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もう柚希に相談に乗って貰うことはないだろうと思っていたけど、今回はただ話を聞いて欲しかったんだと思う。
この話は柚希にしか出来ないから。


「…ってな感じで、非常に空気が悪い状態になっちゃったんだよね」

『…成る程ね。結局その人は詩音に自分だけのものになって欲しいって言いに来ただけだったのかな』

「んー、さあ。それは俺も分かんない」

『詩音は何も答えてないんだよね?』

「うん」

『もし答えを求められたら何て答えてた?』


答えを求められたら。
徳川さんだけのものになれるかどうかってことだよな。


「現段階では無理です、って言ってたと思う」

『他の二人と差がついてないから?』

「そう」

『その差はつきそうなの?』

「んー」


正直言うと全員、減点要素があんまないんだよな。
だからもうどのくらい加点されるかってことになってくるけど、でもそうゆうのっていついつまでにって期間を設けないと判断出来ない話だってことも分かってて。


「夏休み中には答えを出せたらいいなって、考えてはいるんだけど」

『そんなに急がなきゃ駄目な話?』

「いや、……この状態が続くの、まあまあしんどいんだよね」


ぽろっと本音を漏らすと、柚希が優しい声で『しんどいって?』と訊いてくる。

そうやって、俺のことなんでも受け入れてくれるみたいな優しさを向けてくれる柚希に心底感謝した。
昼間の痛みもその優しさで癒やして貰えるようで、柚希がいてくれて本当に良かったなって真面目に思う。


「流石に俺もずっと考えてる訳じゃないよ。でも、ふとした時に考えて一人であーってなるのも心臓に悪いし、それが毎回違う人ってのもなんかさーってなっちゃって」

『早く一人に絞りたいんだ?』

「…うん、まあ」


歯切れの悪い回答をしたのは、俺がしんどいと思う一番の理由がそこにあるからだ。

非常に困ったことに、全然、全く、一向に一人に絞れそうにない。

でもだからって今の関係を暫く続けてしまったら、いざ選択を迫られた時の負担が今よりもデカくなりそうで怖い。
そうなったら結局俺は誰も選べないと思うし、三人とも元の関係に戻りましょうって、都合のいいことを言っちゃうと思うんだよね。

それって結果的に、俺を含めた全員が傷付くことになると思うんだ。
全員失恋ってことになっちゃうから。
今はもうやさぐれた気持ちとかはなくて、単純にそうはなりたくないなって思ってしまっている。

だからせめて一人に…って思うんだけど、それも難しいんだよなぁって話。


『今の関係をずっと続けたいって気持ちはないんだね』

「うん。俺的に問題があり過ぎてその選択肢はなくなった」

『じゃあ、前にも言ったけど、その三人以外から選ぶって選択肢は?』


それは現状では対象者が存在しないから無理じゃない?って言おうとしたら、それよりも先に柚希が『例えば、俺とか』と発言したことで全文丸っと呑み込むことになった。

代わりに口から零れ落ちた「え…」と言う間抜けな声を聞いた柚希が、くすりと小さく笑う。


『その人達と顔を合わせ辛くなるって言うなら実家を出るのも手だと思うし。一人暮らしが寂しいなら、俺と一緒に住む?』

「えっ」

『ご両親を説得させるのが難しいなら俺も同席するよ。てかその方が安心出来るだろうね。急に二人暮らしするなんて言い出したら普通に驚くだろうし』


いや…いやいや、ちょっと待って。

今この子は何の話をしているんだろうか?
え、俺が柚希と?二人暮らし?なんで?


「あのー、柚希くん。どうしてそんな話になったのかよく分からないんですけど…」


全くもって理解出来ていないことを伝えると、柚希が諭すような声で『可能性は他にもあるって話だよ』と言った。


『もっと広い視野で見てみたら?これから先、他に好きな人が出来る可能性はないと思う?』

「それって、俺にってこと?」

『そう。性別はまあどっちでも良いけど、今詩音が抱えてる悩みを一切抱える必要がない相手と出会う可能性だって、ないとは言い切れないんじゃない?』


それはまあ、確かにそうだ。
どのくらいあるかは分からないけど、その可能性が0だとは言い切れないとは思う。

そしてそんな相手が見つかったとしたら絶対そっちの方が楽だろうなとも思う。
ご近所さんの目を気にする必要もなく、昼夜問わず堂々と会うことが出来、尚且つ親にも紹介することが出来る。

もっと言うとその場合は、抱く抱かれる問題も解決してしまうんだろう。


「まあ、心臓の負担は減ると思ったら、そっちの方が長生き出来そうではあるよね」


そう答えると、柚希が『詩音にとっての幸せは長生きすること?』と訊いてきた。

相変わらず、核心を突くのがお上手なことで。


「柚希は俺をどこに導いてくれてるの?」

『詩音の幸せ』

「おお、それが即答出来るって素晴らしいね」

『詩音は難しく考え過ぎなんだよ。もう答え出てるようなもんなのに』

「答えとは」

『それは俺の口から出すべきものじゃないかな』


分からないならもう少し悩めと言われ、最後の最後でぱっと手を放された感じがしてちょっとダメージを受けてしまった。

柚希に甘え過ぎるのは良くないってことは分かってるよ。
でももうちょっとだったじゃん?
もうちょっとでゴール出来そうだったじゃん。


「もっと甘やかしてよー」

『これ以上ないくらい甘やかしてるつもりだけど。今から慰めに行こうか?』

「ほんとに来そうだから遠慮しとく」

『分かってんじゃん。でもまあ、詩音が答えをハッキリさせたらそれも出来なくなるだろうね』

「どゆ意味?」

『嫉妬が凄そうだから』


『一人はよく知らないけど』と言われて「あー」ってなった。

柚希の言う一人とは恐らく尊さんのことだと思うけど、彼もまあまあだと思う。
よって三人ともまあまあだと言うことだ。


「柚希は友達じゃん」

『そうだね。でも森野さんには関係を疑われてただろ?友達でもあの距離は許容出来ないってことだよ』

「アレは滅多にない場面じゃない?」

『多分頭撫でたりするのもアウトだと思うよ。まあそれはその人達にして貰えるんだろうから良いのかも知れないけど』


とかそんなことを淡々とした口調で言うから「ねえええ」ってなった。


「柚希は柚希なんだけど。あの人達と一緒じゃないんだけど」

『詩音はそうでも、向こうはそうじゃないんだよ。じゃなきゃあんなに睨まれないよ』

「え。睨まれてたの?森野さんに?」

『まあ。でも俺が言ったってのはここだけの話にしといてあげて』


なんだそれ優し過ぎんだろ…
俺だけじゃなく森野さんにまで配慮出来るのかよ…

なんかそれ嫌なんだけど。


「柚希は俺専用の餌付け師だろ」

『そうだよ?』

「なんで森野さん庇うの」

『庇ってるって言うか…まあ、そうだね。その方が詩音の為になると思ったから?』

「俺の為?」

『そう、詩音の為。心配しなくても、その三人のことはどうでも良いと思ってるから』


詩音のこと傷付けたら許さないけど、と言われて、そこで柚希の俺に対する愛の深さを知った。

どうやら俺はとんでもないくらい最上級の友人を手に入れてしまったようだ。




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あきゅろす。
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