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最近一食目がアイスになりがちだよなぁと思い返しながら、せっせとスプーンを口に運ぶ。
そんな俺を柚希がガン見してくるから「食べたいの?」と訊いてみたら2,3秒の間の後に「うん」と返された。


「そうなんだ。でもあげない」

「え、訊いといて?」

「だって本気で欲しそうじゃないもん」

「本気で欲しがったら貰えんの?」

「他人が食べてるもの本気で欲しがるなよ」


と言う冗談をかましてから直ぐに「うそうそはいあーん」と言いながらアイスを掬ったスプーンを口に運んでやると、それをぱくんと食べた柚希が若干表情を顰めながら「あま…」と漏らす。


「おいこら。甘いの好きじゃないなら俺から奪うなよ」

「や、予想以上に甘かったからちょっとうわってなっただけ」

「うわってなるなよアイスに失礼だろ」

「ごめん。詩音があまりにも美味しそうに食べるからなんかすっげーいいもんに見えて」

「ん、まあ、それはよく言われるけども」


俺の顔見てるだけで胸焼けするとまで言われたことあるけども。
アイスの甘さくらい食べなくても分かるでしょうに。


「柚希は何が好きなの?」

「食べ物の話?」

「んー、全般?スノーの時はあんま自分のこと話してなかったじゃん?だからまだ柚希のこと何も知らないなーって思って」


別に好きな物に限定しなくてもいいからとりあえず柚希のパーソナルな部分を教えろと脅してみたんだけど、ゲーム以外にはあまり興味がないらしい。
スポーツとか色々やってそうだったからそれにはちょっと驚いた。


「ゲームしてない時は何してんの?」

「バイトか、寝てるか、勉強?」

「真面目か」


ゲームと寝てるのは一緒だけどあとは真逆だ。
俺はバイトしたこと自体ないし、勉強なんか必要な時にしかやらない。
我ながら酷いと思う。

笑いながら「そうでもないよ」と答えた柚希に今のは称賛したんだと伝えておいた。

俺からしたら柚希はかなりの優等生だよ。
通ってる大学のレベルからしてもそんなことは一目瞭然なんだけども。


「男女ともにモテそうなのに、遊びたいとかならないんだ?」

「うん、まあ。話合わないことの方が多いし」

「ふーん」


アレかな。
イケメンだぁって寄ってくる奴が周りに多かったのかな。
内面より外見を優先されちゃって本当の自分を見てくれない的な、イケメンならではの悩みみたいな。

その辺は俺には分からない領域だけど、柚希の内面なんて知れば知る程惚れてしまうだろうに。
寧ろ内面の方がめちゃくちゃイケメンだろうに。
それを知るところまで辿り着けなかった皆さんどんまいですって感じだわ。


「まあなんかフィーリングってあるよね。テキトーなこと言ってるけど」


触れ過ぎるのも良くないかなと思ってさらっと流したら逆にそれがヒットしたっぽい。
まさにそのフィーリングってヤツが柚希にとっては重要なんだと。


「詩音とは波長が合うなって勝手に思っちゃってたからさ」

「そんな一方通行みたいな言い方しなくても俺達両思いじゃん」

「え…」

「じゃなきゃ会おうってならなくない?」


相談乗ってくれるなら誰でもいいから会おうぜ的なノリで会った訳じゃないし、そもそも信用してる相手じゃないとあんなこと相談出来ない。
それを伝えたら、柚希は俺のそう言うところが好きなんだと言ってくれた。


「思ってることをちゃんと言葉にしてくれるし、詩音の言葉はなんか信用出来るんだよ」

「ほう。一応言っとくと俺も100%正直には生きてないよ。でも自分の意見を言う時は嘘は吐かない、かな」

「うん。そんな感じが伝わってくるから、俺も詩音と話してたら素でいられる」


柚希の言う詩音ってのはほぼほぼシュガのことだと思うけど、それはつまりシュガである俺と話してたスノーは柚希そのものだったと言うことだ。

確かに、数人でボイチャしてる時はスノーの発言回数は少なくなってた気がするし、グルチャ内のやり取りも若干当たり障りない感じになってたような気もする。

ってことは、俺にだけはマジで心開いてくれてたってことだよね?


「柚希と知り合えて良かったわ」


その感情をしみじみと噛み締めながら殆ど溶けてしまった最後のアイスを口に入れると、横から伸びてきた二本の手がそれぞれ俺の肩と顎を掴んだ。

「え、何?」と若干動揺しながら投げ掛けても返答はなく。
ゆっくりと近付いてくる柚希の顔を他人事のように見つめていたら、触れ合う寸前でぴたりと止まった唇が緩やかな弧を描いた。


「信用してる相手ならキスもさせちゃうの?」

「っ…いや…今のは普通に、吃驚して…」

「ふ。ごめん冗談。アイス付いてるから取ってあげようとしただけ」


ここ、と言って指の腹で俺の口の周りを拭った柚希が、そのままその指をぺろりと舐める。
瞬時に誰かさんから全く同じことをされた記憶が脳内に蘇って、その行動に対して必要以上にドキッとしてしまった。

必要以上にってことは、柚希に対しても少なからずドキッとしちゃったってことだ。
そんな心を見透かしたかのように柚希が「ちょっと動揺してる?」と意地悪く投げ掛けてくる。


「急にそんなことされたら、するだろ」

「ごめん。俺も詩音のことドキドキさせたいなって思っちゃって」


なんでそんなことを?と疑問を抱いた後、昨日のキスの件を思い出してその意味を理解した。

俺があの三人にしかドキドキしなかったって言ったからか。


「対抗心燃やす相手と燃やし方を間違えているのではないかね柚希くん」

「そうかな。ちょっと悔しかったんだよね」

「それはマジで無駄な感情だわ。俺だったからだよ」


そんなの女の子にキスしてあげたら一発じゃんって言ったら柚希が「うーん」と納得いってなさそうに唸る。

まさかの全人類をドキドキさせなきゃ気が済まないタイプ?
全然そんな風に見えないんだけど実はそっち系なの?


「そんな訳なくない?」

「…何が?」

「いや、柚希はさ――」

「こんな所で何してるの」


突然。マジで突然だった。
後ろから掛けられた声にビクってなって、手に持っていたスプーンとカップが地面に落ちる。

…あれれ?俺の聞き間違いかな?
なんかよーく知ってる声に聞こえたんだけど、気のせいだよね?

とりあえず落としてしまった物を拾うのが先か振り返るのが先かで迷っていたら、その間に距離を詰められていたらしい。
後ろからとん、と肩に乗せられた手にまたもやビクっと身体を揺らすと、目の前にある柚希の表情がすっと険しくなった。


「…どちら様ですか」

「詩音くんの知り合いだけど、君は詩音くんのお友達?」

「そうですけど、何か」

「友達にしては近いなと思って」


距離が、と落とされた声の低さに俺の全細胞が震え上がった。




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