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そのむず痒いってのも、俺のリア友がみんな揃ってS気の強い奴らばかりだからだろうな。
柚希みたいに包容力抜群の落ち着いたメンズなんて一人もいないし、あいつら俺のことめちゃくちゃ馬鹿にするしさ。

まあ全然それでいいんだけど、そうゆーノリに慣れ過ぎてるから柚希が特殊に感じてしまうんだと思う。


「この後どうする?暑いの無理そうだし、このまま家まで送ろうか?」

「ねえ柚希きゅん。あんま俺のこと甘やかしてると依存するよ?」

「うん?別に良いけど」

「良くないよ。諸々良くないよ」


なんで?って顔してる柚希を見て溜息が出た。

そんなむやみやたらに優しさ振り撒いてたらいつか損するって。
それだけ分のこと返せないもん、俺。


「至れり尽くせりでもう充分お姫様気分は味わえたから一人で帰るよ」

「じゃあ家に着くまでお姫様でいてよ」

「むむ。そちも頑なじゃな。じゃあ500歩譲って駅までで」

「駅までならどの道一緒じゃん」


と言いつつも了承してくれたので二人で駅に向かうことになったんだけど。

よくよく考えたら俺達の家って結構距離があるのに俺のこと送ろうとしてた柚希ヤバくね?ってなって。
予想外の誕生日プレゼントも貰ったしジュースまで奢って貰ったし、なんか色々して貰ってばかりだからちょっとくらい返しておきたいなと思って。


「なあ柚希。俺もなんか柚希にお礼したい」

「何のお礼?」

「え、誕プレとかジュースとか、優しさとか優しさとか」

「誕プレってお礼するもんじゃなくない?あとジュースも、俺がやりたくてやっただけって言ったじゃん」

「じゃあ優しさは?」

「それはただ受け取ってくれんのが一番嬉しい」

「ええやだもう無理いいいい」


ここまで我慢したけど無理だった。
こんなべったべたに甘やかされたら懐くなって方が無理だ。

一緒にやってるゲーム内でもスノーは紳士だ何だと言われてるんだけど実物がここまでとは思わなかった。
スノーのプライベートモード(柚希)がここまで凄いとは。


「柚希が嫌じゃなかったらさ、今度俺んち来てよ」

「え、逆に良いの?」

「うん。あ、でも遠いからめんどいか」

「そこまで遠くもなくない?」

「そ?じゃあ、日中は親もいないから気軽に遊びに来て」


気にしないなら泊っていってくれても全然いいけど、と言い掛けたけど流石に一気に距離を縮め過ぎだよなと思って止めといた。

ただ、柚希が泊まることになったら母親は間違いなく俺の誕生日以上に張り切った夕飯を出すに違いない。
それは癪だからもし泊まることになっても柚希がイケメンだと言うことは伏せておこう。
それが息子からのせめてもの抵抗だ。

後で絶対説教食らうけどな。


「今日の恩は次に会った時に返すからなんか考えといてください」

「そこは俺に投げるんだ」

「だって何がお礼になるか分かんないし」

「そう言うのって気持ちの問題じゃん?詩音が俺に何かしてくれることに意味があるんだから、形は何でも良いよ」


そうなのか。そう言うものなのか。
誰かに何かをしてあげること自体があまりないから知らなかった。

でも言われてみればそうだな。


「じゃあ考えとく」

「ありがと。楽しみにしてる」

「あ、期待はしないで」

「はいはい。詩音も無理しなくて良いから」


そう言って俺の頭をぽんぽんと撫でた柚希に誠にだらしない表情を見せてしまったんだけどそこはもう許して欲しい。
柚希様と呼びたいくらい懐いちゃってるから。
俺にはもう柚希が完璧な飼い主にしか見えてない。


また夜にオンラインで会えたら会おうねーって言って柚希と別れて、電車に揺られること十数分。
そこから家まで15分くらい歩かないといけないから俺としては結構な長旅をしてしまった感覚になっていたけど、このくらいの距離は一般的な感覚だと近い内に入るんだろうな。

俺的には徒歩圏内じゃないってだけで遠いと思っちゃう。
しかも夏だから余計にさ。

駅から家まで無事に辿り着けるか心配になったからちょっとコンビニ寄ってアイスでも買おうと思う。
出来るだけ日陰を歩きながら暑さと格闘していたら、ふと進行方向から歩いてくる二人組が目に入った。

多分ぱっと見からして美男美女だったから目に留まってしまったんだと思うんだけど、その男性の方がまさかの見覚えありまくりメンズで。

その二人がいい感じに笑い合いながらいい感じに寄り添って歩いていたから、なんか思わずくるっと回れ右をして逃げてしまっていたよね。

ちょっと自分でも何故逃げたのかが分からない。
普通に「あ、ちわっす」くらいの言葉を掛けてすれ違っちゃえば良かった場面だよね。
分かってるけど、なんか一瞬ぐわってなっちゃってさ。

とりあえず、逆方向に向かって歩いてしまったから適当な場所で歩道を横断してまた自宅に向けて歩き始めた。
こっち側は日向になっちゃってるからムカつくくらい暑かったけど、気付いたらコンビニに寄る間もなく家に到着してたから吃驚したよね。

考え事してたら時間が経つのはあっと言う間ってヤツ、マジなんだね。
いやまあそれくらい知ってたけど、今俺の胸に渦巻いている感情の正体は知らないからちょっと困ってる。

折角柚希とリアルでも仲良くなれてテンション上がってたのに、なんでこんな感じになっちゃってるんだろう。

ただ尊さんが女の人と歩いてるとこを見掛けただけなのに。

あの二人がどんな関係なのかとか別に俺に関係ないじゃんって思った後に、いやあの人俺に告白してんだから関係あるだろってなって。
俺のこと好きとか言っときながら女と一緒に歩いとるんかいってなって。

俺達は別に付き合ってる訳じゃないし、尊さんが休日にどこで誰と何をしていようと俺がとやかく言える権利なんてものはないんだけどさ。
あの告白はもしかして嘘だったの?とか思ったら、なんかちょっとガッカリしたって言うか。

まあ決めつけは良くないか。

良くないけど、朝あの人俺に『おはよ。今日何か予定ある?』ってメッセージ送ってきてたからな。
柚希と遊ぶ予定だったしいつ解散になるかも分からなかったから返信しなかったけど、予定を訊いてきたってことは何かしら俺とのやり取りを期待してたんかなって思うじゃん。

返信しなかった俺も悪いけど、俺が駄目なら別の人にいくんかいみたいな。
しかもそれが女性なんかいみたいな。

そんな感じでめちゃくちゃ心の狭いことを考え始めた自分が嫌になったから、そのまま尊さんには何も返信をせずに残りの半日をダラダラと過ごした。

ゲームもする気にならなかったから珍しく早寝しようとしたのに、そもそも今日なんで柚希と会ってたんだっけ?とか考え始めたら見事に目が冴えちゃったよね。
柚希とキスしちゃったことも忘れようとしたけど、まあ無理だったよね。

まあお陰で?
若干尊さんを責めてしまっていた自分を省みることは出来たから良かったと思うことにする。
俺は他人のこと言えないことしちゃってる。

とりあえず明日届く予定の荷物はアスカさんじゃなくて鳴海さんとこが配達してくれるヤツっぽいからちょっとだけ安心しました。
ってことは森野お兄さんに会っちゃうんじゃない?と気付いてしまったけどそっちは一先ずそっとしておくことにします。




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