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と言うことで翌日の午後。
母親からの情報だと今日届く荷物は14時から16時指定とのことだったからお昼過ぎまで寝といてやろうと思ったのに、どう言う訳か9時過ぎには目が覚めてしまった。
ベッドに入った時間も遅かったから全然寝足りず、二度寝しようとしたけどまたもや無理そうだったから諦めた。
それもこれも森野さんのせいだと思うから、配達に来たら八つ当たりしてやる。
ってな感じでごろごろしながら待ち構えていたら、予想通り15時半過ぎくらいに森野さんはやって来た。
「こんにちは」
「ちはー」
「…なんか元気ない?」
普通に挨拶したつもりだったけどいきなりそんなこと言われたからビックリした。
え、挨拶しただけで分かるもん?
別に元気ない訳じゃないけども。
「寝不足なんですよねー」
「そうなんだ。ゲームのし過ぎ?」
「それもありますねー」
「他の理由もあるの?」
「その前にサインしますねー」
はい、と手を差し出すとボールペンと荷物が渡された。
それにささっと記入してそのまま荷物を受け取り、突っ立っている森野さんに「入りますよね?」と確認してから玄関の中に招き入れる。
「なんで笑ってるんですか」
「うん?うん。詩音くんから入れてくれたから」
「だってイケてるお顔に俺とお話したいって書いてあるんですもーん」
そう答えると森野さんが「書いといて良かった」と言ってまた嬉しそうに笑う。
俺が確認しなかったらどうするつもりだったんですかって可愛くないことを訊くつもりが、気付いたら「俺の顔にも書いてありました?」って訊いちゃってた。
一瞬動きを止めた森野さんが、俺に一歩近付きながら「書いてあった、と思いたい」と答える。
だから笑っちゃったよね。
「何その笑顔。可愛過ぎるでしょ」
「森野さんって基本控え目ですよね」
「…それは詩音くんなりの照れ方なの?」
「いや別に。一個前の文章に返事してました」
森野さんが勝手に感想を捩じ込んできたから噛み合わなくなっただけだ。
一個前の発言を思い出している彼に「あとちょっと前の質問に答えると、寝不足の原因は森野さんのせいでもあります」と答えると彼の眉毛がぴくっと動く。
「俺のせい?」
「ある意味ですけどね。予定より早く目が覚めたから二度寝しようとしたんですけど、森野さんに会えるかもなーって思ったら寝れなかったんですよ」
だから森野さんのせいだと八つ当たりすると、そっと溜息を吐かれた。
溜息は予想外だな…と森野さんの反応に不満を抱いていたら、もう一歩近付いてきた彼にぎゅっと抱き締められた。
「控え目なんかじゃないよ、俺」
「そうですか?でも基本的に俺の反応確認してから行動してますよね」
「…何でそう言うことは見抜けるのに、俺の気持ちには気付かなかったの?」
「普通に考えて森野さんが俺のことを好きだと思う訳ないでしょ」
森野さんだって気付かれないようにしてたんだろうし、それが少し漏れてしまっていたんだとしてもそんな思考にはならないよ。
好きの意味がもっと単純なものだったらまあ分かるだろうけど。
「既成概念ってヤツですか。あいつら強いですよね」
「まあ、そうだね」
「簡単には無視出来ないですよ」
だけど…と言って、森野さんの背中に腕を回して抱き着く。
暑くて汗掻きそうだけど、今はなんかどうでもいいやと思えた。
「感情ってヤツは、ちょっとしたことでも勝手に変わってっちゃうじゃないですか」
「…そうだね」
「森野さんのことはイケメンで優しいお兄ちゃんとしか思ってなかったのに、気付いたらそう言う意味で意識しまくってるし」
そこまで言うと俺を抱き締める腕に更に力が込められた。
これ二人揃って汗だくになるんじゃないかな。
俺はいいけど、森野さんはまだお仕事があるだろうに。
「くやしいけど、今も森野さんにぎゅってされて、安心しちゃってるんですよね」
「…詩音くん」
「待って。今から一回森野さんのこと突き落とす予定だから」
「っ…何、それ」
「言ったじゃん。ポイント高い人選ぶって。だけど、誰もリードしてくれないんですよ」
動揺し始めた彼が可哀想だったからさっさと突き落としてあげた。
ここから先、浮上するか低空飛行を続けるか、それともそのまま墜落するか。
それは森野さん次第だろう。
「全然減点させてくれないのにどんどん加点だけされてくから、その分俺も、森野さん達のこと…意識しまくっちゃうじゃないですか」
「酷いですよ…」と八つ当たりをしたら、優しい声で「ごめん」と返された。
この場面でのごめんは色んな解釈が出来てしまうから是非とも何がごめんなのか説明を付けて欲しい。
何が、と訊こうとしたら「相手は誰なの」と訊かれて思考がそっちに逸れた。
「……。うーん」
「二人くらい心当たりはあるけど」
「えっ?」
二人ってそれもう正解確定なんじゃない?と衝撃を受けまくっていたら「一人はこの前の…」と聞こえたから身体から力抜けた。
だよな。いきなり当たる訳ないよな。
「だから柚希は違うって言ってるじゃないですか」
「…ふうん。じゃあ一人しか思い当たらない」
「なんで森野さんが知ってる人限定になってるんですか?」
「まあ、確かに。でも一人は馬場くんでしょ」
「っ……」
声は出さなかったけど身体がちょっと揺れてしまったかも知れない。
その反応が彼に確信を持たせてしまったようだ。
「やっぱりね」と呟くように言われ、俺も早々に諦めることにした。
まあこれで尊さんに関してはフェアになったからそこは良しとするか、と結論づけることにする。
「なんで尊さんだって思ったんですか?」
「…馬場くんのこと下の名前で呼んでるの?」
「え、今そこ反応します?」
「するよ。思い切り差を付けられてるじゃん」
えぇ…そんなの差になる?名前で呼んでるってだけじゃん。
確かに尊さんも最初に呼んだ時はめちゃくちゃ嬉しそうにしてたけども。
「えー俺森野さんのままがいいなぁ〜」
「何で」
「だって直輝(ナオキ)さんって感じじゃないもん」
「……もう一回言ってみたら変わるかもよ」
「ぶっ」
もう一回呼んでって言えばいいのに遠回しな言い方をするから思わず笑ってしまった。
にやついた声で「なに喜んでるんですか」と言ってやると「そりゃあ、喜ぶよ」と返ってくる。
「直輝さん」
「…うん、俺も恥ずかしいかも知れない」
「え、じゃあ直輝さんって呼ぼー」
「…うん、そうして」
俺の捻くれた回答のせいで森野さんも素直に喜べていない様子だった。
いいだろそれくらいの意地悪したって。
俺だって恥ずかしいんだよ。
「直輝さん」
「…なに」
「練習してます」
「…ああ、そう言うこと」
「直輝さん」
うーん…まだしっくりこないな…
森野さんのしっくり感が強いわ。
「直輝さん」
「…何回呼ぶの」
「しっくりくるまで」
「…しっくりこないんだ。じゃあ顔見て言ってよ」
そう言って少しだけ身体を離した彼が、優しい表情で俺を見下ろしてくる。
さっき自分も恥ずかしいかも知れないとか言ってた癖に、もう既に慣れてる感じがしたからちょっとだけくやしくなった。
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