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さてさて。
すっかり緊張も解れていい感じに打ち解けて参りましたが、ここからが本題です。

ただまあなんと言うか「あの件なんだけど…」と切り出すのもちょっと恥ずかしくてですね。
今の話の流れを利用して「俺のこの可憐さに男が寄って来るのかなあ…」とわざとらしくぼやいてみたら、柚希が案外真面目な声で「そうかもね」と返してきたからうってなった。

そこは正直言うと納得して欲しくなかった。


「ぶっちゃけどう思った?」

「何に対して?」

「んー。男同士のあれこれ?」

「それはまあ、好きになったらしょうがないよねとは思うよ」


ほう…柚希も寛容なタイプか…

確かに好きだと自覚してしまったら仕方ないと思えるかも知れない。
でもそれはあっちの三人の話であって、俺の場合はそれ以前の話って言うか。
そんな気持ちがないのにやることだけやれちゃってますって状況がどうなのかを俺は知りたい訳である。


「昨日は結構マイルドに話してたからさ、言ってなかったこともあるんだけど」

「え、うん。何?」

「まあその、キスはしちゃったって言ったじゃん?それぞれと」

「うん」

「それでその、キス自体に嫌悪感とかはなくて、寧ろこう…ね。そんな感じだったのよ」

「気持ち良かったってこと?」


こいつ、俺の言いたいことを瞬時に汲み取りやがった。
流石日々俺との会話で鍛えられているだけはあるな。

そのことに感心しつつ「まあ、そう」と答えると直ぐに「それで?」と続きを促された。
一回最後まで話を聞こうとしてくれるところも素晴らしい。


「それで。まあ、三人ともそうだったから、俺がおかしいのかなーみたいな。俺って誰とでもキス出来ちゃうのかなーみたいな」

「…成る程ね。ってことはもしかして、詩音は俺にキスしてみて欲しいとか思ってたりする?」

「えっ、すご。え、そこまで分かっちゃう?」


吃驚した勢いで正直に答えてしまった。
言った後にあっと思ったけど、柚希は特に嫌悪感を表すでもなく。
寧ろあっさりと「そう言う話なら良いよ」と重役を引き受けてくれたからこっちが拍子抜けしてしまう。


「え、いいの?俺とだよ?」

「今の流れで詩音以外の誰とすんの?」

「そうではなく」

「相談に乗るって言ったのは俺だし。ちゃんと最後まで責任取るよ」


そう言ってにこりと笑ってみせた柚希に危うく惚れそうになった。

いや、惚れるだろ今のは。
何それかっこいい案件だろ今のは。

断られなかったことにも拒絶されなかったことにも安心して「柚希が柚希で良かった」と漏らすと、二人の間にあった空間を埋めるように柚希がぴたりと身を寄せてきた。
そのままさらっと肩を抱き寄せられて「え、もう?いきなり?」と動揺する俺を見て柚希がふっと笑みを零す。


「まだしない」

「え?…じゃあこれ何?」

「軽いノリでやったところで検証にはならないと思って。俺とキスしてる、ってことを詩音がどう受け止めるかが答えになる訳じゃん?」

「ん?う、うん…」


分かったような、分かってないような。

曖昧な返事をした俺に柚希が「ちゃんと雰囲気作ってからしようってこと」と言って、もう片方の手を俺の頬に添えてくる。


「さっきのさ、俺が俺で良かったってどう言う意味?」

「え?ああ、それは…俺が知ってる柚希…って言うか、スノーのままだったから、良かったなって」

「どう良かったの?」

「どう…軽蔑されなかったから?」

「されると思ってたの?」

「まあ、多少は不安だったよ。なんか変な感じになって友達やめるとかになったら嫌だなとは思ってた」


茶化すシーンでもないと判断して真面目に答えたら、頬に添えられていた手が動いて俺の唇に柚希の親指が触れた。
びくっと身体を強張らせて困惑の眼差しを向けると、薄らと微笑む綺麗な顔がゆっくりと近付いてくる。


「キスした後に変な感じになるとは思わなかった?」

「……確かに」


言われて気付いた。
その場合の変な感じとは二種類くらいあると思うけど、そうなるかならないかはやってみないと判断出来ない。
でもそれを今ここで判断するのはちょっと違う…と言うか、怖いなと思ってしまった。

「やっぱりさ、」と考えを改めようとした俺に柚希が「駄目、もう遅い」と言って唇ではなく頬にキスをしてくる。


「どうなっても俺が詩音に嫌な反応をとることはないからそっちは安心して」

「え、なんで?」

「そんな脆い関係だと思ってないから」


そんなことでは俺達の関係は壊れない、と言うことか。
それを堂々と言ってのけた柚希に俺はちょっと感動してしまった。

そんなの、俺だってそう思ってるよ。
てかそんなこと言われたら、さっき怖いとか思っちゃった自分が情けなくなるじゃんか。


「このイケメンが」

「雰囲気壊すこと言わないで」

「褒めたのに」

「じゃあもっと可愛い言い方してよ」


そう言って笑いながら繰り返し頬に唇を押し当ててくる柚希に俺は内心困惑していた。

それも雰囲気作りの一環なんだろうか。
そんなものに意味があるのだろうか。

てか、可愛い言い方ってなんだ。
もっと可憐な感じで言えってこと?


「柚希くんったら、イケメンなんだから」


渾身の可憐さをぶつけてみたら「方向間違ってる」と苦笑された。

方向ってなんだよ。
今俺は自分がどっちに進んだのかも分かってないぞ。


「可愛いって何。分からん」

「詩音はそのままが一番可愛いと思う」

「そのままって何。さっきのも俺だよ。ありのままの俺だよ」

「そうだね。じゃあおふざけナシで言ってみて」


いや、さっきのだって別にふざけた訳じゃないし。
俺の可憐さを押し付けただけだし。

と思ったけど、普通に「柚希はイケメンだよ」と答えたら目の前の表情が嬉しそうに綻ぶ。


「俺がこの顔じゃなくてもキスしてみようかなって思えた?」

「え、うん。顔とか関係ない。そもそも知らなかったし」

「そっか。詩音のそう言うところ好きだわ」

「ありがとう」


「で、いつするの?」と訊いたら意地悪な表情で「そんなにしたい?」と返された。
それにちょっと刺激されたから同じくにやりと笑いながら「早く」と急かすと、柚希の表情に熱が生まれる。

もうするんだな、と思ったから目を閉じた。
それから2,3秒後、唇に温もりが触れたのを感じて、そっと目を開く。


「…嫌じゃない?」


静かに問われた質問に俺は小さく頷きを返した。

この瞬間に俺が結構誰とでもキス出来ちゃう男だと言うことが確定した訳なんですけども。

それで終わるかと思ったら直ぐにまた唇同士が触れ合ったからちょっと戸惑ってしまった。
そのせいで反応が遅れ、俺が抵抗しないのを良いことに柚希が唇を何度も俺のそこに押し当て始める。


「ん、おい、柚…」

「気持ち良いキスまでいかないと判断出来ないだろ」


そう言って唇を食べるようなキスをしてきた柚希に、俺は再び恐怖に似た感情を抱いてしまった。

その先に進んでは駄目だと誰かが…いや、俺の本能が叫んでいるような。
なんとなく駄目なことをしている気持ちになって目の前の身体を押し返そうとしたら、すかさず両腕で拘束するように抱き締められて唇をべろりと舐められた。




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あきゅろす。
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