意味のあるそうだねってなんだろうね。

あとすっごい寂しそうな顔してるように見えるんだけど、俺だって一応出さないようにしてるだけだからね?
えー俺もぎゅーしたいんですけどーって気持ち我慢して抱き締め返さなかっただけだから。

せめてもの我がままで「その表情の豊かさはここに置いていってくださいね」って言ったら徳川さんがこくんと頷きながら「分かった」って言うから思い切りにやけた。
可愛い反応ありがとうございます。


それから徳川さんとバイバイした後、積み重なった荷物をリビングに運び終えて「ふう…」と一息つくと途端に眠気が襲ってきた。
徳川さん問題が解決した効果が最短で発揮されたみたい。

今更リズムも何もないので眠い時に寝ましょうと言うことでね。
鏡でちらっと確認した自分の顔は確かに若干覇気がないように見えたしね。

それでもガッツリ寝はしたくなかったから今日はリビングのソファで寝ることにした。
寝心地が悪くて目が覚めるだろうと踏んで。

目論見通り2時間弱で目が覚めたから、その後適当にお昼ご飯を食べて夜まで適当に過ごした。

後はベッドで寝るだけの状態になってから今日もオンラインゲームをやり始めたんだけど、暫くしたらサトがきて一緒にクエスト参加してたら個人チャットが飛んできた。
『寝不足は解消された?』と送られてきたから、心配してくれてたんだなと思ってちょっと嬉しくなる。


『心配してくれてありがと!もう大丈夫そう』

『それならよかった』

『サトは忙しいの落ち着いた感じ?』

『まあ、今はそうだね』


今はってことはまたすぐに忙しくなる感じだろうか。
サトが何の仕事をしているのかは知らないけど社会人はほんと大変そうだよね。

俺も働き出したら今みたいにゲーム三昧の生活を送ることは出来なくなるんだろうなと考えたら辛くなったから、ゲームは出来る内にしておこうと思う。


『一人暮らしだったっけ?』

『そうだよ』

『なんか大変そうだよね』

『慣れるまでは大変だと思う。一人暮らしするつもりなの?』


いや、しなくていい間はするつもりはない。
でも、柚希に言われてからいざと言う時はその選択もアリなのかなとは思い始めている。


『最近ちょっとアリなのかなーって思ってて』

『自由だから?』

『ある意味』

『ある意味?』


それは詳しくは言えないんだよなあ。
自分から言い出してごめんって感じだけど。


『まあ色々?でも一人だと寂しいかなってちょっと心配』

『初めてするならそうかも知れないね』


やっぱそうだよねー。
サトも初めて一人暮らしするってなった時は寂しかったのかな。
暫くしたら慣れるもんだろうか。


『友達が一緒に住んでもいいよって言ってくれてるんだけどさ』

『ルームシェアってやつ?』

『うんでもいつまでも誰かに甘えてちゃ駄目だよなーとも思う』

『甘えられる内は甘えていいとは思うけど、ルームシェアも色々大変そう』

『大変って?』

『生活リズムとか合うのかなって。したことないから分からないけど』


確かに、その辺は全然考えてなかった。

まあ柚希が言ってたのはあくまでもそんな選択肢もあるんじゃない?ってことだと思うから向こうも本気ではないだろうけど、もしそうなったら多少のずれは生まれるだろうな。
お互いに別の大学に通ってるし、柚希はバイトしてるみたいだし。

てかそうなったら俺もバイト始めなきゃいけなくなるのか。
家賃とか生活費とか稼がなきゃだもんな。
親がどの程度の支援をしてくれるか分かんないし。


『一人暮らしでもペット飼ったら寂しくないかな』

『面倒見れる?』

『失礼な』

『犬とか猫って結構お金もかかるよ』

『そうなの?』


まあそうか。最初だけでもうん十万とかするもんな。
まったくもって払える金額じゃないな。


『ハムスターとかならいけるかな』

『動物が好きなの?』

『そこまでじゃないかなーどっちかって言うと普段は俺が面倒みて貰う方だし』


と送った後になんか色々誤解されそうだなと思ったからすぐに『犬と猫ならどっち派?』と訊いて微妙に話題を逸らした。


『猫かな』

『へーなんで?』

『自分だけに懐いて欲しいから』


その回答を聞いて徳川さんのことを思い出しちゃってちょっとドキってなった。

猫派の人はそう考えるもんなんだろうか。
みんながみんなそうじゃない気はするけど、自分にしか懐かなかったらそれはそれで大変じゃない?と思っちゃうなあ。
他の人に可愛がって貰えないじゃん。

みんな(近所のおばちゃん達)に可愛がられて育ってきた俺としては、色んな人に愛想振り撒くメリットを身をもって体感しているからな。
飼い主だけって寂しくないのかな?って思っちゃう。

って、なんで俺が猫の気持ちを分かろうとしているんだか。


『シュガは?』

『どっちかって言うと犬かなーどっちも飼ったことないけど』

『実際飼ったらどっちも大変そう』

『だねー飼うならお世話が楽なやつにするわー』


何が楽なのかも分からないし、そもそも一人暮らし自体するつもりはないけど。
いざと言う時の為にリサーチしておくくらいはいいだろう。

いつか思い出した時に調べてみよ。


『そろそろ寝るよ』

『おけー無駄話に付き合わせてごめんねー?』

『いや、こちらこそ。シュガも早目に寝るんだよ』


んもう、みんな俺相手だとママになっちゃうんだから。

『オカンか』と返したい気持ちを堪えて『ありがとーもう数戦したら寝るわー』と返しといた。
俺も今日は早目に寝るつもりではあったからね。

…え、ほんとだよ?

ってことで宣言通り、サトとのチャットを終えた後にクエストを二戦してからベッドにインした。
最近はベッドの中で色々と考えがちだったけど今日はすっと眠りに就くことが出来たっぽい。

明日起きて身体がすっきりしていたら柚希にありがとうって送ろうと思う。
何がとは言わずに。




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あきゅろす。
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