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こんなにも俺の為を思って親身になってくれる友人を無下にすることなど出来るだろうか。
そんな罰当たりなことをしたらお天道様の下を歩けなくなってしまう。
「俺は誰に何を言われても柚希と友達でいることを止めてなんかやらないんだからね!」
『ありがとう。まあ確かに、友達止めろとまで言い出したら流石に考えた方が良いかも知れないね』
「そんなこと言われたら絶交だって言ってやるから安心してよ」
『もしそうなったらその時は俺が慰めてあげるから安心して』
「うあああ柚希様ああああ」
本人が目の前にいたらひれ伏していたかも知れない。
そのくらい最高な甘やかしを受けた。今。
『前から気になってたんだけど、そんな大きい声出して家の人に聞かれたりしないの?』
「それは大丈夫。防音対策がそこそこなされている部屋だから」
『へえ。それも凄いね』
「ゲームしてる時の俺の声がうるさいからってマミーが色々改造してた」
『お母さんがやったんだ。それも凄いわ』
柚希は感心したように笑っているけど、その件で母親と一悶着あった時のことを思い出すと気分が萎えるからあまり思い出さないでおく。
「そう言えばこの前さ、埋め合わせするって言ったじゃん?」
『あー、アレね。別に良いよ、なくて』
「なんで!」
『あの時は森野さんの反応が面白かったからちょっと揶揄ってたって言うか』
「え、何それ」
『詩音は見えてなかったからね。あの人の顔』
え、そんなこと言われたらどんな顔してたのかめちゃくちゃ気になっちゃうんだけど。
今度お願いして再現して貰おうかな。
「どんな顔してたの?」
『言葉で伝えるのは難しいかなあ。まあざっくり言うと牽制されてたって感じ』
「牽制…」
なんかそれ森野さんも同じこと言ってた気がする。
それを伝えたら柚希が独り言のように『へえ…そう見えたんだ…』と呟く。
「急に友達連行されかけたんだから当然の反応だろって言っといたけど」
『まあ確かにそれはあったね。会ってから時間経ってなかったし』
「うん。でもそれは俺にも責任があるから、埋め合わせと言うかお詫びをさせて欲しいです」
俺の気持ち的に、と念を押すと柚希が諦めたような笑い声を漏らした。
幾ら柚希が無償の愛を振りまける人間だったとしても、世の中はギブ&テイクで成り立っていると俺は思う。
与えられてばかりの俺が言えることじゃないかも知れないけど。
『じゃあ、詩音に恋人が出来ても俺のことは特別扱いして欲しいってのは、アリ?』
「と、言いますと?」
『そうだね…もし俺とのことで何か言われたとしても”柚希は特別だから”って言い返して欲しいなって』
「え、うん、いいよ?てか言われなくてもそうしてたと思うけど。そんなのお詫びでも何でもなくない?事実じゃん」
そう言うと柚希は『やっぱ詩音好き』と言って嬉しそうに笑っていた。
よく分からないけど、前聞いた話から勝手に想像するに、もしかしたら柚希には俺みたいな友人が出来たことがなかったのかも知れない。
まあ我ながらちょっと特殊かなと思わなくもないけど、だからこそ俺との関係をこれからも続けていきたいと思ってくれてるんじゃないかなって。
非常に勝手に、しかもめちゃくちゃ俺にとって都合の良い解釈をして一人でにやけた。
俺だって柚希みたいな友達は初めて出来たんだ。
これからも大切にしていきたいと思ってるよ。
「今度うちに泊まりに来てよ」
『え、いいの?』
「うん。うちの母親ももれなくイケメン好きだから大歓迎だと思う」
『もれなく?』
「あ、この辺に住んでる人みんなそうなんだよね」
なんでそんなこと知ってるんだって突っ込まれそうだったから説明しようとしたら『詩音もなんじゃない?』と言われてえってなった。
「なんで俺?男だよ?」
『それは詩音が今一番気にしたら駄目なところなんじゃないの?』
「あ、そんな意地悪なこと言うんだ」
『意地悪じゃないよ。でも森野さんもイケメンだったじゃん?』
「あの人は勝手にイケメンなだけだよ」
そう答えると柚希が『勝手にイケメン。確かに』と言ってケラケラ笑う。
確かにって言ってる癖になに笑ってんだ。
「言っとくけど柚希もだからな?いや、柚希はもっと勝手にイケメンだったわ」
『もっとが付いた』
「なに喜んでんだよ。柚希の顔見た瞬間に俺の中で色々崩れ落ちていったって知らないだろ?」
『何か言ってたのは覚えてるよ』
「じゃあ顔は関係ないって言ったのも覚えてろよな」
『それはまあ、友達と恋人では別なのかなって思って』
ねえなんでちょくちょくそうゆー発言挟んでくるかな。
意地悪じゃないって言ってるけど絶対意地悪だよね?
「そもそも俺に恋人なんてものはいないんですよ」
『そうやって悪足掻きしてる詩音も可愛いけど、』
「詩音の前に変な言葉付けないで」
『素直な詩音が一番可愛いと思うよ』
誰目線の話してんだよって咄嗟に突っ込みそうになったけどギリギリのところで思い止まることが出来た自分を褒めたい。
てか、悪足掻きって言うなよ。恋人がいないのは事実だろ。
あと別にイケメン好きでもないんだよ。
普通に男女ともに顔が整ってる人は目の保養だって認識してるだけだし。
「とりま今のは柚希からのアドバイスだと受け取っとくよ」
『うん。そう言う素直なところが詩音の良いところ』
「ありがとう。でも素直と自分勝手は紙一重だと思わない?」
『また難しいこと考えてる。仮にそうだったとしても、あの人達は全部詩音の気持ちとして受け入れてくれると思うよ』
「……そうなのかな」
『それでもし嫌われたら…とか不安を感じてるんだったら、詩音にとってもうあの人達がそれくらいの存在になってるってことだよね』
「………」
さっき柚希は、俺を俺の幸せへと導いてくれているって言ってた。
それは、その先に見えている答えは柚希から見ても俺の幸せだと言えるってことなんだろうか。
俺の中に急浮上してきているその答えは、トータルで見た時にはたして本当に正しいと言えるものなのか。
「…もうちょい考えた方がいいな、って思う。でも今日はもう頭使い過ぎたからまたにするわ」
『分かった。俺も色々と勝手なこと言ってごめん』
「いやいや。マジで助かってるからそんなこと言わないでよ」
『そう。まあ、俺は詩音の味方だから。困ったらいつでも頼って』
「ん、ありがと」
その後少しだけゲームの話をしてから通話を終了させた。
柚希にアドバイスを貰ったお陰でとりあえず徳川さんの件はなんとかなりそうな気がする。
あの人には俺が思っていることを正直にぶつけようと思う。
”何を言われてもめげない”と心の中で10回唱えてから挑めば大丈夫だろう。
まあその前に、明日は多分森野さんが来る日だから柚希を苛めた件をさらっと問い詰めてやろうかな。
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