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迷った末にコーラを注いで部屋に戻るとにこにこ顔の柚希がソファに座って待ち構えていた。


「え、この短時間で何かあった?」

「ん?何も?」


そう答えながら自分の隣をぽんぽんと叩いて着席を促してくるから、なんだなんだ?と違和感を抱きつつ彼の隣にそっと腰を下ろす。
コーラを飲みながら「いつも笑ってんの?」と訊いてみたらまたもや柚希は何も答えなかった。

その代わりに小さな紙袋をすっと差し出され、そのロゴを目にした途端にキラっと表情を輝かせた俺を見て彼がくすりと笑みを零す。


「まさか会えるとは思わなかったから、これしか用意出来なかったんだけど」

「っ…いや、これ、普通に高いやつじゃん」

「前に好きって言ってたの何となく覚えてて。数日遅れだけど改めて、誕生日おめでとう」


溶けてたらごめんと言って渡されたそれは俺が何かをめちゃくちゃ頑張った時のご褒美として自分に与えるちょっとお高めのチョコレートだった。

こう言うことが出来るからモテるんだろうなってしみじみ思う。
柚希は顔だけじゃない。内面も半端なくイケメンだ。

そっちは前から知ってたけど、でもここまでとは。


「ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい」

「なら良かった。あ、溶けてないか確認も兼ねて今食べる?ここ持ち込みOKだから」

「そうなの!?え!?食べれる!?今ここで!?」


あまりにもホットな情報に興奮してつい柚希の腕を掴んでしまった。
その時柚希の表情が一瞬止まって、それから直ぐ「ほんと好きだな」と言って笑った彼が俺の手をやんわり引き剥がしてすっと立ち上がる。


「コーラには合わないだろうから何か別の飲み物取ってきてあげるよ」

「えっ!いいよ自分で行く!」

「トイレ行こうと思ってたから大丈夫。ついでついで」


「何が良い?」と訊かれて咄嗟に「ミルクティー」と答えると柚希は「了解」と言ってそのまま部屋から出て行ってしまった。

えぇ、無理ぃ…柚希がイケメン過ぎてしんどいぃ…
こんなこと周りにやってたら漏れなく全員柚希っ子になっちゃうよ…
あいつ絶対クソほどモテるわ…

流石俺のオンライン親友だ。

謎の優越感を抱きながら、柚希がいない間に鑑賞だけしとこうと思ってチョコの入った箱を袋から取り出す。

俺はもうこの箱ですら愛おしいわ。
あの宝石のようなチョコレート達を閉じ込めているこのシックでゴージャスな箱だって、開ける時のわくわくを俺に与えてくれるんだから。

ありがとうございますと心の中で唱えながら箱をすりすりして、それからそっと蓋を開けてみる。
被せてある薄い紙をひらっと捲ると、それはもう輝かしい宝石達が綺麗に収められていてごくりと喉が鳴った。

た、食べたい…
でも柚希がいない間に一人で勝手に食べるのはよくない気がする…
なんかちょっと疚しいことをしてるような感じがするから戻ってくるまでここは待つべき…

ああでも食べたいぃ…!と葛藤を繰り返していたら柚希が戻ってきた。
姿を確認した途端「これ食べていい…!?」と伺うと「逆にまだ食べてなかったんだ」と苦笑されたから膝から崩れ落ちた…くらいの気持ちになった。


「ひ、一人で勝手に食べたら悪いかなと思って我慢してたのに…」

「え、それはごめん。でもそれ全部詩音のだよ」

「…そうだけど。全部俺のだけど。俺だけのものだけど」


でもなんかさ…といじけていたら隣にすっと腰を下ろした柚希が優しい表情で「もう食べていいよ」と言って頭をぽんぽんしてきた。

お陰で俺の中のイッヌ魂が叫びを上げたよね。

しっかり手を合わせて「いただきます」と挨拶をしてから、一番端のスタイリッシュなヤツを選んで舌の上に乗せる。
どんな味かなんて知ってるのに毎回初めて食べたみたいな感動をくれるのがマジで尊いと思うんだ。


「いつもそんな顔して食べてたんだ?」

「これでも外だから引き締めてる方」

「それで何割?」

「んー。7割?」

「じゃあちょっと10出してみて」


そう言って箱の中のチョコを一つ摘んだ柚希が俺の口の中にそれを放り込んできた。

この子ってばなんてことを。
残りはおうちでゆっくりじっくり味わおうと思っていたのに。


「柚希きゅんのばかぁ」

「うん?」

「ご褒美は少しずつ楽しむもんなんだよぉ」

「うんでも、これはご褒美じゃなくて誕生日プレゼントだから。あげた側としては目の前で美味しそうに食べて貰える方が嬉しいんだけどな」

「なぬ…そーゆーもん?」

「そーゆーもん。ほら、もう一個」


食べたいよね?って顔してまた一つ箱からチョコを摘んだ柚希の…いや、チョコの誘惑にしっかり負けてしまった俺。
あーんと開けた口の中に飛び込んできた上品な甘味を舌の上で転がすと表情どころか全身の筋肉まで弛緩していくようで、チョコのように溶けてしまった俺を見て柚希も嬉しそうに笑う。


「餌付けしてるみたい」

「そんなことしなくてももう懐きまくってるっつーの」

「ほんとに?」

「うん。まあ、柚希って言うよりスノーにだけど」


そう言えば結局ハンネの由来って何だったんだ?と思って訊ねたら俺より普通に凝った付け方してたからほえーってなった。
柚希のゲームIDは”snowdrop122”で122が彼の誕生日の1月22日からきていることは知っていたけど、snowdropの部分は花の名前らしい。
それが1月22日の誕生花ってヤツらしくて。

そんな花は当然知らないし、誕生花と言うものについても知識がない俺からしたらなんかオシャレな付け方してんなーってなった訳だ。


「俺にも誕生花ってヤツがあるの?」

「あるよ。見るサイトとかで違ったりするけどね」

「え。そんなテキトー?」

「テキトーって言うか…まあ、大体その時期に咲く花が選ばれてるらしいから。あと自分で選んでも良いっぽいよ」

「えー何それ俺も選びたい」


とりあえず最初に俺の誕生花とやらが何なのか調べてみよう。
早速スマホで検索してみると”マツバボタン”と言うこれまた聞いたことのない名前の花が出てきてなんじゃそれってなった。普通に牡丹しか知らん。


「花言葉は”無邪気”と”可憐”…まさに俺じゃないか…」

「はは。そうだな」

「あ、思ってないですね?」

「いや?ピッタリだと思うよ。でも可憐って言われて喜ぶんだ?」


若干笑いながらそう言われたから「え、可憐って褒め言葉じゃないの…」と思いながら可憐の意味を調べたら”いじらしいさま”とか”かわいらしいさま”とかって出てきたからあってなった。
あっ俺じゃねえわってなった。


「確かに可憐ではないな」

「そう?さっきもさらっと言ったけど詩音は可愛いと思うよ。それこそ無邪気な感じが」

「それも褒めてる?」

「褒めてる」

「ほう。じゃあまあ、良しとしてやってもいい」


素直に褒められる分には悪い気はしない。
それがイケメンとなると尚更だ。

自分好みの花を選んでやろうと思ったけど意外としっくりきたからマツバボタンを採用してやることにした。
暑さに強くて寒さに弱いってのは真逆だけどな。




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あきゅろす。
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