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ピンポーンと鳴って目が覚めた。

枕元に投げていたスマホで時刻を確認したら13:23と表示されていた。
今日はめちゃくちゃ寝たっぽい。

もう一度鳴らされたインターホンに「はいはいはい」と答えながらベッドから抜け出して部屋を出る。
二階から返事したってどうせ聞こえないんだけどねーと思いつつ、階段を降りる途中で自分が上半身裸だと言うことに気付いた。
多分だけど寝ている間に脱いだんだと思う。

エアコンを付けて寝ていた筈なのに、夜中にオンラインゲームで盛り上がっていた熱が冷めていなかったんだろうか。
その辺は記憶がないから分からないけど、暑いなら普通下を脱ぐんじゃないの、俺。

なんてことを考えながらそのままの状態で玄関の鍵を開けてドアを押す。


「あ、今日は鳴海さんだった」


見慣れた青い制服を見てぽつりと漏らすと、目の前にいる森野(モリノ)さんの腕からすり抜けた段ボール箱が地面に向かって落下した。

あ、落ちる…と思ったけど、地面に衝突する前に何とかキャッチ出来たらしい。
「あっ…ぶなかったぁ…」と言って前屈みになったまま瞬きを繰り返している彼に「ナイスキャッチです」と言って拍手を送る。
その流れでついでに荷物を受け取ろうとしたら何故か拒まれてそのまま玄関の中に押し込まれた。


「お、わっ、え、今日なんかありました?」


手に持った段ボールで俺の身体を押してくる彼に「暑さにやられたとか?」と訊ねると、その目がキラッと光った…ように見えた。
「そう、多分そう」と返されて、それなら冷たいお茶でも出そうかと考えていたら、玄関に段ボールを置いた森野さんが俺の肩をガシッと掴む。


「詩音(シオン)くん、今日誕生日だよね?」

「え?あー、はい」


そう言えばそうだったと思いながらそのままそれを口にすると、呆れた顔で「忘れてたの?」と訊き返される。


「いや、夜中までは覚えてましたよ。寝た後は忘れてたみたいですけど」

「ふうん。それって、日付変わって誰かにお祝いして貰ったってこと?」

「です。顔も本名も知らない人達に、ぱーっと」

「何それどう言う知り合い?」

「今やってるオンラインゲームのフレンドですね。てか森野さん、なんか今日キャラ違いません?」


顔怖いですよ、と正直に言ってあげると森野さんが小さくぼそっと「誰のせいだよ…」と呟く。

誰のせいなんだろう?と考えながら目の前にある整ったお顔をここぞとばかりに拝見していたら、なんかそれが段々と近付いてきているような感じがして…


「…何で逃げないの?」

「え?…森野さんが、肩を掴んでるから?」

「じゃあこの手を放さなければ逃げないってことで良い?」

「んー。そもそも俺は何から逃げるべきなんでしょうか…?」

「それ、真面目に言ってる?」

「大真面目ですね」

「…そう」


詩音くんって馬鹿だよね、と聞こえた次の瞬間にはもう、俺の唇と彼の唇がナイストゥーミーチューされていた。

この時、ファーストキスに対して俺が抱いた感想は「うわ、柔らか」である。


「……森野…さん…」

「…何でそこで名前呼ぶかな」

「え……キスした後って、名前呼んだら駄目とかって決まりが…」

「ないよ。そんな決まりあると思う?」

「だって今、森野さんが…」

「また呼んだね。学習能力ゼロじゃん。知らないよ、もう」


何故か怒ったような声でそう言った後、再び森野さんの唇が俺の唇を塞いだ。
さっきは軽く触れただけだったのに、今度はなんかこう、まさに塞いでるって感じのやつ。

なんで俺の唇はこの人に食べられてるんだ?と疑問を抱きながら、ほぼゼロ距離にあるイケメンフェイスをまじまじと見つめる。
向こうも目を開けているからお互いに見つめ合っちゃってるんだけど、なんかこれ照れるな。

だってこんな距離でイケメンを拝むことなんてそうそうないじゃん。
めちゃくちゃ貴重じゃない?
森野さんレベルのイケメンって俺が知ってる中だとあと二人くらいしかいないし。

近所のおばちゃん達に会った時に「あーそう言えば俺この前、森野さんとちゅーしちゃったんですよねー」なんて言った日には多分ちりとりでぶん殴られると思う。
ほうきも持ってるのにちりとりの方でこられる気がするんだよね、なんとなく。

と、あながち外れてはいなさそうな想像を膨らませている内に、森野さんの手が肩から胸の辺りに移動していたようだ。

つん、と指先で突かれた場所はなんと、かの有名な乳首と言う場所で。
その拍子に「んっ…」と俺の口から漏れた誰かの声に、俺達は二人揃って驚きの反応を示した。


「え、今の誰の声ですか?」

「は?……照れてるの?」

「え?いや、照れてたのはさっき森野さんとちゅーしながら見つめ合ってた時ですね」

「…そうなんだ。ご丁寧に自己申告してくれてどうもありがとうって言いたいところだけど、危機感なさ過ぎて腹が立ってきちゃった」


とか言いつつ、全然怒ってるようには見えない表情で俺を見つめながらもう一度乳首をぴんっと弾いてきた彼に、俺の身体はどうかしちゃったのかってくらい大袈裟に揺れてしまった。


「感度抜群過ぎない?もしかして自分で弄ってる?」

「え…?いやいやいや。ちょっと俺がチクオナしてるところ想像してみてくださいよ。瀕死状態になるでしょ」

「良く分かってるね。なるよ。なるに決まってる。てかもうなってるから」

「…なってる、とは」

「毎晩のように詩音くんがチクオナしてるところを想像して俺の息子は昇天してるんだって言ったら分かる?」

「昇天しちゃったらそれはもう瀕死ではなくないですか?てか、…え?森野さんってチクオナとか息子とか言っちゃう人?」


彼の口からそんな単語が飛び出したことに驚いて興味津々に訊ねると「いい加減にして」と言われ乳首をれろりと舐められた。

いい加減にして欲しいのはこっちなんだけど、情けないことに俺はそれだけで腰を抜かしてしまったらしい。
奇声を上げた後にその場にへたり込んだ俺を見下ろす森野さんの目は、どう言う訳か人を殺せそうなくらいに鋭くなってしまっていた。


「あの…お気付きかと思うんですけど、乳首弄られると変な声が出るみたいなので止めて欲しいです。あと舐められたせいで腰抜けました」

「じゃあもっと舐めたらどうなると思う?」

「え?もっと舐めたら……」


どうなるんだろう。
そんな経験がないから全く分からない。
分からないけど、俺の本能がこれ以上は危険だと訴えていることは確かだ。


「えっと、とりあえず俺はこの荷物にサインをした方が良いと思うんですよね」


身体の横にある段ボールをぺしぺし叩きながら顔面に笑顔を貼り付けて訴えると、森野さんが静かに溜息を吐いた。




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あきゅろす。
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