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柚希と会った日の翌朝。

翌朝って言うかもう昼か。

昨夜は全然寝付けなかったから睡眠時間も全然足りてないんだけど、今日は14時から16時の間に荷物が届くことになっているから頑張って起きた。
でも今13時50分だからギリギリかも知れない。

とりあえずベッドから起き上がってその場で服を着替え、重たい足をなんとか動かして一階に降りる。

なんで足が重いかって言うと、俺は今から二時間以内に森野さんと会わなきゃいけないからだ。
配達して貰った荷物にサインしてバイバーイってなればいいけど、そうはならないじゃん?多分。
あと俺も次あの人に会ったら確認しようと思ってたことがあるし。

だからまあ、ちょっと緊張してるって言うか。
昨日の尊さんの件を引きずってるって言うか?

なんかまるで俺の方が恋する乙女みたいで嫌なんですけどぉと不満を抱いていたら、14時を回って直ぐのタイミングでピンポンが鳴った。
大抵森野さんは後半の時間帯に来るのに今日は早いんだな〜なんて思いながらモニターを確認すると、森野さんじゃない男性が映っていたからえってなった。

でも制服はどう見ても鳴海急便のヤツだ。
てことはママンが頼んでた物を届けてくれたことには違いないんだろう。

今日は森野さんじゃないと思ったらなんだか肩の力がすっと抜けて身体が軽くなった。
モニター越しに「すぐ出まーす」と声を掛けてから玄関に向かう俺の足取りの軽さと言ったらもう。


「はーい」

「こんにちはー。こちらのお名前でお間違いないですか?」

「あ、はい。合ってます」

「それではこちらにサインお願いします」

「はーい」


受け取ったボールペンでサインを記入しながら何の気なしに「今日は森野さんじゃないんですねー」と訊いてみたら「あー森野は長期休暇中なんですよー」と軽い感じで教えて貰った。

長期休暇ねえ。


「そうなんですねー。はいどうぞ」

「ありがとうございまーす。失礼しまーす」

「どうもー」


流れるように帰って行った男性を見送りながら、これが普通なんだよな…としみじみ思った。
森野さんだって毎回毎回長話してる訳じゃないけど、何かしらやり取りするのが当たり前になってたから今日みたいに他の人が来るとあっさりしてんなーって印象を受けてしまう。

でもこれが普通なんだよ、詩音。

受け取った荷物をリビングに置いて、その足でそのまま二階の自室に戻る。
森野問題が暫しの延期となったことで気分が軽やかだから昨日出来なかったゲームをしようと思う。
パソコンをつけていつもやってるオンラインゲームにログインすると柚希…いや、スノーからチャットが飛んできた。


『おはよ。昨日こなかったね』

『あーなんか寝ちゃってた』

『疲れてた?身体大丈夫?』

『心配性の母親みたい』

『せめて父親にして』

『パパはこの時間やってるの珍しいね?』

『シュガいるかなーと思って』

「えー何それ可愛いんですけどー」


最後のは俺が出した声だから柚希には届いていません。

代わりに『そんなに俺に会いたかったかー』と送ると『昨日あんま話せなかったから』と返ってきた。
確かに昨日は俺の相談に乗って貰ったのがメインだったし、パーソナルな話もそれ程は出来ていない。


『夏休み暇だから機会はいくらでもあるでしょー』

『今日は?』

『ん?』

『暇?』

『暇だけど』

『じゃあ会えない?』

「えっ」


話したいならボイチャなり通話なりあると思うんだけど、まさかのそっち?

急なお誘いに吃驚して返信に間が空いてしまった。
『ごめん無理なら大丈夫』と送られてきたから『無理じゃないけどどこで?』と答えてみる。


『俺がシュガの家の近くまで行く』

『マジか』

『いきなり家は流石に迷惑だろうし、そうなったらどっか近場で』


うーん。別に迷惑ではないけど、急ではあるよな。
もし母親が帰って来る時間までいることになったら連絡しときなさいって怒られるだろうし。


『近場って言っても公園くらいしかないっすよ』

『俺はそこでいいけど、それなら涼しくなってからの方がいい?』

『まあその方がありがたい。てか来る気満々じゃん』

『だめ?』

「えーやだ可愛い」


昨日の今日だから俺もちょっと気持ちが浮ついていたんだと思う。
スノーこと柚希に関しては、ね。

その後俺が『駄目じゃないよ』と返してしまったことで17時頃にうちの近くの公園で会うことになった。

暑いからって時間まで配慮してくれるとかマジ優しいよね。
しかも夕飯家で食べなきゃいけないからあんま時間ないって言ったのにそれでも来てくれるとかもうさ。
すぐさま母親に『夕飯ちょい遅くなりそうですごめんなさい』って連絡入れたよね。

完全に浮ついてるよね、俺。

起きてからまだ何も食べてなかったけど柚希に会うと言う緊急イベントに若干そわそわしてたっぽい。
全然お腹が空かないまま約束の時間になってしまい、駅まで迎えに行くと俺を発見した途端にふわっと微笑んだ柚希に周囲の視線が集まる。


「すげーな。笑っただけで世界救えるんじゃない?」

「…何の話?」

「ごめんこっちの話」


気付いていないところが評価ポイントだよね。
気付いてても表に出さない系イケメンの方が俺的には高評価かな。


「このままこの辺で喋っててもいいけどどうする?」

「駅だと知り合いと会うんじゃない?」

「そんなのこの辺どこ行ってもだよ。俺は別に気にしないけど、まあでも柚希は目立ちそうだもんな。やっぱ公園行こっか」


そっちの方が断然人は少ない。
俺の知り合いに会って絡まれる可能性も低くなるだろうし、柚希の為にも移動するとしよう。

ってことで二人並んで家の方に向かって歩き出したんだけど。
途中で柚希が飲み物買う為にコンビニに寄りたいって言ったのね?
はいよーって着いて行ったら、なんか流れでアイス買って貰っちゃった。

そこで俺は彼に対する恩返しの件を思い出したんだけど、なんかそれも適当に流されちゃって。
そんで今公園に着いたところ。

早く食べないと溶けちゃうからとりあえず食べ始めたはいいものの。


「結局俺がして貰っちゃってるんだけど?え?なんで?」

「それは餌付けだからノーカン」

「だからもう懐いてるんだってば。俺も流石にして貰ってばっかは居た堪れないのよ柚希くん」

「んー。でも急に誘ったのに会ってくれたじゃん?それで十分なんだけど」


とか言ってまた付き合いたての甘酸っぱいカップルみたいな台詞を吐くからさ?
奢って貰ったアイスを食べながら「もっと見返り求めろよ」って、誰が誰に言ってんの?な台詞を返しちゃったよね。


「誰にでもそうなの?アガペーなの?」

「いや、誰にでもこうだったらやばくない?」

「え、もう既にやばいよ?俺が彼女と錯覚するレベルだよ?」

「それってどうやばいの?」


うーん…どうやばいか。
そんなの考えるまでもなくって感じだと思うんだけど。


「優し過ぎって言うか、甘過ぎ?」

「甘いの好きじゃん」

「……」


今のは言葉の綾みたいなもんだってのは分かる。
分かるけど、柚希が吐いた台詞が脳内で誰かの発言と重なってしまって。
もうこの話はいいやと思ったから「まあ、そうだね」と返しておいた。

甘いの好きって言うか、俺のはもう依存なんだけどね。




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