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いつか柚希にキスが”出来るか出来ないか”と”したいかしたくないか”問題は別だと言われたことを思い出した。
あの時の俺はまだ”出来るけどしたい訳ではない”だった。そうだと思ってた。

でも今は。


「あとどのくらい時間ありそうですか?」


残り時間を確認すると徳川さんが腕時計に視線をやった。
少し考える素振りを見せた後に「今日はあと5分が限界、かな」と答えた彼にすかさず「じゃあ5分間ちゅーして」と強請ると、徳川さんの表情がすっと変わる。

それからスマホを取り出して操作し始めた彼に何をしてるのか訊ねるとアラームを設定していると答えられて「真面目かよ」って突っ込んでしまった。
その後、少し不満そうな顔で「そうしないと5分で止められる自信がないから」と言われて「だから真面目かよ」って思ったけど今度は声には出さなかった。

まあ、徳川さんの為にはちゃんと時間を守らないとな。
その分、今からの5分は俺がしっかり貰ってやる。

でも自分からするのは恥ずかしかったから目を閉じて待機していると徳川さんが笑ったような気配がした。
そうゆうのいいから早くしろよなと思って目を閉じたまま「はやくして」と催促すると、その3秒後に唇同士がそっと触れ合う。

何回も何回も触れるだけのやつを繰り返して、それから段々と深くはなっていったけど、全然苦しくはなくて。
荒っぽさはない。でもめちゃくちゃ余裕そうって感じでもない。
ただただ徳川さんの愛情に包まれているみたいな、優しくて気持ちいいキス。

俺の心の中が見えてるのか?ってくらい徳川さんがしてくれるキスが完璧に俺が求めるものだったから、ぐっときてしまった。

5分なんて長い方だろと思ってたのに、もうちょっとこのままでいたいと思ってしまう。
でももうそろそろ終わっちゃうんだろうなってのも体感で分かる。

寂しくなって名前を呼びながらぎゅって抱き着いたら、その後めちゃくちゃ舌を突っ込まれて口の中を好き勝手荒らされた。
俺の頭の中を全部徳川さんで埋め尽くすみたいな、最後の最後でそんなことしてくんなよずるいだろって感じの激しいキスに身体の熱がぶわっと煽られる。


「あっ…んん…っ」


絡め取られた舌を根元の方がらじゅうっと吸われて腰が砕けそうになった。
咄嗟に徳川さんの着ている服を握り締めてしがみついたけど、頭の中はもう霞みがかっていてまともに働いていない。

そのタイミングでスマホのアラームが鳴り出した。
それでも、音自体は耳に届いているのに、キスを止めなければいけないんだと頭が認識してくれない。

そのままお互いに快感を求め合っていたけど、口の端から零れた涎が顎の方へ垂れていく感覚でふと意識が呼び戻された。


「徳川、さん…」


目の前の胸板に手を添えてそっと押し返すと、名残惜しそうに唇をちゅっと吸われて彼の顔が離れていった。
けど、すぐに戻ってきて垂れた涎をべろっと舐められ、変な声を出すと共に肩が揺れる。


「んっ、う…っ」


その程度のことなのに過剰な反応をしてしまった自覚はある。

でも仕方ないだろ。
今ちょっとそう言う気分になっちゃってるんだから。

そんな空気を追い払うようにもう一度鳴り出したアラームを、徳川さんが溜息を吐きながら止めてスマホをポケットにしまう。
まるでいやらしい気分になってちゃ駄目ですよーって言われてるみたいだなと思ってちょっと笑えた。


「なんで最後激しいのしたんですか」

「ごめん。離れたくないと思ったら、つい」

「へえ。じゃあ、俺が考えてたことが通じたんですね」


俺も離れたくないと思ってた。
そう言葉にした訳じゃないけど、ちゃんと伝わったみたいだ。

困ったような顔をして「詩音くん…」とだけ呟いた彼を見て、あーこの顔は我慢してる時のヤツなんだなって察することが出来た。

徳川さんの困った顔を見分けられるようになってきてるっぽいわ、俺。


「あんなキスしといて時間だからじゃあさようならってなんか寂しいですね」

「…期待させるようなことばかり言うね」


あー、そうだった。
正直な気持ちを言うと煽り認定されると言うことを学んだばかりなんだった。

苦笑しながらすいませんと謝ると徳川さんが複雑そうな表情を見せる。


「配達の時以外で会いたいって言ったら、僕とも会ってくれるの?」

「え。それはまあ、タイミングが合えば?」


そう答えると徳川さんの表情に安堵と喜びの感情が浮かんだ。
分かりやすいとまではいかなくても、そのくらいの変化なら普通に読み取れるようになったことが俺的には嬉しい。

しかもこれで漸く全員の連絡先を入手することが出来たからな。
そりゃあもうほくほくだわな。


「昔から返信は遅いで定評のある詩音くんなので、その点はご理解ください」

「そうなんだ。意外だね」

「そうですか?」


意外だと言われたのは初めてな気がする。

でもそうか。
徳川さんはまだ俺がいかにテキトーな人間かを知らないんだもんな。
猫被ってる俺を見てきたんだから意外だと思われても仕方がないか。


「返さない、とかもあるくらい全然まめじゃないって知っといてください」

「分かった。僕も頻繁にやり取りする方じゃないと思うけど、」

「そっちはもうまさにって感じですね」


そんな感じしかしないと言って笑うと、それこそ言われ慣れているのか特にリアクションはなかった。
でもその後「詩音くんには用もなく送ってしまうかも知れない」と言われて溜息を吐いてしまう。


「迷惑?」

「いや、いいですよ。全然いいですけど」


そんなこと言われたら俺も返信早くなるかも知れないなって思っちゃったんだよ。
もうこれ重症だろって思った溜息だよ。


「夜は大体ゲームしてるんですけど、ゲーム中じゃなければ出来るだけ返すようにはします」

「無理しなくていいよ。好きなことを優先して」


そう言われてもな。
好きな”こと”ではないかも知れないけど、徳川さんだってもう俺の中では好きのカテゴリに含まれているのにな。

それを言うとまた何か言われそうだったから無難に「ありがとうございます」とだけ返しておいた。
そしたら「でも、寝不足にならない程度にした方が良いかもね」と言われてうってなったよね。

まるで俺が寝不足気味だとバレているかのような口ぶりじゃないか…
残念ながら原因はゲームじゃなくてあんたらなんだけどな…

もしかして俺の顔に寝不足ですって書いてあるんだろうか?
後で鏡見て確認しなきゃ。
隈とか出来てたら貧相なお顔がもっと貧相になってしまう。


「ご心配ありがとうございます。徳川さんと仲直り出来たので今日は安心してぐっすり眠れると思います」

「…もしかして僕のせいで寝不足だった?」

「えっ。ああいや、そう言う訳じゃないです。てか別に寝不足じゃないです」


変な心配はさせまいと咄嗟に嘘を吐いてしまったけどそのくらいは許して欲しい。
世の中には必要な嘘と言うものがあると俺は信じている。

慌てて訂正したからか徳川さんは少し納得していないような様子だったけど、それ以上突っ込まれることもなかった。




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あきゅろす。
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