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話の流れからそのまま今日は解散しようと言うことになったんだけど。
助手席に座り直した時にふと帰省の件を思い出した。


「森野さんも帰省するんですよね?明日から?」

「今日帰るよ」

「え。近いんですか?」

「車で三時間くらい」

「めっちゃ遠いじゃん」


こんな所で何してるんだと若干呆れていたら「見つけちゃったんだから仕方ないでしょ」と子どものような言い訳をされた。

その見つけちゃったって言うのは、俺のことだとは思うんだけど。


「ってことは偶然通りかかっただけだったってことですよね?」

「…何を疑ってるの?」

「や、タイミングが凄かったなと思って」

「…まあ、それは。お陰で急いで邪魔しに――」

「そうじゃなくて」


まあ、それもあるんだけど。

気まずそうな顔をしていた森野さんを見ながら「暫く会えないのかーと思ってたところだったんで」と伝えると、吃驚したように目を丸くさせた彼が、それから「何で今そんなこと言うの…」と呟いて困ったような表情を見せた。


「すいません。正直に言っちゃいました」

「いや、…それもだから。そんなことばかり言ってたら本当に連れて帰るよ?」

「それは、はい。ここで降ろされると困るので家の近くまではお願いします」

「急にふざけないで」

「すいません。柄にもなく照れてるだけなんで許してやって貰えませんか」


自分で言い出したんだろと突っ込まれるかなと思ったけど、森野さんはハンドルに体重を預けながら「きついなあ…」と漏らしただけだったから代わりに自分で突っ込んどいた。

自分から言い出したんだろ…!
てかそれよりきついってなんやねん…!


「きついってキモいって意味ですか」

「全然違う」

「じゃあ何。苦しい的な?」

「…ある意味」

「ある意味」

「…手を出したいのに出せないから苦しい。暫く会えないのが苦しい。あと好き過ぎて苦しい」

「おお…めちゃくちゃ苦しそう…」


大変そうだ…と同情していると「分かったらこれ以上煽らないで」と言われてしまった。

正直な気持ちを伝えることは煽りに含まれるらしい。
恋愛とはなんと難しいものなんだろう。

まあ確かに?若干俺も森野さんの言葉に煽られてしまっているんだけどね?


「連絡先聞くのも煽りに入ります?」

「入る、けど入らない」

「どっち」

「まさか詩音くんから聞かれると思わなかったからちょっと吃驚して。教えてくれるの?」


そもそも無理なら聞いてないと答えると漸く森野さんが表情を緩めた。
嬉しそうに笑って「ありがとう」と伝えてきた彼に、むず痒い気持ちにさせられる。

俺よりも森野さんの連絡先の方がかなりの需要があるのに。
こんなモテ男が俺の連絡先一つでそんな顔が出来るとは。
是非ともおばちゃん達にこの顔を見せてあげたかったよ。あ、勿論理由は伏せて。


「俺と連絡先交換した人には必ず言ってるんですけど、返信とかめちゃくちゃ遅いと思うのであてにしないでください」

「分かった。電話は?」

「電話は気付けば出ます、かね。ゲーム中じゃなければ」

「じゃあ会えなくても声は聞けるかも知れないんだね」

「まあ、タイミングが合えば」


そう答えてしまったけど、出来ればかけてきて欲しくない。
だって森野さんと電話で何を話せって言うんだよ。
想像しただけでも甘酸っぱそうじゃないか。

尊さんだってまだ電話は…

って、森野さんといる時に他の人のことを考えるのはあんまよくないよな。
比較は一人の時にすればいいんだし。

そんな気配りが出来る俺ってマジで素晴らしいと思うわ。


その後、ご近所さんに見られたら面倒だからってことで家から少し離れた所まで送って貰って、そこで森野さんとバイバイしたんだけど。

降りる直前にもう一回キスされたから見られたらどうするんだって一発殴っときました。
勿論俺の為でもあるけど森野さんの為でもあります。

いやマジでさ、森野さんにしろ残りの二人にしろ。
俺との変な噂が立ったらまずいって自覚はちゃんとしてくれているんだろうかって心配になるよね。

うちの玄関内の出来事はまあバレないだろうとは思うけどさ、それでも何があるか分かんないじゃん。
ご近所さんに隠れて男同士ちゅっちゅしてました〜なんて噂がおばちゃん達の間で回ってしまったら俺はもうこの家を出て行かざるを得なくなるよ。

あの人達だって仕事に影響するだろうに。

やだよ俺、俺のせいであの人達の評価が下がるの。
最悪クビにでもなってしまったらそれこそ家出案件じゃないか。
ご近所さんにもあの人達にも合わせる顔がなくなるわ。

ってとこまで考えて、めちゃくちゃ重要なことに気付いた。
もしもあの三人の中の誰かと付き合うことになったりしたら、それこそバレたらやばいヤツじゃない?ってことに。


「え、やばいよね?」

『もしかして今気付いた?』

「え、うん。え、柚希は気付いてたの?」

『気付いてたって言うか、まあ、最初に考えるものかなって』


てっきりそこの問題はクリアしてるものだと思ってたと言われて衝撃を受けた。

ちなみに今は柚希と二人でクエストに挑みながらボイチャで追加の相談に乗って貰ってます。


『そもそも無理にその三人の中から決める必要はないんじゃないの?』

「それは俺も思った。でももう好きになりかけてる場合はどうしたらいい?」

『…それって勘違いの可能性はない?』

「勘…違い…」

『あーいや、詩音の気持ちを否定してるんじゃないんだけどさ。好きにならなきゃって思ってるところがあるんじゃないかなーって』


違ったらごめんと言われたけど、違うとも合ってるとも言えなくて返事が出来なかった。

俺にとってイレギュラーの連続で感覚が狂ってしまっているところは正直あると思うんだ。
おまけにあの三人は随分前から面識があった人達で、簡単には失いたくない存在でもある。

そもそも慕っていた二人と、別の意味で気になっていた一人だから告白を一旦受け止めることが出来たんだろうし、拒絶することで関係を壊したくないと思ってしまった。

最初は本当にそれだけだったと思う。

でもさ、やっぱり俺の気持ちってのも変化しちゃってるんだよね。
今はそれだけじゃないって、思ってしまっているのよ。

だから俺の悩みは既に次のフェーズに進んでしまっている。

そしてそれはもう、柚希に相談して答えを出すものじゃない。
俺自身が見極めるものだ。


「この話はもういいや。あ、でも一個だけ。森野さんが柚希に謝っといてって言ってた」

『ああ、うん』


無理矢理話を終わらせたから勘違いさせてしまったかなと思って最後に「あ、変なこともされてないから安心してね」と付け足しておいた。

それは帰り際に柚希から耳打ちされた内容に対するもので、気を付けろと忠告されていたから一応報告しといた。

それを聞いて柚希も『なら良かった』と安心していたからそのままこの話は終わりってなったんだけど。
変なことに入るのかは微妙だけど、思いっきりキスマは付けられちゃってるから嘘ついたことになるよなぁと思ってちょっとだけ罪悪感を抱いた。

森野さん、俺もなんかちょっと苦しいわ。




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あきゅろす。
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