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ここで一度俺自身に確認しておこうと思うんだけど、森野さんは俺の彼氏ではないからな?
絶賛片想いされ中ってだけだからな?
「何で嬉しそうなの」
「え?そりゃあまあ、森野さんが俺の機嫌を取るのがお上手なので」
「…嫉妬して機嫌を取るなんて聞いたことないけどね」
「そうですかね?」
「うん。その場合は詩音くんが俺のことを好きじゃないと成立しない」
ほう、そうきたか。
そう言う話に持っていきたいのかも知れないけど、残念でした。
「俺、あなたが知らないところでぐんぐん成長してるんですよ」
「…どう言う意味?」
機嫌悪そうに訊ねてきた彼ににこりと笑顔を向けてから、一方的に握られていた手を俺もきゅっと握り返す。
少し驚いたように目を大きくさせた彼がちょっと可愛いなと思った。
「森野さんは俺とどうなりたいんですか?森野さんの理想のゴールってどこ?」
「それは、……付き合いたいとは、思ってるけど」
「ふうん。えっちしたいってこと?」
「っ、あのさあ、」
「これでも真面目に訊いてます」
その答えも俺にとっては重要な判断材料になると伝えると、森野さんは少し迷うような素振りを見せた後に小さく頷いた。
じゃああの二人と同じだ。
これで三人が完全に横に並んでしまった。
「真面目にお答えすると、えっちは無理です。俺も男である以上、抱きたい願望しかない」
そこに関しては譲れないからハッキリと言わせて貰うと森野さんが複雑そうな表情を見せた。
「あ、森野さんを抱きたいと思ってる訳じゃないですよ?」と軽いジョークを挟んだ後に、嫌そうな顔をしてる彼に「でもですね、」と続けるとその目に僅かな光が生まれる。
ちょっと森野さんの扱いを覚えてきてるっぽいわ、俺。
これじゃ俺の方が飼い主みたいだってちょっと思っちゃった。
「今ここでキスされても抵抗しませんし、泣き叫びもしません。勿論、通報もしない」
「っ……本気で言ってる?」
「はい。キスだけならいいよって思えるポジションにはいるみたいですよ」
くどい言い方をすると真っ直ぐに「俺が?」と訊き返された。
そうだと頷くと、自分以外にも同じポジションの人間がいると言うことかと訊いてきた彼は実に聡明だと思う。
でも、俺にも守秘義務と言うものがあるから。
「もしかして柚希のこと心配してます?柚希は俺の親友兼ゲーム仲間ですよ」
「詩音くんは友達が相手でもあの距離感ってこと?」
「アレは口に付いていたアイスを取って貰っただけです」
「…へえ。付いてるよって教えてあげれば良いだけの話なのにね」
「確かに。まあちょっとしたおふざけみたいな感じじゃないですか?」
友達同士のノリだろうと添えてもまだ不満そうだったから、優しい俺からもう一歩だけ歩み寄ってあげることにした。
唐突に「私服の森野さんってイケメンが増しますね」と言うと、一拍遅れて「ありがとう」と返される。
一言二言交わしながら、なんで俺が雰囲気作りなんてしてるんだろう?と疑問に思ったけど、何故だか今は森野さんに優しくしてあげたい気分だった。
暫く会えないと思ったのに会えたから、かも知れない。
「いつまで休みなんですか?」
「今日から四日間。お盆のピークはずらして帰省することにしてて」
「へえ。じゃあ丁度俺が父親の実家に帰省するタイミングで戻って来るんですね」
「え、そうなの?」
はい、と答えると寂しそうな声でいつこっちに戻って来るのかを訊かれたから日曜の夜だと伝えた。
こっちにいようといまいと配達がなければ会う機会はなかっただろうに。
そう思うと余計、今のこの時間が貴重に思えてしまって。
「ねえ、森野さん」
「うん?」
「実は今日、母親には帰りがちょっと遅くなるって連絡してあるんです」
それを伝えると森野さんの表情が固まった。
このタイミングでそんなことを言い出したんだから、俺よりも経験値の高い森野さんならその意図をしっかり汲み取ってくれている筈だ。
「でもここ、うちからかなり近いじゃないですか」
どうします?と視線で投げ掛けると、静かな声で「シートベルト締めて」と返された。
「はーい」と答えた声がちょっと弾んでいたのは仕方がないと言うことで。
まあ、今のは俺から誘ったようなもんだからな。
単なる優しさの領域を超えてきているような気がしなくもないけど、まあいっか。
森野さんとあの二人を特別視してることはもう自覚しちゃったし。
森野さんが運転している姿なんて見慣れたものだと思っていたけど、今日は私服だからか随分と受ける印象が違う。
勿論、彼の運転する車に乗せて貰ったことなんてないから初めてのことではある。
でもなんか、ドライブデートってこんな感じなんだろうなって思ったらちょっと気持ちがざわついた。
ざわついたし、浮ついた?
「どこ行くんですか?」
「人がいない所」
「やだ急に破廉恥」
「詩音くんが誘ったんでしょ」
「それも破廉恥」
「仕方ないよ。するんだから」
破廉恥なこと、の部分だけえろい声で言ってきた森野さんに今更ながら羞恥やら緊張やらを煽られてしまった。
俺は攻められるのに弱いらしいからもっと強気でいないといけない。
隙を見せたら一気に崩されてしまうから。
暫くして車が止まった場所は確かに誰も来なさそうな緑オンリーみたいな場所だった。
こんな場所を知っているのは流石ドライバーと言うところだろうか。
そんなことより、停車した途端に心臓がうるさくなったんだけどどうしたらいいかな。
停車して直ぐにシートベルトを外した森野さんが横から「外さないの?」と投げ掛けてくる。
それでも俺の手はベルトに添えられたまま動こうとしないもんだから、痺れを切らした森野さんが俺の代わりにカチって押す所を押してしまった。
そのままシュルっと戻っていったベルトを見届けてから、漸く俺も腹を括る。
「キスだけ、ですからね?」
捉え方によるとかなり痛い台詞を吐いた俺に森野さんはふっと笑い、それから「分かってる」と答えてそっと俺の身体を抱き寄せた。
目前に迫る顔が完全に男の顔をしているからちょっと怖気づく。
本当にキスだけで終わってくれるよね?と不安を抱きながらもじっと見つめ返していると、ゆっくりと近付いてきた唇が俺のと静かに重なった。
「っ……」
昨日の柚希の時とは状況も違うし、相手が友達か恋人候補かって違いもかなり大きいとは思うんだけど。
暫くくっ付いていた唇が少し離れて、またくっ付いて。
それを繰り返している内に段々とその間隔が狭まっていって。
それに合わせてどんどん煩くなっていく俺の心臓は、相手が森野さんだからだと一生懸命主張しているみたいに思えた。
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