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さあ、今日は決戦の金曜日だ。
定期便の配達は午前中と決まっているから今日はしっかりと8時には起きて身支度を終え、朝食もささっと済ませておいた。
準備万端とはまさにこのことを言うだろう。
前回の定期便の時は9時丁度に来たけど、今回は数日前に色々あったから向こうもその手ではこないだろうと踏んでいる。
とは言え俺だって今回は失態を犯す訳にはいかないからな。
いつ攻め込まれてもいいように臨戦態勢を整えておかねばならない。
そう意気込んで、リビングでその時を待つこと20分。
相手は予想を裏切って9時ちょっと過ぎに我が家の呼び鈴を鳴らしてきた。
なにぃ…!?9時、ちょっと過ぎ…だと…!?
予期せぬ出来事に軽くテンパって、心の中で10回”何を言われてもめげない”と唱えることを忘れたまま玄関にダッシュしてしまった。
ドアを開けた瞬間に「あっ…」ってなったけど開けてしまったものは仕方ない。
ご対面した瞬間に向こうが若干驚いた反応を見せたから、隙あり!と思って勢いに任せて「徳川さんまだ俺のこと好き…!?」と詰め寄ったら逆に玄関の中に押し込まれた。
「おっ、えっ」
「あまり外で大きい声で言うことじゃないね」
「…あっ、確かに」
すいません、と謝ると徳川さんがふっと力を抜くように笑った。
あ、笑った…と思ったら俺も安心して気が抜けたようだ。
口調も敬語じゃなかったから業務用でもなさそうだと分かってここぞとばかりに「荷物運んだ後、時間あります?」と訊ねると、徳川さんは静かに頷いてくれた。
とりあえず突き放されはしなかったから良かったわ。
今の内に10回唱えとこ。
何を言われてもめげない、何を言われてもめげない…
10回なんて余裕だったから追加で”今日は素直さを心掛ける”ってのも自分自身によーく言い聞かせておいた。
俺は別に捻くれてなんかいないけど今日は特別に、ね。
最後の荷物を運び終えた徳川さんが「この前は…」と言い出したから、すぐさまストップを掛けて「先に俺の話を聞いてください」と言わせて貰った。
何か言いたそうな顔に「俺、ぶっちゃけ徳川さんのこと好きです」といきなり結論を伝えると徳川さんが機能停止した…ように見えた。
いや、マジで。
呼吸止まったの?って心配になるくらい停止しちゃってる。
やっぱりロボットだったの?って納得も出来ちゃうレベルだ。
「徳川さん生きて」
「……今のは冗談?」
「あーなるほど」
そうきたか。
「それは俺もショックです」と言ってしゅん…と耳を垂らすと、徳川さんが慌てた様子で否定しかけ、その後頼りなさげに「でも…」と漏らした。
まあ、分かるよ。
自分でもマジかぁって思ってたし。
「この前俺、徳川さんはみこ…馬場さんとポジション的には同じだって言ったじゃないですか」
うっかり名前で呼びそうになったけど名前呼びに関して突っ込まれたくなかったから名字に言い換えといた。
一瞬反応されたけどここは無視させていただく。
「アレがつまりそう言うことで、正直に言うと俺は馬場さんのことも好きです」
「………」
また持ち上げて落とす形になってしまって申し訳ないけど、こればかりはどうしようもない。
事実しか言わないと約束するから大目に見て欲しい。
「で、もうバラしちゃうと、森野さんもなんですよね」
「……それは何となく分かってた」
うん、こっちも分かってる。
だろうなと思ってたから言った。
まあお陰で話がスムーズに出来るようになったわ。
「ただですね。徳川さんはあの二人とポジション的には同じでも、関係性が違います」
「…そうだね」
「はい。あの二人はそもそも俺にとって仲良いお兄ちゃんって感じだったけど、徳川さんは違ったじゃないですか」
「…うん」
「だから、あの二人と比較が出来なかったんですよね」
そもそも俺は徳川さんのことを何も知らなかったから比較する要素がなかった。
でも、徳川さんに関しては比較の必要性をあまり感じなかったって言うか。
「比較むずってなったから、途中からポイント制にしてみたんですよ。そしたらあの二人が容赦なくポイント積んできて」
「…だろうね」
「でも、徳川さんとは告白された日に会っただけだったじゃないですか」
「…それでやっと顔を出したと思ったら、あんなこと言われたんだから…僕には減点要素しかないね」
「いや全然」
そう言うことが言いたかったんじゃない。
確かに俺がダメージを受けたことは間違いないよ。
悩みもしたし不安も抱いてしまったけど、でも別に減点対象ではなかった。
なんでそんなこと言うんだよ徳川さんなんかもう知らない!ってならなかったからね。
「寧ろあの日のお陰で俺が徳川さんのことをどう思ってるのかハッキリしました。徳川さんが頭冷やした結果、もう俺のことは好きじゃないよってなったら嫌だなって思ったんですよね」
それは人として嫌われたくないってのとは違うからな。
仲良い友達に対して思うヤツとは違う。
ちゃんと恋愛感情として好きなままでいて欲しいって思ったってことは、まあそう言うことじゃん。
「それでさっき訊いたんですけど、返事貰ってないんでもう一回訊きますね。徳川さんは、まだ俺のこと好きですか?」
ちょっとだけドキドキしながら訊ねると、徳川さんは困ったような顔をして「好きに決まってるよ」と答えてくれた。
純粋に喜べないからそんな顔で言わないで欲しいんだけど。
嬉しいけど。安心したけど。
「よかった…」と言ってへらっと笑うと、徳川さんは迷うような表情を見せた後、躊躇いがちにそっと俺の身体を抱き締めてきた。
「んー。めっちゃソフト。そこまで脆くないですよ俺」
「…手の届かない存在だと思ってたから」
「え?…いや、それどっちかって言うとこっちの台詞なんですけど」
「…僕はそんな大した人間じゃないよ」
「ほう。今日はネガティブなんですね」
「ポジティブな徳川さんの方が好きだなぁ」って言ったらぎゅううって抱き締められたから笑っちゃった。
笑うだろ。何でポジティブさを表現してんだよ。
「そうだ。徳川さんがもっとポジティブになれそうなこと言ってあげましょうか」
「なに」
「そこのレスは早いんですね」
「うん。なに?」
ぶは。かわい。
「比較は出来ないって言いましたけど、告白された時に一番ドキドキしちゃってたのは徳川さんでしたよ」
「…何で?」
「分かんないけど、ギャップ?とにかく徳川さんは初回の加点がえぐかったです」
「…そんなに何かをしたって記憶はないけど」
「とか言って。それまでの自分がどんなだったか思い出してくださいよ。俺の前で笑ったことすらなかったんですからね?」
そんな人が突然表情を緩ませて好きだの可愛いだの言い出してみなさいよ。
それだけでも相当なのに、キスまでされたんだから。
ドキドキの意味はいっぱいあったけど、その量と継続時間で言ったらやっぱり徳川さんが一番だった。
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