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尊さんと何やかんやあった翌日。

昼過ぎにのろのろとベッドから抜け出し、帰省中に出来ていなかったオンラインゲームを堪能していた時だった。

ピンポーンと聞こえた音に耳が反応し、ゲームをしていた手が止まる。
タイミング的には悪くはなかったから直ぐに離脱出来たけど、今日は来客がある予定ではなかった筈だ。

お隣さんかしら?と疑問を抱きながらとりあえず玄関のモニターを覗くと、制服姿の徳川さんが映っていたから慌てて玄関に向かった。

驚いたままの顔でガチャっとドアを開けると、玄関前に真っ直ぐ立っていた徳川さんが何も言わずに小さく会釈をする。
当然、彼に手には荷物らしき物は何も持たれていない。


「え、どうしたんですか?」

「…少しだけ話したいことがあるんだけど、中で話させて貰っても良いかな」

「ああ、はい。どうぞ」


なんてことない風に答えたけど徳川さんの様子があからさまにおかしいから内心動揺していた。

おかしいって言うか、覇気がないって言うか。
とりあえず良い話ではなさそうだなって言うのは何となく察することは出来た。


「えっと、座ります?」


玄関の段差を差しながら訊いてみると「いや」と断られる。
手短に済む話なんだろうか、と思ったら嫌な予感しかしなくて心臓が騒ぎ出した。


「話って、言うのは」

「…実は昨日の夜、」

「あーちょっと待ってください」


その切り出しと雰囲気で全てを悟って思わず続きを止めてしまった。

そっちか。そっちなのか。
予想とは違ったけど、そっちもまあまあヘビーだったわ。


「あーえっと…はい。そうですね。何の話かは分かりました」


でもそれを伝えに来た理由までは分からない。

そんな俺の心情を上手く読み取ってくれた徳川さんが、若干険しい表情のまま「馬場くんと付き合ってるの?」と訊いてきた。
それに関してはハッキリと「付き合ってません」と答えると、徳川さんの表情が険しさを増す。


「じゃあ、どう言う関係?」

「んー。ポジション的には、徳川さんと同じですかね」


不本意かも知れませんけど、と付け足すとそれを肯定する言葉が返ってきた。

あーこれは俺が思ってる以上にバチバチしてる感じかも知れないな。
徳川さんの地雷とか分からないんだけど、どうしよう。


「ああ言うことは頻繁にしてるの?」

「いやいやいや、初めてです」

「…へえ」

「いやマジで」

「そこを疑ってる訳じゃない。でも、ああ言うのは良くないと思う」

「おっしゃる通りですね」


そのご指摘に関しては反論などございません。

あんな場所でするのは良くないと思いつつも誘ったのは俺だからな。
尊さんに流されてしまったところもあったけど、俺の責任もかなり重いって自覚はしてる。

てか、見られてたってことは分かったけど、一体どのタイミングでどの場所から見てしまったんだろうか。
座席倒した後のやり取りは流石に見えてなかったと思うから、見られたとしたらそれ以前のやり取りだよな?
それとも全部終わった後のこと?

単純に二人で話してただけのシーンなのか、抱き合ってるシーンなのか。
それともキスしちゃってるシーンなのか、はたまた全部か。

どれだ。


「ちなみになんですけど、徳川さんが見たのって…」

「詩音くんが馬場くんに抱き着いた状態で話してて、その後にキスしてた」


なるほどなるほど。
一番良くないシーン全部だったわ。
俺が挑発して尊さんの雄みが全開だった時だわそれ。


「まあ、そうですね。ピンポイントでそこかーって感じではありますけど、それくらいしか言い訳は出来ないですね」


正直に答えると徳川さんは「…そう」と相槌を打って視線を床に落とした。

ちょっとこの空気は耐えられそうにないんだけど、どうしたらいいんだろう。

幻滅したとか失望したとか思ってるならいっそズバッと言って貰った方が有難い。
何を考えているのか、どう思っているのかが分からないからこっちも下手なこと言えないし。

「あの…」と何の考えもなしにとりあえず話し掛けてみると、突然徳川さんが俺の腕を掴んできた。


「えっ…と」

「確かに詩音くんはあの二人にも尻尾を振ってるって言ってたし、好きじゃない相手ともキスが出来るって言ってた」

「っ……言いましたね」


「でも、」と訂正しようとしたら「それが分かってても」と言葉を被せられて口を閉じてしまった。
この時の俺がもっと強気になれていたら、その後の流れは変わっていたのかも知れない。


「僕以外に懐かないで欲しい…と、思ってしまう」

「ッ……」


それを聞いて嫌われた訳じゃないことが分かったから油断してしまったのもあると思うんだ。
だから、少し気が緩んだ俺は「徳川さんの前では猫だから」と遠回しな言い方をしてしまった。

俺としては、ある意味徳川さんが特別な存在なんだと伝えるつもりだったんだけど、多分彼は自分に対しては尻尾を振って貰えないと解釈したんじゃないかと思う。
傷付いたような表情で「そうだね。それでも良いって言ったのは僕だ」と言って、握っていた俺の手をすっと放した。


「ごめん。少し頭を冷やした方が良いんだと思う」

「っ…あの…」

「突然訪ねてごめん。もう仕事に戻るよ」


じゃあ、と言って向けられた背中に、俺は何も声を掛けることが出来なかった。
掛けるべき言葉が頭に何も浮かばなかったんだ。

これは後になって思ったことだけど、呼び止めたって徳川さんが望む言葉は掛けてあげられなかったと思う。
俺が徳川さんだけにするって言わない限り、彼の不満は解消されないんだろうから。

今のやり取りで俺自身が徳川さんをどう思っているのかはある程度ハッキリした。
でもそれはやっぱり、あの二人を越える感情ではない。

下回っているとも思わないけど、今のでちょっと分からなくなってしまったな…

折角尊さん問題が解決して寝不足気味だったのも解消されたと思たのに。
もっと重い問題を抱えてしまったんだけど、どうしたらいいんだろう。
徳川さんに限って連絡先交換してないんだよなぁ。

もしかしたらこのままフェードアウトしていく可能性だってあるよね。
だってなんか、過去一冷たかったし。

頭冷やすって言ってたけど、冷やした結果が俺にとって良いものとは限らない。
頭冷やしたついでに気持ちも冷めたってことは十分あり得ると思う。

てか俺だったら冷めるよ。
告白した相手が色んな人とキスしてたらそりゃあ嫌だよね。
分かってても、不毛だと思っちゃうよね。

ただ、運が良いのか悪いのか。
四日後の金曜日は定期便の配達でまた徳川さんと会えてしまう。

その時に俺の気持ちもちゃんと伝えようとは思うけど、ぶっちゃけそれは向こうがどんなスタンスでくるかにもよるんだよね。
あと、別の人が来ちゃったら無理な話でもある。

そこはちゃんと徳川さんに来て欲しいような、でもちゃんと会うのが怖いような。

考え始めたらうわあああってなっちゃって、一人で抱えきれなくなったから俺はまた親友の柚希に相談をしてみることにした。




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