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「森野さんのこと、ちゃんと男の人として見るから。もう少し甘えさせてください」


そこだけはちゃんと本気のトーンで伝えると、森野さんは包み込むような表情で「好きなだけ甘えてくれて良いよ」と言ってくれた。

なんだろうな。
優しさって言うか、包容力で言うと森野さんに軍配が上がるんだろうな。今のところ。

とりあえず森野さんの加点が凄いことになってるのは確かだ。
ポイント制になってることを知ってるのは森野さんだけだから、フェアじゃないかも知れないけど。


「んっ、森野さん…」

「ん?」

「ぼーっと、してきた」


車のエンジンを切ってしまうと流石にまだ暑いし、くっ付いた状態でこんなことばっかしてるから余計に体温が上昇してしまったようだ。
そろそろ限界だと訴えると唇は離してくれたけど、間近で見つめてくる瞳が物足りなさを訴えているように見えてまた身体が熱くなる。


「えっちな顔、してますよ」

「えっちなこと考えてるからね」

「…だめ」

「少しだけでも?」

「…少しって?」


どの程度のものか分からなくて訊ねると、許可なんてしてないのに服の裾から森野さんの手が侵入してきた。
それを咎めるよりも先に指先が乳首に触れて「んっ…」と上擦った声を出してしまう。


「可愛い」

「ッ、だめって言ってるでしょっ」

「嫌だ?」

「ッ……」


もう金輪際、俺に嫌かどうかを確認してくるのは禁止にしてやる。
俺だって嫌なら嫌って言うんだよ馬鹿野郎。


「嫌じゃない、でもだめ」

「そんなこと言われたら止めてあげられないよ」

「や、ほんとにだめなんだって」

「どうして。怖い?」


怖いんだろうか。
怖いで合っているのか分からないけど、それ以外に表現出来そうな言葉がなかったから頷きを返す。


「そっか。じゃあ今日は止めとく」


あっさり引き下がってくれたことに安堵していたら、その後「けど、」と続いて再び身構えることになった。

けどの後に良い言葉が続く訳がないじゃないか。
何を言うつもりだ、と身構えたのも一瞬のことで。


「俺がいない間に手を出されないように、虫除けさせて」


そう言って俺の着ている服を捲り上げた森野さんが、俺に制止を呼び掛ける暇も与えず胸元に顔を埋めてきた。
その後直ぐにちくっとした痛みが走って、何をされたのか嫌でも理解してしまう。

なんてことをしてくれるんだ…と唖然とした表情で見下ろすと、赤い痕をぺろっと舐めた彼が怖ろしいくらいに色気を纏った表情を見せながら視線を合わせてくる。


「簡単に見せたら駄目だからね」

「っ……何、を…」

「この身体も、その顔も」

「ッ……」


生憎、自分が今どんな顔をしているのかは見えないから分からない。
だけど、俺の今の表情を作っているのは、間違いなく森野さんだ。


「この顔は一応、森野さんのものだと思いますけど」


俺なりに一矢報いたかったんだよ。
でも、見事に迎撃されてしまうことになる。


「全部俺のものにするから」


そう言って頭を引き寄せられ、また唇を塞がれた。
何回するの?って感じなんだけど、今回のは今までになかった荒々しさも感じられるもので。


「んんっ……はっ…ん…ッ」


森野さんの男の部分をまざまざと感じさせられる一連の流れに正直もういっぱいいっぱいになっていたのに。
そんな俺に対して容赦なく大人なキスをかましてくる彼のお陰で、終盤はもうすっかり戦意を喪失してしまっていた。

目の前の肩にぐったりと身を預けると、俺の身体をぎゅうっと抱き締めてきた森野さんが切ない声で「連れて帰りたい…」と呟く。
思わず「野獣じゃん…」と呟き返すと、男はみんな野獣だろうと謎の定説を返された。

俺は別に野獣じゃない。


「もうちょっと俺のレベルに合わせて欲しいんですけど…」

「ごめん。でも、ちょっと経験積んでる感じがしたからムカついて」

「え…」


今さらっとムカついたって言った…?

顔を上げて表情を確認すると、そんな発言をしたにしては穏やかな表情をしていたからまたえってなった。


「好きな相手が自分以外の男とキスの経験積んでたらムカつくでしょ」

「…まあ。てか、森野さんの中では男って確定してるんですね?」

「ってことはそうなんだ」

「…かまかけたんですか」

「いや、確証がなかっただけ。でも、女の子なら迷わずそっちにいくかなと思って」


なるほど。
確かに俺も性別に関しては何も言っていなかったけど、相手が男であることを共通認識のように捉えて話してしまっていたところがあったかも知れない。


「さっきの子じゃないんだよね?」

「え?あー柚希ですか?違いますね」

「まだ告白されてないだけじゃなくて?」

「え。何それなんでそんなこと言うの」

「物凄く牽制されてるような印象を受けたから」


…ああ、うん。
多分それは森野さんが俺に告白+キスをしてきた相手だって分かっちゃったからだね。
だから警戒して俺のことを守ろうとしてくれただけだよ。
優しいから、あの子。


「まあ普通に、仲良くお喋りしてるところに突然知らない人が入ってきて友達連れて行かれそうになったらああなるんじゃないですかね?」


柚希に相談しちゃってることを言う訳にはいかないから適当に言ったらそれが森野さんの胸に刺さっちゃったっぽい。
反省したような顔で「友達に謝っといて…」と言われて苦笑が漏れる。


「了解です、けど、大丈夫ですよ。優しいから」

「付き合い長いの?」

「んー。そこそこ?会ったのは昨日が初めてですけど」

「は?」

「ネッ友だったんですよねー」


オンラインゲームの…と補足したらガシっと肩を掴まれて鋭い眼差しを向けられた。
本気で怒っていそうな気配を察知して、流石に俺も口を噤んでしまう。


「そう言うの、危ないから気を付けた方が良いよ」

「……それは分かってます、けど…」

「さっきの子は悪い子じゃなかったのかも知れないけど、他がどうかは分からないんだから。詩音くんに何かあったら…」


そんなこと考えたくもないと言った森野さんは、怒ってると言うよりは本気で俺のことを心配してくれているようで。
「すいません、気を付けます…」と謝ったけど、その気持ちの裏には喜びに近い感情もちょっとだけあった。


「柚希はちょっと特別な事情があっただけで、他の人と会うつもりは全くないのでそこは安心して貰ってもいいかと」

「…特別な事情、ね。まあ、詩音くんは何とも思ってなさそうだから今のところ大丈夫なのかも知れないけど」

「え?」


何が?と訊き返すと何でもないとはぐらかされた。
俺としてもその話題にはあまり突っ込まれたくなかったからここは大人しく「そうですか」と流しておいたけど、何とも思ってないことはない。

恋愛対象じゃないってだけだ。




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